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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第二章
19/63

勇者との出会い~過去編 5~

 勇者と妙な約束を交わしてから三日が経った。彼は凄まじい速さで回復し、私は勇者というもののとんでもなさを改めて痛感した。


 回復した彼は、それまでが嘘のように戦いの際の容赦がなくなった。


 と言うのも、彼に頼まれて私も度々同行役にさせられたからだ。あまり自分の能力に自信が持てないので最初は断っていたのだが、懇願されて仕方なく近くの村や、ちょっとした廃墟や洞窟について行った。そこで、同じく同行した僧侶が「彼、変わったなあ」とぼやいたのでどこが変わったのか訊ねてみたら「前は魔物一匹殺すのすらためらっていたのに、全く迷わなくなった」という返事が返ってきた。


 私は驚きつつ、それでも勇者がむやみに殺そうとしていないのは見ていてわかった。必要な場合だけ、命を奪っている。それを見て、やはり彼はとても優しいのだなと確信した。


 気がつけば、早く彼が勇者の役目から解放されると良いのにと考えるようになっていた。


 やがて勇者もこちらの世界にかなり慣れた頃、旅立ちのために仲間を募集することが決定した。当然のことながら、私は立候補しないつもりだったのだが……。



  ☆  ☆


 

「リフィエは立候補するよね、俺勇者の権限で選んじゃおうかな」


 あれ以来、勇者は私が夕方休憩しているところへよく姿を現すようになった。そのせいか、同僚たちから突き刺さる視線が痛い。直接何かを言われない理由ならわかっている。これでも、一応は美人の部類に入るからだ。僧侶の道を志すと決めた時から恋愛は一生しないものと決めていたので、顔形に対してはこだわりを持たないよう気をつけ、最低限のことしかしていない。


 ちなみに、今は施療院の中にある休憩室でお茶を飲んでいるところだ。


「何言ってるんですか、私より能力のある人が同行すべきでしょう。私はここで無事を祈っていますよ」


 そう答えると、勇者は私の近くへ座り、頬杖をついて不満そうな顔を向けてくる。


「じゃあ約束はどうなるんだよ」


「もし見つけたら持って帰って来てくれればいいんですよ。まあ、魔王を倒さないと行けない場所だそうですから、終わってからでいいんじゃないですか」


 お茶をすすりながら私はのんびりと言う。別に、約束を守る気がない訳ではない。順序の問題だ。そう告げると、勇者は不意に目を細めた。それを見て、何だか嫌な予感がし、お茶を飲む手を止めて彼を見る。


「一緒に行ってくれないなら、約束は無効って事にするよ」


「ちょっと、何でそうなるんですか?」


「リフィエはあれだけ俺のこと心配してたのに、いざ旅に出ることになったらもういいんだろ。だったら俺がどこで野たれ死にしようが関係ないじゃないか。立候補すらしてくれないなんてさ」


「先ほど言ったこと聞いてましたか? 私程度の能力じゃかえって足手まといなんですよ」


 呆れて告げると、勇者は悲しげな顔をする。


「けど、立候補くらいしてくれてもさ……」


「ああ! わかりましたよ、立候補します。でも、選ばれるのは立候補した中で一番能力が高い僧侶ですから、私ということはあり得ませんからね」


 押されて進退極まった私は、ついそう言ってしまった。すると、勇者は楽しげな笑顔を浮かべる。その爽やかな笑顔に、何となく騙された気分になった。いや、罠にはめられたという方が正しいのだろうが、なぜか彼の腰骨部分に尻尾をみた気がした。


 ――何だか大きな犬になつかれた気分がする。


 内心そう思いながら彼を見ると、心から幸せそうな黒い目と目が合う。


「良かった、それじゃあリフィエは俺と一緒に行きたくなかった訳じゃないんだ」


「まあ、私ももっと能力が高くて役に立てるんだったら自分から立候補しましたけどね」


 私は苦笑気味に答えた。


 もちろん、行けるだけの力が自分にあれば本当にそうしていた。最初こそケンカから始まったものの、今ではすっかり弟が出来たような気分だ。出来れば、彼の役に立ちたい。けれど、私では役立たずどころか足手まといになる。自分の実力は、自分が一番わかっていた。


 だから、あえて立候補しなかったのだが、こんな風にすねられると、やはり可愛いと思ってしまう。なので、立候補することで彼が納得するのなら、そのくらいのことはしてあげよう、と決めた。


 旅立ってしまえば、こんな風に話をすることも相談されることもなくなってしまうのだから。


 それから、勇者はしばらく近況についてわたしとお喋りをすると部屋へと戻って行った。私はその日の業務を終えた後で、勇者のパーティメンバーを受け付けている事務所へ行き、申請を済ませてから、眠りについたのだった。


 

  ☆  ☆



 二週間後、勇者と共に魔王を倒しに行くメンバーが決定し、その日の午後に発表されることが決まったと通達があった。


 自分が選ばれているはずはないので、いつも通りに起床して仕事を始めようとして部屋を出たところで、事務仕事をしている僧侶に呼びとめられた。


「ああ、リフィエさんですね? おめでとうございます。勇者様のパーティメンバーにあなたが選ばれましたので、今日の午後までに司教館を訪ねて下さい。他のメンバーの方にもすでに声を掛けてありますので、先に顔合わせをお願いします。その後、式典用の広場で挨拶をしてもらうことになりますので」


「ちょっ、ちょっと待って下さい! あの、何かの冗談ですよね?」


「冗談? いいえ、きちんと正式に決定されたことです」


「そんな馬鹿な、だって私より遥かに優れた方々があんなにたくさんいるのに、どうしてですか?」


 思わず掴みかからんばかりの勢いで私は訊ねた。事務員は面食らった様子だったが、私の言葉に頷けるものがあったらしく、困ったように言った。


「その、実はですね、僧侶の立候補があなたひとりしかいなかったんですよ。いなかった、と言うよりは、立候補した方々が、後でそれを取り消しに来たんです。それも全員が……何だか、あのメンバーと旅する自信がないから、とか、殺されそうだからとか仰って」


 彼の述べた言葉に、私は顔を引きつらせた。


 実は、僧侶以外のメンバーは、選出されるまで大神殿のある街にとどまり、結果が出るまでは街を出ないようにと言われている。そのため、集まってきた強豪たちは自然と互いに顔を合わせることになる。また、宿が見つからなかった者には、大神殿が宿舎をひとつ提供しているため、僧侶たちと彼らが顔を合わせることもあるのだ。


 私は施療院で忙しくしていたから、あまり彼らの姿を見ることはなかったが、選出を前に、自信が粉砕されたとうなだれ、立候補を取り消して街を出る者が続出しているという話は聞いていた。


 ようするに、選ばれたのは猛者たちの自信を粉々に砕けるほど強烈な個性を持った者たちだという結論が出る。


 そして、私は選ばれてしまった。何も知らなかったゆえに……。


 ――いえ、もしかして勇者が手心を加えたなんてことも考えられる。


「わかりました、ごめんなさい詰め寄ったりして……ちょっと、頭を冷やしてきます」


 そう言うと、ふらふらと外に出た。すると、勇者が満面の笑顔でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。恐らく、話を聞いたのだろう。私はその姿を見て、肩を落としつつ、少なくとも勇者に必要とされていることだけが唯一の救いかもしれない、と思った。


 ――神聖呪文の勉強、死に物狂いでやらなきゃ。


 せめて、足手まといにだけはならないようになりたい。

 私はそう強く誓った。



  ☆  ☆



 その後すぐ、私はあの三人と出会うことになるのだが、その時のことはあまり思いだしたくない。



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