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謁見と依頼と買い出しと

 外でああでもないこうでもないと考えていたら、勇者たちが出てきた。周囲にまで火花を散らすハーレム要員の皆さまの姿はやはり目立つ。老若男女問わず大注目を浴びながら、私たちは王都の高台に立つお城を目指した。


 壮麗な白い壁と赤い屋根のお城へ辿りつくと、すぐに謁見の間へ通される。


 あまり大きなお城ではないので、謁見の間と言ってもそんなに広くはない。玉座にかけた王様との距離はかなり近かった。王様は痩せており、頬がこけていた。年齢は五十代くらいで、かぶった冠が何だかとても重そうに見えた。そんな王様の横には護衛兵が付き従い、発言などを書きとめる書記がおり、テーブルについてすぐにでも書きこみ開始出来そうにスタンバイしている。


 まず勇者がひざまずくと、パーティ全員が従った。


「勇者よ、顔を上げてくれ。良くぞ来てくれた」


「いいえ、それが仕事ですから。それで……ご依頼の内容は?」


「うむ、実はな、ここから北にしばらく行った山間にサフュラという町があるのだが、そこのようすがおかしいのだ。旅人や行商人も戻ってこず、軍も出したのだが戻って来ない。貴重な兵士を何度も送る訳にもいかぬので、ギルド経由で冒険者も送ったのだが、やはり戻って来ぬ。

 しばらくようすを見ることにしたのだが、ひと月ほど前、ここまで逃げてきた少年がいてな、彼の話でようやく原因が突き止められたのだ」


「つまり、魔族が関与していたという訳ですね」


 勇者が呼ばれたということはそういうことだ。


 勇者――ユウマに聞いた話だと、召喚されてしばらくはこの世界になじむために特訓をしたり、魔法の練習やアイテム類の使い方などを神殿で学んだそうなのだが、そのあとはひとりで弱い魔物を倒したり、魔族の攻撃や侵略を受けていた村などを救って歩くということをしていたのだそうだ。


 ようするに、これから始まる長い旅の予行演習である。


 勇者の役割は、魔王を倒すことだが、その過程で魔族に苦しめられている人々を救うのも、また大切な役目なのだ。苦しめられている人々についての話は、各国の王や、冒険者ギルドなどが拾い集めて勇者に伝えてくれるので、それを辿りながらあちこち旅をして、最終的には魔王を倒すという訳だ。


 ついこの間攻略した巨大建造物の中にある迷路でも、人々の魂を集めて闇に染めることで殺し合わせ、その恨みや悲しみ、怒りなどを闇のエネルギーに変えて食べるというろくでもない魔族がいた。そいつは一般人には手も足も出ない、ついでにわたしも出ないだろうトンデモな化け物だったのだが、勇者はあっさりさっくり倒してしまった。


 チートとは凄いものだ。そのせいで早めに帰ることが出来たため、酒盛りなんかをすることが決定してしまったのだ。少しくらい苦戦したほうが盛り上がるんじゃないか、などとたまに思う程に。


 それにしても、旅をはじめたばかりの頃はここまで頻繁に魔族と戦うことにはならなかったし、ダンジョン的な場所に行くこともなかったのだが、こう連続で依頼が来るということは、いよいよ魔王の城が近いのだろうか。それとも、魔族が力を増しているのだろうか。


 いずれわかるにしても、その頃には私はお払い箱になっていることだろう。


「そうだ。そなたには出来る限り早くその魔族を倒してもらいたいのだ」


「なるほど、わかりました。サフュラという町に行けばいいんですね」


「うむ。頼んだぞ……衛兵、あれを持て」


 王様が言うと、衛兵が木のトレイに布の袋を載せてやってきた。金貨だ。


「これを旅の資金とするが良い。それと、お前たちより少し先に、この話を聞きつけた名のある賢者が魔族討伐に向かったというから、力を借りるのも良いだろう。

 勇者よ……我が民の命を救ってやって欲しい」


「はい。確かに承りました。全力を尽くします」


 衛兵から金貨の袋を受け取った勇者は、立ちあがるとうやうやしく首をたれ、颯爽と謁見の間を後にしていく。もう慣れたものだった。私たちは彼のあとにつづいて城を出た。



  ☆  ☆



 それから城下町で、消耗アイテムと壊れたり汚れたりした武器防具の新調をすることに決まった。


「じゃあ私は消耗アイテムを買いに行ってきますね」


 勇者からお金を受け取り、いつものように店が並ぶ通りへ足を向けると、手をつかまれた。私は振り返って、勇者と怖い顔をした三人を見る。


「あのさ、ずっと聞きたいと思ってたんだけど、どうして一緒に買い物をしないんだ?」


「それは、その方が効率がいいですし、わたしは武器防具を新調する必要があまりないので」


 私が理由を述べると、サーミュが同意してきた。


「ユウマ、リフィエを武具屋につれて行くということは、あたしたちが用を済ませている間、ずっと彼女を待たせることになるんだぞ?」


 けれど、勇者はひどく不満そうだった。


「けど、俺はリフィエにも相談したいんだよ。たまには一緒に来てくれないか?」


 そう言って真っ直ぐに見詰めてくる。私は困窮した。すると、助け舟なのか邪魔者は排除したいのか、ツィーラとウェティーナが口々にそんなのかわいそうを連呼した。いいぞ、もっと言ってくれ。私も援護射撃した。


「相談ならまた今度聞きますよ。今日のところはいつもと同じでいいんじゃないでしょうか。明日出発なら、早めに用事を済ませてしまいたいですし」


「……でも」


「それじゃあ、行ってきます!」


 私は有無を言わせずに小走りに薬草を売っている店へと向かった。ちらり、と振り返ると、勇者は三人に引きずられるように武具屋へ連行されているところだった。相談したいことって何なのだろう。後でちゃんと聞いてあげようと思いながらも、私は内心ほっとしていた。


 これで、勇者と彼女たちのイチャイチャを見なくて済む。


 いくら頭ではわかっていても、好きなひとが他の女性と楽しげに話をしているのを見続けるのはつらいものがある。そこには私の居場所はない。いても、そっと無視されるだけだ。ないものとして扱われるくらいなら、別の用事でもこなしていたほうがいい。


 そう考えながら、私は薬草店の扉を開けた。



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