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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第二章
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険悪な朝

 まあ、それから勇者に話を聞いたところ、手心は一切加えていないと言われたので、私の運が悪かっただけだと納得した。


 運が悪いのは生まれつきで、特に重大な局面では貧乏くじを引くこと数多だ。少しでも運の悪さから逃れたくてラッキーアイテムを常に身につけているのだが、今のところそんなに効果はない。


 勇者の寝顔を見ながら、一緒に旅に出ても良いと考えた時には、すでに彼を好きになってしまっていたのだろうなと心の中で呟いた。けれど、聖女レフィセーレが仲間になることが決定した今、私が同行する意味はほとんどない。


 こうして、まだ若い彼の支えになることくらいの役にしか立っていない。それだって、いずれは必要なくなる時がくる。いつかその時がやって来て切り捨てられる前に、ここから離れたい。切実にそう思った。


 ――もう、寝なくちゃ。穏便にパーティを離脱する方法は、明日考えよう。


「……おやすみなさい」


 ひそめた声で言うと、勇者から少し離れて枕を仕切り代わりに置き、そっと目を閉じた。



  ☆  ☆



 翌朝、いつも通りに着替えてからこっそりと部屋を出ると階下へ向かった。そこにはすでにレフィセーレとエーミャがおり、私を見つけると立ち上がって近寄ってきた。


「おはよう、気持ちの良い朝ね」


「はい、おはようございます。あの、もう起きても大丈夫なんですか?」


 訊ねると、彼女ほほ笑んで頷く。


「ええ、ありがとう」


 それから良かったと言おうとした私の手を取り、真剣な顔で訊ねてきた。


「それより、貴女も聞いたと思うけれど、私、どうしてもあなたたちに同行したいと思うの。迷惑なのもわかっているわ、でも……もうひとりだけでは使命を果たせない。あの魔族に捕らわれて、その事が良くわかったわ。だからね、勇者様の力になることで使命を果たせるなら、そうしたいと思ったの。ねえ、あなたは許してくれる?」


「許すだなんてそんな、むしろレフィセーレ様が同行して下されば百人力ですよ」


 ひんやりとした彼女の手が、微かに震えていることを感じ取りながら私は答えた。同時に、胸中に浮かんだたくさんの思いは飲み込む。


「ああ、良かった。そう言ってもらうまで心配だったのよ、嬉しい。けど、他の皆さんはあんまり歓迎してくれそうにないわね」


「それは、そうだと思います。ライバルが増えるのが嫌だと思いますから」


「ライバル?」


 レフィセーレは不思議そうに首をかしげた。もしや、あの三人のけん制に気づいていないのではないだろうか。だとしたら後が怖い。一応、言っておいた方がいいだろうと思い、私は説明した。


「あの方々は全員勇者に恋しているんですよ。仲間に女性が加わるということは、それだけ勇者の関心が自分に向きにくくなるということですから、絶対に色良い返事は返ってこないと思いますよ」


 そう伝えると、彼女は煌めくエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いた。もの凄く驚いたようだ。


「そうだったの、だから昨日あんなに睨まれたのね」


「ええ、なので同行したいなら彼女たちの意見は気にせずに、勇者にだけ許可をとれば良いと思います。と言うか、私の予想だと絶対に彼女たちはいいって言いませんよ」


 さらに言えば、レフィセーレは残念そうに眉根を寄せる。どうやら、仲間たちにもちゃんと同行を認めて貰いたかったらしい。けれど、同行したいならそれしか方法がない。


 今までだって、仲間になろうとした猛者(ただし女性に限る)がいなかった訳ではないのだ。なのに、大神殿を出発してから全くメンバーは変わっていない。彼女たちが何をしたのかは私も知らないけれど、何かしたのは間違いなかった。


「ねえねえ、じゃあパーティに女の人しかいないのもそれと何か関係があるの?」


 エーミャが素朴な質問を投げてきた。私は笑顔のまま固まった。


 真実をどうやって説明したものか。そもそもは勇者の持つ能力のひとつだと説明すれば良いのだろうが、ハーレム体質とは何なのか、それをどうやって説明すれば良いのかわからない。

