第3章
王宮へ辿り着いたジーナは、みすぼらしい花嫁衣裳を無理矢理剥ぎ取られた。沐浴し、宮女たちの手で丹念に化粧を施され、綺羅を纏わされたのち、彼女は国王の前に引き摺り出された。
ジーナは王の前に出るなり、跪いて哀願した。
「お願いです、私を夫の許に帰して下さい。私は貧しいジプシーの娘、国王様には相応しくございません。どうかお慈悲でもって、私を帰して下さいますようお願い申し上げます・・・」
そう言うとジーナは、碧玉のような瞳から、はらはらと涙を零した。国王は、そのような彼女の様子を玉座の上からじっと見ていた。先ほどまでは素朴な花嫁衣裳に身を包み、清楚な美しさが際立つと思われたジーナだが、化粧を施し綺羅を纏った今、彼女はその時とはまた違う、上品だが妖艶な香気を漂わせていた。薄い衣装から微かに透けて見える彼女の肌は浅黒く艶やかに引き締まり、豊かな乳房の膨らみは、弧を描くように形の良い線を描いている。彼女のほっそりと括れたウエストから、豊かな腰と腿、小さな愛らしい膝に滑らかな脛、そしてきゅっと引き締まった細い足首に小鳥の頭のような踵にかけての曲線美は、妖艶にして神の被造物と呼ぶに相応しい神々しささえ具えていた。
この世のものとも思えぬほどの美女が、自分の前ではらはらと涙を流して何かを懇願するさまを見ると、国王は抑えがたい情欲がその身に湧き出すのを感じた。
「ならぬ」
国王はジーナに舐めるような視線を送りつつ言った。
「お前を所望したは、あくまでこの躬どもじゃ。そなたのような美しい娘に相応しいのは、卑しい虫けらのようなジプシーどもの許ではない。綺羅を纏い、美酒を楽しめ。そなたには高貴な暮らしこそが相応しいのだ。望みさえすれば、どのような宝も褒美として与えよう。そなたの幸せは、この王宮にある。私の妻妾の一人として、そなたはここで、何不自由なく暮らすのだ」
ジーナは答えた。
「怖れながら申し上げます。王様は高貴なお方、しかし、私の幸せはここにはございません。私のいるべき場所は、夫アーロンの元。夫は私にとって、如何なる綺羅宝石よりも貴いのです。どうかお慈悲をもって、私を夫の元へ帰して下さい」
穏やかだが厳然とした彼女の様子と、いかなる財宝よも夫を選ぶというその言葉に、国王は烈火のごとく激怒した。
「下手に出ればいい気になりおって、この卑しい雌狐めが。今夜おまえはわしのものになる、わしに背いてここから生きて帰ったものは一人としておらぬ。逆らうとお前も同じじゃ、よう覚えておれ!」
ジーナは、怒りで赤くなり、小刻みに身を震わせる国王を真っ直ぐに見詰めた。彼女の碧玉の目は、神々しいまでに澄んでいた。彼女は静かに言った。
「私は吟遊詩人アーロンの妻。他のどなたのものにもなりませぬ」
この言葉に怒りを抑えきれなくなった国王は、玉座から降りると、ジーナをその場に押し倒した。だが・・・・・・。
たった今まで国王を澄んだ力強い眼差しで見つめていたジーナの碧玉の瞳が、ふっとその光を失い、愛らしい唇の端から一筋の紅い血が流れた。王は狂わんばかりに激昂した。
「よくも、・・・よくこのわしを、愚弄してくれたな!国王であるこのわしを・・・」
国王は何度もそう叫び、まだ温かいジーナの体を、怒りに任せて殴打しながら何度も激しく陵辱した。その場にいた衛兵、妻妾は、目の前で繰り広げられるあまりの光景に、ある者は目を背け、ある者はそれすら出来ずに目を見張り、その場に凍りついたようになってしまった。
さんざんジーナの体を嬲ったあと、国王はそれを裸のままで城門の外へ捨てさせた。すっかり変わり果てた姿となり、無残に打ち捨てられたジーナの体は、もうすっかり温かさを失い、冷たい骸そのものであった。