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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第一章
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真意が見えません。

「リフィエはさ、俺のこと異性として扱ってくれてないよね? 俺、そんなに魅力ない?」


 私はすぐ近くにある綺麗な顔にうっかり見惚れながら、彼の放った言葉の意味を知ると、勢いよく首を横に振りつつも、思わず後ずさりしながら訊ね返した。


「何言ってるんですか? 状況を良く見てから言って下さい。あなたを見る女性たちの目はみんなうっとりしてますよ。私も魅力的だと思いますし」


 言いつつ、距離をとろうとさらに足を後ろへずらす。けれど、途中で腕をつかまれてしまい、それ以上は離れられなくなる。何て心臓に悪いことを、私は思わず非難の声を上げた。


「何で腕つかむんですか!」


「だって、リフィエが逃げるから……」


「逃げてません。会話するには距離感が不自然すぎるから少し離れようとしてるだけです!」


 ほとんど叫びに近いが、私は言った。勇者はそれでも離してくれず、なぜかますます距離を縮めようとしてくる。内心私は涙目状態だ。


 何なのだ、勇者は一体何が言いたいのだ。

 剣呑な目で観察するように見てないでちゃんと言って欲しい。


「別に近くても話せるよ。それより、今のセリフってさ、結局のところ一般論であってリフィエ個人の意見じゃないよね。俺が知りたいのはリフィエの意見なんだけど」


「……私の意見なんか知ってどうするんですか。大体、私は一生を神に捧げた身なんですよ? そんなこと考えたこともありません」


 そうだ、どうして突然そんなことを聞くのだろう。


 私は困りながら言った後、もしかしたら彼は自分に落ちない女が珍しいだけなのでは、と思った。それなら、この行為の説明もつく。


 一応、仲間たちとは肉体関係を結んではいないようだが、立ち寄った城や町では大抵歓待を受ける。その際には綺麗どころが呼ばれるのが普通だ。今まで散々良い男に言い寄られてきたと思われる美女ばかりが集められたのだが、そんな彼女たちですら、勇者を見ただけだけで一瞬にして虜になってしまう。


 私は同席した場で、一度ならずそうした女性と姿を消す勇者を見てきた。仲間たちは発狂寸前だったが、私は妙に心が冷えて行くのを感じただけだった。


 別にそういう女性に限らず、彼はほほ笑みひとつで女を落とすという技を会得している。


 しかし、私だけは落ちていない。だからあの朝の失敗にかこつけて添い寝役を要求したり、二人きりになると、そういうことを言ってからかうのではないだろうか。


 そんな遊びに付きあって平気でいられるほど、私の心は強くない。


 必死の思いで彼を睨みつける。


「でも、僧侶だって中には還俗して結婚した人もいるだろ。人間なんだから、完全には感情を捨てきれないはずだ。リフィエだって、少しはそういう気持ちが残っているだろう。だからさ、もしもという仮定でいいから教えてほしいんだけど」


「何度聞かれても答えは同じです。とても魅力的です……これで満足ですか?」


 絶対に流されてたまるものかという気持ちを込めて、やや低い声で答える。すると、彼はやや悲しそうな顔でため息をついた。


「全然満足じゃない。けど、まだダンジョン攻略の途中だし、助けを待ってる人がいるから、今のところはこのくらいにしておくよ」


「……え?」


 ほとんど一瞬の出来事だった。頬に柔らかくて温かいものが触れ、つづけて何やらぬるりとした感触がしたと思うと、目の前に舌を出して笑う勇者の顔があった。私は目を極限まで見開く。彼は「本当は口にしたいんだけど」と告げて腕を離すと、再び歩きだしてしまった。


 今、頬を舐められた?


 取り残された私は、頭が爆発しそうな思いで叫んだ。


「なにするんですかぁーっ!」


「別に大したことじゃないじゃん。質問に真面目に答えてくれないから、ちょっと意地悪してみただけだよ。さあ、先を急ごう」

 

 彼は爽やかな笑顔でのうのうと告げると、私の返事を待たずに歩きだす。置いていかれては困るので、慌てて後に続きながら、私はついつい神に向かって心境を吐露する。


(理不尽です理不尽です。何であんな女たらしがあんな綺麗な顔で、超人的能力を持って正義の味方をしながら人の心盗んでいくんですか? このままじゃ気がおかしくなりそうです! 早く彼にふさわしい方が現れればいいのに。そうすれば、この気持ちを遠慮なく忘れることに専念出来るのに!)


 周囲にどろどろとしたオーラをまき散らしつつ、私は頭の中でぐるぐる考える。


 そんなことを望んでもいないのに、彼が誰か他の女性と親しげにしているたびに呼吸が止まりそうになるのだ。けれど、同時に、叶わない思いなら早くとどめをさして欲しいとも思う。


 彼は一体全体私をどうしたいのだろう。本気で落としたいようにも見えないし、単にからかっているというには、やることが強引すぎる気もする。


 私はもう何度目か知れない嘆息をしつつ、自分の気持ちを確認する。彼が本当に愛せるひとが現れれば、少なくともこの思いに決着はつくのだろう。だが、そうなって欲しくない、誰のものでもないままでいて欲しいと願う自分もいる。


 矛盾した思いを抱えながら、私は勇者とはぐれないように必死に進む。


 胸に去来する様々な思いを、ひとつひとつ殺しながら。


 その出会いが、すぐ側まで迫ってきていることには全く気づかないまま……。



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