 あの三人だって、勇者がそんな謎の能力を持っていなければ、あそこまで気が触れたような行為に走ったりしないだろう。長く一緒にいるので、彼女たちが自分の思いに対して真っ直ぐで不器用なことは知っている。それがああいう過激な行動をとらせただけなのだ。

 とは言っても、彼女たちのしてきた行為は肯定出来るものではないが。


 私はあいまいに笑いながら答えた。


「そうなんだろうと思いますよ」


 エーミャは何だかもっと説明が欲しそうな顔をしたが、階段に勇者が現れて話は一旦中断された。彼は私の姿を見つけると、すぐに歩み寄ってきた。


「おはよう、今日は早かったね。聖女様とエーミャもおはよう」


「おはようございます。今リフィエに昨日の話をしていたんですけど、何だか他の方々はあまり私のことを歓迎してくれないのだそうですね。ですから、貴方の許可さえ頂ければ良いのだと」


 レフィセーレが言うと、勇者は気まずそうに笑った。


「だろうね、でもさ、彼女たちも根は可愛い人たちなんだ。一緒にいれば、誤解も解けるよ」


「はい。そう信じて接していきたいと思います。改めてよろしくお願いしますね」


 にっこりと笑ったレフィセーレに、勇者は困ったように目を反らした。何だか頬の辺りが赤いように見えるのは気のせいだろうか。

 私はため息交じりに階段に目をやる。

 見ていられない。

 すると、怒りにまなじりをつり上げた三対の目に気づく。思わずのどの奥から「う」とうめき声を漏らしてしまった。


 中でも、お姫様であるウェティーナの変貌ぶりが凄まじい。

 愛らしいふわふわとした容姿が魅力の彼女だったが、今はレフィセーレを絞め殺したそうに唇を噛んでいる、ように見える。そのうち髪の毛が動き出しそうな感じだ。


 彼女の気持ちは良くわかる。


 ウェティーナは非常に優れた魔法使いだ。すでに、大魔法使いと呼ばれてもおかしくないだけの能力がある。だが、レフィセーレはそれと同程度の魔法が使えるのだ。持っている術内容こそ微妙に異なるものの、十分脅威だろう。


『誰よりも、勇者の役に立つこと』


 それが三人にとって最も重要な事なのだ。

 レフィセーレが使うのははどちらかというと補助魔法が多いのだが、何しろ神聖呪文まであわせて使えるのである。パーティメンバーとしての存在意義が危ういことに違いはない。


 そんな剣呑な雰囲気に気づかずに、レフィセーレは丁寧にお辞儀をして三人を迎えた。


「皆さん、昨日はありがとうございました。今日からエーミャ共々、よろしくお願いしますね」


 全く汚れのない笑みが妙にまぶしい。三人は苛立ちを隠そうともせず、こちらへ歩いてくると、完全なる作り笑いで応えた。


「よろしくお願いしますわね。わたくしはウェティーナ、魔法で攻撃する役目ですの」

「あたしはサーミュ、見ての通りの戦士だ」

「盗賊のツィーラ、もう聖女じゃないんだから、盗みはダメとか言うなよ」


 三人がそれぞれ自己紹介をする。レフィセーレは笑顔で受け止めた。


「皆さん凄いんですね、このメンバーならきっと魔王を倒せそうです。私も微力ながら力になりたいので、もっと皆さんの事を教えて下さいませんか?」


 三人は返ってきた真っ白い言葉に複雑な表情を浮かべた。


 私は何となく彼女たちのやり取りを見ていたが、町長とその夫人が起きてきて勇者に声を掛けるのを見て、次に行くのはどこだろうなと考えた。出来れば、大きな神殿のあるところが良い。そこで大司教に相談するのだ。きっと、勇者を説得するために力を貸してくれるだろう。

 この仲間には、聖女レフィセーレが加わったのだし、これから先、もっともっと強い魔物や魔族が出てくることは想像に難くない。私がこの先同行しつづければ、そこで死という運命が待っているかもしれないのだ。


 ――神様、どうか次の依頼(クエスト)は神殿がある大きな街の近くになりますように。


 一生仕えると決めた主に、私は心から祈りを捧げた。



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