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僕の知らない事は結構多いようです

 僕は夢を見ているのだろうか。

 目の前には肉片と成り果てた化け物が転がっていて横には男が立っている。

 非現実的な出来事が二つ起こった。

 一つ目は人が化け物に変身したこと、二つ目はその化け物を人間が斬殺したこと。

 そして僕の隣にいる人は僕そっちのけで電話している。


「ああ、シズハか。戦闘は終了。少年も無事だまあ現状を理解出来ずに放心状態だが問題ないだろう。あと気になったんだがこの領域内でSランカーの隊員はいないか? ……いない? なんでって何か感じたんだよ。第六感ってやつだよ。ってかレインの野郎はまだ任務から帰ってきてないのか? ……そうか。ああ? 長電話はいけないよな。じゃ少年を送ったら戻るわ」


 どうやら僕をこの人が家まで送ってくれるらしい。


「ああすまんあと狼男の残骸の処理頼む。じゃあな」


 男は僕に手を差し伸べて僕の手を握る。

 出来れば女の子が良かったな。縁なんかないけど。


「さてこの残骸はうちの者が処理するからさっさとこの場からおさらばするぞ」


 手を引かれて歩く。

 独りで歩くより何か安心する。


「ねぇさっきの化け物は何なの?」


 ずっと気になっていたことを男に聞く。


「ああ、さっきの化け物は狼男だ。知ってるだろ?あの童話とかで出てくる狼男。少年が知ってる世界は優しいけど俺たちが知る世界は残酷さ」


 狼男……いたんだ。

 あと僕の知る世界は優しい? それは嘘だ。僕の事を知らないからそんな事が言えるんだ。


「そういえば自己紹介が遅れたな。俺は雨川惇弥二十四歳独身だ。趣味は釣りと将棋ちなみ将棋はクソ弱い。特技は永遠にゲップを出す事だ。まあ汚いからやらんがな」


「惇弥さん。そこまで言わなくていいと思う」


 はあ、さっきはかっこいい人だなって思ったのに残念イケメンじゃん。


「まあそれはいいとして俺は自己紹介したぞ改めて自己紹介してほしいな。さっきのは自己紹介には入らないだろうからな」


 ああそういえばそうだよね。

 ていうか普通僕から自己紹介するべきだよね。


「ごめんなさい。本当は僕から自己紹介するべきなのに。僕の名前は伊庭当麻小学校六年生」


 そして、何故か僕の家の前に着いた。

 不思議ではないけどむしろ必然だけどさ。僕、惇弥さんに家教えたっけ?教えてないのになんで分かったんだろう。

 惇弥さんはインターホンをポチっとなと効果音を自分で言って押した。

 家の中からお母さんの声がする。

  玄関の明かりがついてお母さんの人影が見えた。そしてドアが開いてお母さんが姿を現す。


「あら遅いと思ったら今帰ってきたのね……って隣にいるのは雨川君じゃないの!」


 え、お母さんと惇弥さん知り合い?どういうこと?


「ご無沙汰してます。慎司先生のことはお悔やみ申し上げます」


 え?は?また僕の思考は置いてきぼり。全くこの二人の会話の内容が理解出来ない。


「別にいいのよ慎司さんはきっと戻ってくるわなんで消えたかはわからないけどそのうちいつもの調子で戻ってくるわ。さっ。当麻も惇弥君も家に上がって上がって♪」


 お母さんが中へ入れと促す。

 惇弥さんは失礼しますと一言言って家に入った。

 お父さんは僕が物心ついて数ヶ月経ったときに失踪したと僕はお母さんから聞いた。でもお母さんは心配する事なくいつもニコニコしている。

 お父さんはいつも家にいなかった。

 どんな仕事をしているのか分からなかった、お母さんにもどんな仕事をしていたのか聞いてみたけどどうやらお母さんも知らないらしい。それでもお母さんは誰とも再婚せずお父さんの帰りを待っていた。

