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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第十章
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ふたたび五人で



「ウェティーナの言う通り、ここから戻るのは大変でしょう。……確かに、少し足りないですが、私なら大丈夫です」


「だが、さっきの場所でお前空間浄化してたろう? あれをやると恐ろしく消耗すると言ってたじゃないか」


 サーミュの疑問はもっともだ。しかし、私は本当に平気だった。勇者が流れ出た力を戻してくれたため、わずかな疲労で済んでいる。それより、私は勇者の精神状態が気がかりだった。


 そっと彼の表情をうかがってみると、憔悴しているように思える。すると、ふいに目が合った。


「そうだよ、リフィエ……無理はしなくていいんだ。戻れば大神殿に掛けあって、強い僧侶をパーティに加えることもできる。

 俺は、仲間の誰かが死ぬようなことはだけは嫌だ」


 真っすぐに、私を射抜くように見てきた勇者の目は真剣そのものだった。勇者の声に、仲間たちも賛同する。

 けれど、私は頷かなかった。

 彼の言い方に引っかかるものを感じたからだ。


 ずっと気になっていた。ミルズの村にいる頃からどうして彼は自身を痛めつけるようなことをしながら進むのか。

 こうして会ってみて、理由がわかった気がした。


 私は、ひたと彼の目を見据えて問うた。


「……それでは、自分は死んでもいいと言っているように聞こえますが?」


「いや、そんなつもりは」


「そうでしょうか? 確かに死ぬつもりはなくても、誰かが危険になったのなら、身を呈してでも助けるつもりだったでしょう」


 静かに怒りをこめて言えば、勇者は口を閉ざしてしまった。サーミュはしばらく勇者の様子をうかがっていたが、小さく嘆息すると呆れたように言った。


「ユウマ、あたしたちの役目はお前の露払いだ。お前がひとりでも十二分に強いことは知ってる。それでも、多勢に無勢で、どうにもならなくなったときや、お前の知らないことを補うためにここにいる……守ってもらうためじゃない」


「そうですわ、支えるためにいるのに、足手まといになるのならわたくしはここで自害します」


 ウェティーナの物騒なセリフに、勇者のみならず仲間全員がぎょっとしたが、気持ちは同じだった。


 私は胸に手を当てる。

 そこがぎりぎりと締め付けられるように痛んだ。

 大事な存在である勇者を守らせてくれないことも問題だが、それよりも、彼にそう思わせてしまった自分が情けなかったのだ。


「そうだな、お前の役に立ちたくてここにいるのに、足手まといになるくらいなら、魔物や魔族と戦って死ぬさ。

 お前はあたしたちの覚悟を踏みにじるつもりなのか?」


 ツィーラがどこか剣呑なものを含んだ口調で問うと、勇者は戸惑った顔で何か言おうと口を開く。


「それは……だけど」


 彼が優しいことは知っていた。もちろん、私だけではなくこの仲間たち全員が知っていた。本当は、戦うことを好まないこともわかっていた。それでも、彼の力に頼るしか、この状況を改善できないのだ。だが、彼はまるで贖罪でもしているかのように戦う。私たちはそんな風に戦う彼をただ、支えたいと思うようになっていた。


 レフィセーレが現れて、彼の支えに私が必要ないと感じるまでは、離れがたかった。けれど、またしても彼はそれを失ったのだ。

 そして、ひとりで終わらせようとしている気がした。


 ――そんなことは許さない。


「これは私のわがままです。あなたがどれほど嫌がろうと、遠ざけようと、最後までお供します。

 もしもの場合は、身を呈してお守りします。

 大丈夫。私は強くなりました、レフィセーレ様にも匹敵するだけの力を身につける幸運に恵まれましたから……だから、この戦いはみんなで終わらせましょう」


 そう告げると、勇者は呆気にとられたように目を見開き、次いで恥ずかしそうに口元に拳をあてて横を向く。

 その様子に、仲間たちから自然と笑いがこぼれおちる。


「それなら、このまま天辺まで行くか?」


「そうですわね、リフィエがそこまで言うのでしたら。でも本当に大丈夫なんですの?」


 ウェティーナの質問のあと、私に視線が集まる。本当に大丈夫なのだが、以前のわたしのしょぼさを知っている仲間たちには、にわかには信じがたいのだろう。

 私ですら、ミロムに触れるまではこんなことになるとは思っていなかった。確かに、ヴェレクトとの戦いでそれらしい兆候はあったものの、あの時は死ぬ気だったからだとずっと思っていたのだ。


