勇者ハーレムのご紹介
宿屋の下へ降りて行くと、ハーレム仲間の皆さんはすでに起きて勇者を待っていた。私は彼からなるべく距離をとりつつ、妙な目で見られないように少し遅れてからテーブルにつく。
「今朝は少し遅かったな。やっぱり昨日飲みすぎたんだろ」
そうハスキーな声で言ったのは女戦士のサーミュ。
私よりも濃い茶色の髪はかなりのくせ毛だが、それがかなりの魅力となっている。瞳は鋭く、赤茶色。肌はやや褐色がかっていて、健康的なお色気たっぷりのお姉さんといった感じ。
年齢は確か二十二。鎧姿の彼女はかなり露出が多く、すらりと伸びた剥き出しの手足がまぶしい。ついでに大きな胸もまぶしい。主力武器は片手剣と戦斧。女の身でよくあんなもの持ちあげられるなと関心して褒めたところ、どろどろした顔で自分を貶めた男を叩きのめした話を始められてしまったので、今ではその時の表情が私のトラウマになっている。あれは本当に怖かった。
「まあ、あたしも起きれるか自信なかったし、気にすんなよ」
爽やかに言ったのは女盗賊のツィーラ。
ハーフエルフという人とエルフの混血種族で、耳が尖っているのが特徴的。体型は私に良く似たものだけど、かなりのモデル体型。ものすごく綺麗な緑色の瞳に、やや青みがかった銀髪をショートカットに整えた美少女だ。
年齢は十八。主力武器はナイフ。時々敵からアイテムを盗み取り、立ちよった街では、忍び込んだ金持ちの家から何か失敬しては勇者に渡している。彼女のおかげで、旅の資金には困ったことがない。そんな彼女の悪癖は、血が好きだということ。戦いの様子は凄惨の一言に尽きる。ああ、コワイコワイ。
「そうですわ。少しくらい出発が遅れたとしても呪文があるのですもの、ゆっくり眠って欲しくて、わたくし、あえて起こさないことにしましたの」
そう穏やかな声で言ったのは、魔法使いのウェティーナ。
ふわふわした金髪の美少女だ。同じような金色の瞳は大きくて、とにかく全体的に甘甘した容姿。小柄で華奢で、おっとりとしているが戦闘となると炎系の呪文を盛大にまき散らして哄笑する。
そんな彼女は実は王女様。魔法の才能はもともとあったものの、勇者パーティにどうしても入りたくて猛特訓したのだという。そんなウェティーナには婚約者がいたのだそうだけれど、勇者こそ自分の運命の人であり「貴方なんかその辺に転がってるただの石ころじゃないの」よばわりして出てきたのだそうだ。
婚約者がかわいそうだと思ったけれど、そう言ったら焼き殺されそうだったので、本当ですねと返しておいた。性格に裏表がありすぎて、パーティメンバーの中では一番怖いと思うのだが、誰も同意してくれないのが不思議。摩訶不思議。
「はは、気を使わせちゃったみたいだね」
「別にいいさ、それより、リフィエも遅いとは珍しいな。昨日はあんたも飲みすぎてたみたいだけど、部屋に届けたあと何かあった訳じゃないよね?」
訊ねたのは女盗賊、ツィーラだ。目が笑っていない。私は笑いながら答える。
「そんな訳ないじゃないですか。大体、私昨日は酔い潰れていたんですよ。何か出来る状態ではありませんでした」
「それもそうだ。それに、リフィエはあたしたちとは違うんだ、僧侶としての使命感で一緒にいてくれるんだからそんな聞き方したら失礼だろうが」
「そっか、ごめんねリフィエ」
「いいえ、気にしていませんから」
いつもの笑顔で答えつつ、女戦士のサーミュが私をかばうことで株をあげ、さらにはさりげなく釘をさしてきたことに気づいていた。まあ、実際にその〝何か〟はあったわけなのだが、匂わせでもしたら殺される気がして、とりあえず手を組んで食前の祈りを捧げる。
それをきっかけとして皆で祈りを捧げて、ようやく食事が開始された。
今のところハーレム要員は上記の三人だけだが、私の予想だと彼女たちより実力があり、なおかつ美女美少女との出会いがあればきっともっと増えると思っている。
勇者は最初、男性の戦士や商人などを同行者として望んだらしいのだが、彼女たちを恐れた男性陣は寄ってこなくなってしまったのだそうだ。他にも、モテすぎる男の側にいたくないとか、腹が立つからとかいう理由もちらほらあると冒険者たちに仕事を斡旋しているギルドのお姉さんに聞いたことがある。
目の前のパンと野菜スープに、チーズが少々の食事をゆっくりととりながら、私は食事どき恒例の行事を黙って見つめた。行事とは何か。ようするに……。
「はい、あーんして下さいな、ユウマ様」
「いや、自分で食べるから」
「そう言わず、ほら、肉も食べるといい」
「それなら、あたしのとっておきのハムを出してやるから食べろ」
何とかして自分の手で勇者にものを食べさせたい彼女たちは、手に手に食べものを持って彼を取り囲んでいる。大変そうだなあ……。私はそれを見ないようにしながら、この後の予定について考えていたのだが、ふと勇者と目が合うと、今朝がたのシーンが頭によみがえって、スープを吹きそうになる。
「ん、風邪でも引いたのか? 昨日の夜、変な寝かたでもしたんじゃないのか。もし引いていたらうつるといけないから、ユウマからはしばらく離れていてくれ」
ツィーラが冷たく言う。私は「そうですね」と答えた。
「おい、そんな言い方はないだろ」
勇者がツィーラをたしなめると、彼女はすぐに悲しげにしおれてしまう。けれど、その目が出てけと言っているのを察したわたしは、小さく嘆息すると、早めに食事を終わらせて、食器の載ったトレーを宿屋のおかみさんに返しに行くと、そのまま荷物を持って立ちあがる。
後ろから勇者が呼び止める声がしたけど、聞こえない、聞こえない。
私は無視して外に出た。
現在、私たちがいるのは、アル=ラティーナ王国という小さな国だ。
城下町の朝はたくさんの人々でにぎわい、現在世界で起こっている恐ろしい出来事なんて全く感じさせない活気と明るさにあふれている。けれど、この国にも魔王の魔の手はのびてきていて、私たちは少し前に滞在した国王陛下から、友好国であるこの国を救って欲しいとの依頼を受けていた。
そんなわけで、今日は国王に謁見するのだ。出発は明日になるだろうから、必要なアイテムの買いだしは今日行うことになる。買い出しのときはパーティから離れていられるので、私は嬉しかった。
外で仲間たちが出てくるのをぼんやりと待ちながら、私はどうすればこの面倒くさい状況から逃れられるだろうかということばかり考えていた。