始まりの話。
勇者と魔王は何故、生まれたのでしょうか。
勇者の役目は魔王を倒すこと、本当に?
1人の魔術師が全知の魔導書に訊ねた。
「勇者は本当に魔王を倒すのが役目なの?」と・・・―。
これは勇者達が魔王を倒しにいくより遥か昔の始まりにして終わりのお話。
昔々、全てを創りたもうた創造の精霊は人間と魔族を造り出した。
創造の精霊はたくさんの種族が楽しく暮らせる世界を夢見たのです。
しかし、世界は創造の精霊を裏切り人間と魔族は武器を手に、魔法を駆使し互いの血で血を洗う戦乱の世へとなっていったのです。
人魔を戦へ誘った感情は『恐怖』でした。
姿も考え方も力も技術も何もかもが違う彼らは理解できない物に対する恐怖心からお互いを排除するべく武器をとったのです。
精霊には理解できませんでした。
お互いを理解できない、という事実が全てを知る精霊にはわからなかったのです。
しかし、自分の造り出した物達がお互いに殺しあう様は精霊には耐えがたい苦痛でした。
だから精霊は自らの感情を切り離し世界には闇と光が生まれた。
どちらかの種族が根絶やしになるまで終わりがないかと人魔戦争。
しかしそれは1人の少女によって唐突に終わりをむかえる。
人魔戦争に向かった彼女の想い人を救うべく、少女は戦場を血で満たしながら駆ける。
彼女こそが全ての魔術師の原型であり、後の人々はこう呼ぶ。
始まりの魔術師と―。
少女はようやく見つけた想い人の名前を叫ぶ。
変わり果てた骸はその声に答えることはなかったけれども、少女は彼の側に膝をついた。
赦せなかった。
何もかも。
憎い、憎い、憎い、憎い!!
彼を殺した全てが憎い。
彼が何をしたというのか。
何故、彼が死ななければならなかったのか。
戦争が、人間が、魔族が、精霊が、彼を救えなかった自分自身が、全てが憎い。
少女の憎しみが声にならない絶望の叫びが少女の魔力を増大させ世界を引き裂き、魔族は光のない闇の世界へ、人間は死せし大地が荒涼と横たわる世界へ閉じ込めた。
少女の怒りは、憎しみはそれだけでにとどまらず、世界そのものを滅ぼさんと力を振るう。
その怒りに恐れをなしたのは創造の精霊が分かたれ生まれた光の精霊。
その怒りや憎悪はいつか自分を殺すかもしれない。
精霊は死を、消滅を恐れた。
少女の怒りを鎮めるために光の精霊は死んでしまった彼女の想い人を生き返らせました。
けれど、それは創造の精霊が犯してはならない禁忌だったのです。
精霊が犯した禁忌は魔族に最強の王、魔王を生み出し
少女が築いた世界の境界は綻び
魔界と人界を繋ぐ門は生まれたのだった。
魔王誕生に責任を感じた少年は魔王を倒すことを誓い、
自らの行動を後悔した少女は少年を助けるために二人は旅に出る。
終焉の勇者と始まりの魔術師。
二人の旅は魔王で終わる。
少年は知っていた。
少女は知らなかった。
魔王を倒したらどうなるのか。
対なる存在を失った潰えるはずだった命は限界を超えて狂い始め
少女は少年の命を自らの手で断ち切った。
少女は聞いてしまった。
闇の精霊が吐いた呪詛を。
自分達だけが虐げられ光のない世界にいなければならないのか。
魔王は必ず復活し、幾度でも憎き人間を倒すべく魔族を率いて進撃する、と。
少女は聞いた。
光の精霊が唄った祈りを。
勇者が、幾度でも魔王を倒し
やがて世界に光をもたらすでしょうと。
少女は悟った。
未来で何度も勇者と魔王は殺しあうのだと。
少女は願った。
私が彼のために戦ったように
遠い未来で生まれるであろう勇者達に力を貸してくれる仲間が現れますように、
彼らに幸せがありますようにと。
光の精霊は聞き届けた。
その願いを。
そして数百年の時の間
人間を見続けた光の精霊はいつしか人間になりたいと願うようになり
自らの器を幾度となく用意するようになるが
遥か昔の少女の願い、勇者達の幸せが光の精霊の願いを阻み続けている。
そして・・・
「片羽ちゃん、聞いて!!」
赤いリボンが頭上でピンと立ち緑色の高襟のコートが特徴的な少女が
本を読んでいたフリルやリボンをふんだんにあしらった豪奢なゴスロリとよばれる黒いワンピースを身にまとった片羽に嬉しそうに声をかける。
「なに、勇者?
とても嬉しそうだけど・・・」
読みかけの色褪せた深紅の革表紙の本を置き首をかしげてみせる。
「魔獣討伐クエストをもらったんだよー
これはもうさっくり倒すしかないでしょう!!」
だから早く一緒にいこう、と勇者と呼ばれた赤いリボンが特徴的な少女に手を引かれて、片羽は手早く片付けを済ませて仲間が待つ場所に向かう。
「ねぇ、勇者。」
「ん、なに片羽ちゃん?」
伺うような声に、普段こそ鈍く天然な勇者も立ち止まり、背後の片羽を振り返る。
「もし・・・、もし勇者が別の誰かにその肉体の器が欲しい。って言われたらどうする?」
「・・・片羽ちゃん、私を殺したいの?」
「いや、まさか。
いくら僕が死霊術師でもさすがに仲間を手にかけて手駒にしようなんて考えないよ。」
予想外の返答に、軽く笑った片羽が笑顔のまま勇者の疑問を否定する。
「よかったぁ・・・
でもそうだなぁ・・・
体を渡したら私は死んじゃうの?」
「・・・うん。勇者は死んで勇者じゃない人が勇者を名乗るの。」
「こわ・・・っ!!
無理無理、そんな死に方嫌だ!!」
さっくりと肯定する片羽に涙目で訴える勇者に片羽が満足げな笑みを浮かべる。
「それならいいや。
大丈夫、そんなことにはならないよ。
国家が誇る魔術師が三人もいるんだから。
脅かしてごめんね?」
いやぁぁ・・・と騒ぐ勇者に苦笑しながら謝る片羽に勇者が、怖いからそんなこと言わないでね!!と念を押した。
「・・・大丈夫、僕が守るから。
この命に代えても。」
「・・・片羽ちゃん何か言った?」
再び歩き出した勇者の背に呟いた片羽の言葉は誰にも聞き咎められることはなく、
「ほら、二人とも早くしないと置いていっちゃいますよ!」
「気のせいじゃない?
置いていかれたら先回りするから安心して、ライム!!」
「ちょっ、転んじゃうから、片羽ちゃん早いから!!」
白い魔術師が声を張り上げ、勇者と片羽を待っていた6人に笑みを見せた片羽が勇者の疑問をはぐらかして勇者の手を引いて走る。
勇者の情けない悲鳴が綺麗に晴れた青空に響き渡る。
まんけんRPGを読んだことがない方には訳のわからないお話だったと思います、すみません。
クライマックス直前の話を思いついたので短編として書かせていただきました。
とても楽しかったです。
ここまで付き合ってくださった皆さま、ありがとうございます。
ではまた、どこかでお会いしましょう。