 ここまでの信頼関係は中々常人では築き上げる事は困難だと思う。

 まあそれも僕の私的な見解だからお母さんとうろ覚えなお父さんの関係はもしかしたら珍しくもないのかもしれない。


「当麻ちゃん。今日帰ってくるの遅かったわね。何かあったの?」


 お母さんが心配した顔で僕に聞いてきた。

 でも化け物を尾行して襲われて、そして惇弥

 さんに助けられたなんて言えないしなー。

 いきなりピンチだな……。

 そんな困った僕に助け舟を出してくれたのは惇弥さんだった。


「いやー。当麻君が俺の事を不審者だと思って尾行したんですよ。で俺が振り返って当麻君に何故尾行するのかって言ってまあ、そんなこんなでここに辿り着いたって感じです京子さん。それより京子さん。俺がお世話になってたときとあまり変わってないですね」


 惇弥さんがなんとなくそれっぽい話を造ってなんとか凌げ、僕の知らない昔話を話題に挙げた。

 おそらく僕が知らない、産まれて間もない頃の話かもしくは産まれる以前の事かも知れない。


「あらあら。お世辞はいいのよ。私だって歳は取るもの。変わらないなんて事はないわ。それよりも雨川君は随分と逞しくなったわね。ここに住んでいた時はあんなに可愛かったのにすっかり男らしくなっちゃって」


 とお母さんは惇弥さんの事をまるで我が子を見るような目で見つめていた。

 なぜ?


「そういえば当麻ちゃんには言ってなかったわね。雨川君はあなたが産まれて間もない頃にうちで居候してた子なのよ。だから面識があるの。いきなり慎司さんが「京子。俺な子供を拾ったんだ」って言ってきてね。慎司さんは普段から飄々としてた人だから私もそういうのには慣れてたのよ。でもあの時は私もびっくりしたわ」


 子供も拾ったって僕のお父さんは色々とぶっ飛んでた人なのか、もしかしたら僕も成長したらぶっ飛んだ性格になるのかな。

 嫌だな。

 まあ今の学校での環境とかから予想するとそんなぶっ飛んだ性格にはならないけどさ。

 でも血は水よりも濃しって言うからなったりして……やっぱりないな。


「京子さんそんな恥ずかしい話挙げないで下さいよ。まあ恥ずかしくもあるけど慎司先生に拾われた事はほんとに感謝の言葉しか出ません。それでは俺まだ仕事があるので早いですけどおいとまさせていただきますね」


 惇弥さんはそう言って立ち上がる。

 お母さんは残念そうに「でも仕方ないわよね」と僕と一緒に玄関まで見送った。


 そして、時刻は夜の十時になり僕は布団の中へと身体をうずめる。

 今日は色んな事があった。

 全ては僕の好奇心から始まった出来事。

 興味本位で不審者の後をつけたら実は狼男で死んじゃうって思ったら惇弥さんが助けてくれて。

 なんて日なんだろう。

 あんな、惇弥さんみたいになれたらどんなにかっこいいんだか。

 でも僕はあんな風にはなれない。

 なぜかって? それは僕が敗北者だから、諦めた人だから。

 惇弥さんはきっと色んな事を乗り越えてあんなかっこよくなったんだ。

 そう色んな困難を乗り越える才能……そして何より僕にはない精神の力があったから。

 僕にはない……いや、なくなった精神の強さ。

 ああ、まだ頭が理解出来てない。

 世界にはまだ謎が満ちていて僕が知らない事を惇弥さんは知っている。

 でもきっとその知らない世界に僕は踏み込んではいけないのだろう。

 頭では分かっている僕ごときがその世界に踏み込んではいけない事を。

 それでも心は、僕の深淵は知りたがっている。

 多分、これは僕の第六感で感じた事だけどおそらくお父さんの仕事の事も惇弥さんは知っている気がする。

 思考をフル回転で回しすぎたために疲れて眠くなってきた。

 今日は色んな事があり過ぎた。

 もう寝よう。

 僕は全ての思考をまぶたと同じように閉じて意識を深き森の中へと落とし迷い込ませた。

次回も不定期です、それでも間は空けないつもりです。

空けないの漢字合ってるかな。

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