「大丈夫です。でも、それを証明すると消耗してしまいますし」


 どうしようかと首を傾げたところ、意外なところから助け船が来た。


「それなら俺が保証するよ。さっき暴走しかけたのを抑えたからわかるよ、リフィエは多分レフィセーレより上だ」


 驚いて勇者を見ると、まだ頬は赤かったが少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「そうですの、ユウマ様がおっしゃるのでしたらきっとそうなのですわね。ならリフィエ、よろしくお願いしますわね」


「はい」


 頷いて、私は改めて勇者を見た。彼は複雑な顔をしていた。


「どうかしましたか?」


 そう尋ねると、勇者はいや、と歯切れの悪い声を出した後で言った。


「リフィエの能力が上がったことはわかってる。みんなが俺のためを思ってくれてることもわかる。だけど本音を言うとやっぱり、誰かが死ぬのは怖いんだ」


 そう言った勇者は心の底から怯えているようだった。それは、初めて見る顔だった。私の知っている勇者は誰にでも優しくて、どこか自分をかえりみないひとだ。

 そして、誰かを特別に扱うこともほとんどなかった。


 ――やっぱり、レフィセーレ様のことが関係しているのかな?


 私はそう解釈した。彼は、二度と同じ思いをしたくないのだろう。もちろん、この仲間たちが勇者を裏切ることはないが、操られたり、最悪の場合は殺される可能性もある。

 そうなったら、私たちは彼から永遠に失われるのだ。


 神聖呪文でも、誰かを生き返らせることはできない。しかし、それは勇者も同じなのだ。ミロムの実が間に合わなかったのだから、彼も一度死んだらそこで終わりだ。


「でも、みんなの気持ちを変えることはできないのはわかったよ。だからさ、俺は俺で勝手にみんなを守るよ……その結果俺が死ぬかもしれなくても、この命は俺のものだ、勝手にする」


 そう言い切った勇者の顔は晴れ晴れとしていた。仲間たちはしばらく驚いたように互いの顔を見合わせていたが、やがて笑顔になると、まずツィーラが言った。


「よし、それじゃああたしたちはお前に迷惑かけないようにすればいいんだな。どれだけあたしたちが頼りになるか証明してやる」


「そうだな、その挑戦受けてたとう」


 サーミュがつづいた。私も頷く。正直なところ、動きが鈍いのは変わっていないので自信はなかった。けれど、それ以上に今持っている力をうまく使えば大丈夫だという確信もあった。


「私も以前とは違いますから」


「そうですわね、きっと大丈夫ですわ」


 私はおや、と思った。いつもなら真っ先に傲然としたセリフを吐きそうなウェティーナが、ひどく不安そうな顔をしていた。しかしそれも一瞬のことで、すぐにいつもの彼女に戻った。


「それじゃあ、いつまでもここにいても仕方ないな。休息がとれたなら出発しよう。まだ四滅将も残っていることだしな」


「そうですね。じゃあまずは……」


 サーミュの言葉に頷くと、私は神聖呪文を唱える。それにより、勇者たちの体のあちこちにこびりついていた魔素を完全に落としつつ、弱いものだが魔術防御の結界をまとわせる。


 あっさりとそれをやってのけた私を見て、四人は改めて別人でも見るかのような視線を向けてきた。私は突然注目され、どうしたらいいのかと戸惑ったものの、勇者の一声でそれから解放された。


「ありがとうリフィエ、それじゃあ行こう」




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