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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第一章
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呪われた町 一

 現在勇者パーティが旅しているのは、世界のなかで最も大きい大陸、ヴィガロスである。この大陸はブーメランのような形をしていた。アル=ラティーナ王国は、ヴィガロス大陸のほぼ中心近くに位置している。そのせいか、他国との交流が盛んであり、サフュラも交通の要衝として栄えている町だった。


 また、ヴィガロス大陸の東には、細長い列島があり、西には細かく散らしたような諸島国家が広がっている。


 それ以外にも陸地はあるが、人間やそれに類する種族が住んでいるのは主にその三か所だった。人がとても住めないような僻地には、エルフやスノーマン、リザードマン、ドワーフなどなどといった亜人種たちが暮らしている。


 ヴィガロス大陸には最北端と最南端、西側に広がる砂漠地帯をのぞいた全ての場所に四季があり、現在は秋。大陸各地では収穫祭が行われ、一年で最も心浮き立つ季節だ。


 しかし、そんな季節に暗い影を投げかけているのが魔族たちの存在だった。


 北の孤島に居を構えた魔王とその配下の魔族は、大陸を自分たちのものにするため、また暮らしやすい環境に変えるために、支配した土地を汚染しているのだ。土や水に「魔素」なるものを流し込み、土壌を人族に有害なものにしていくのである。


 これはつまり、魔素に汚染された場所には必ず魔族がいるということになる。


 そういう場所を見つけた場合、わたしはなるべく浄化しながら進むことにしている。だが、僧侶ひとりが行う浄化の効果などたかが知れており、効率が悪い。魔素を取り除くには、その元、つまりその土地を牛耳っている魔族を倒すのが一番手っ取り早かった。


 件のサフュラの町に近づくにつれ、禍々しい空気がただよいはじめる。魔素の持つ独特の雰囲気と匂いだった。


「これは確実にいるな」


 勇者がぼやく。私は最後尾でその声を聞いて、静かに気合いを入れた。他の三人も険しい顔をしている。少し前までは勇者にあれこれと話しかけたりしていた彼女たちも、魔族の存在を感じて気を引き締めたようだ。


「さて……倒すのは何とでもなるんだけど、見つけ出すのが大変なんだよなぁ。しかも、今回は町に潜伏してるっぽいし、出来るだけ町の人たちに被害が出ないようにしたいんだけど……王様とも約束したことだし、戦えない奴らが傷つくのはちょっとな」


 街道のずっと先。少しずつ見え始めてきた町を見ながら、勇者はつぶやく。


「大丈夫ですわ、わたくしたちも全力でサポートしますから」


「ああ、いつものように、早く済ませればいいのさ」


 ウェティーナとサーミュがつらそうな勇者になぐさめの言葉をかけた。すると、彼は「そうだよな」と笑ってみせる。その様子に、私だけでなく全員の心臓が締め付けられた(はず)。


 勇者一行は、歩調をゆるめずに進む。


 やがて、町が完全に姿を現すと、全員から深いため息がもれた。その町の上空は、魔素に汚された場所であることを告げる黒雲の下、完全に呪われていたからだ。



  ☆  ☆



 町に近づいても、本来なら必ずいるであろう警備兵の姿がない。それどころか、町の大通りにですら人っ子ひとりいなかった。私たちは声を失ったまま町へと足を踏み入れる。


 全く生気がない。生きたものが何一つない。私は思わず口を押さえながら言った。


「気持ち悪いですね」


「……ああ、これは相当レベルの高い魔族がいるな。にしても、町の人はどうなったんだ。手遅れとかじゃないといいんだが」


 勇者はあちこちに視線をさまよわせながら、腰の剣に手を置き、いつでも抜けるようにする。女戦士のサーミュや、女盗賊のツィーラも同じように武器をすぐ使えるように手を添え、精神を研ぎ澄ませ始めたのがわかる。


 赤レンガと洒落た破風を持った建物の間を進んでいくと、町の中心部に当たる広場に出る。かつては噴水は水を噴き上げ、花々が咲き乱れていたのだろうが、花壇には変色した土くれしかない。


 勇者はある場所で立ち止まった。教会だ。


 しかし、天使の飾りがあったであろう場所には、禍々しいガーゴイル像が置かれ、白い石で作られたはずの入口のアーチは、ぬめぬめと黒く光るもので完全に覆われていた。


「これは、怪しいですわね。ここにいると宣言しているようなものですわ……罠の匂いがいたします」


 ウェティーナがきつい目をして言う。


「けど、行ってみないことにはな」


 そう勇者が呟いた時だった。今まさに話題となっている教会から、ひとりの少女が飛び出して来たのだ。愛らしい容姿をしているが、少女らしからぬ格好だ。それは、道着と呼ばれる素手で戦う人々のまとう衣であり、少女が武闘家であることを示していた。


 しかし、少女はすでに傷ついて戦意を喪失しており、何かから逃げていることは明白だった。少女は怯えた目でまわりを見まわし、勇者を見つけると駆け寄ってきた。


「ああっ! 助けて……フィセル様がっ!」


 少女は必死の形相で懇願してくる。その声に勇者が答えようとしたとき、教会から二足歩行している植物の魔物が飛び出してきて、いきなり種を放った。


 凄まじい速度で、固い種が一直線に少女を目指す。


 しかし、種が少女に届くことはなく、細かな欠片となって散り砕けた。勇者の剣の一振りで、固い種が細切れにされたのだ。彼は種を放った魔物をその視界に入れると、素早く行動を開始した。



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