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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第二章
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勇者との出会い~過去編 2~

「私たちとは色々なものが異なってはいますが、彼らにも感情はあるとされています。伝わっている話の中には、彼らと人間の間に恋愛感情が芽生えたこともあるようですから」


 私はそう答えた。我ながら模範的な回答だと思う。本に書いてある通り、そのままの答え。勇者は「だよなあ」とため息交じりに言った。私は彼の憂鬱そうな顔に、嫌な予感を感じて言う。


「ですが、彼らは敵なのです。私たちの住む場所を奪おうとして攻撃してきているのですから、相手の事情を思っていたら、いくら強くても殺されてしまいますよ」


「分かってるよ」


 いや、わかっていないだろう。私は彼の表情から反発めいたものを読み取り、額に手を当ててため息をついた。目の前の青年が、なぜか急に幼く見える。


「……そんなにお辛いのなら、なぜ勇者の役目をお引き受けになったんです?」


「だって、困ってたみたいだし、俺なんかが役に立てるならまあいいかって思って」


「そんな理由で引き受けたのですか? しかも俺なんかって、自分の命が大切ではないのですか?」


 私は困惑気味に訊ねた。あまりにも投げやりな答えに、小さく怒りを覚えてもいたのだ。勇者の役割はそんなに甘いものではないし、何より、自身の命に対する態度が気に入らない。すると、彼はどこか自嘲するように答えた。


「別に、俺が死んだって誰も悲しまないよ。ここでも向こうでも、皆が俺のまわりに集まって来るのはこの容姿と持ってるものが凄いからってだけさ。真っ向から向き合ってくれた人がいなかった訳じゃないけど……そういう人とは上手くいかなかったし」


「そんな訳……」


「あるんだよ。幸せに生きてきたお姉さんにはわからないだろうけどさ。もういい……話を聞いてくれてありがとう。でも、もう話しかけないで欲しい」


 彼はそう言って剣を手に立ちあがると、驚きで身動きのとれない私の前からさっさと立ち去ってしまった。最後に向けられた目は、ひどく冷めたもので、思い返すと心臓に氷の刃を突きたてられたような気分がした。


「……戻ろう」


 何の役にも立てず、むしろ傷つけてしまった。私にはそのことが痛かった。彼は二度と話しかけるなと言ったけれど、せめて謝るくらいはさせて欲しい。しかし、すぐに話しかけては迷惑になるだろう。しばらくして、何かの機会があればその時に謝ろう……私は彼の去った方向を見てから、自分の暮らす部屋がある建物へと足を向けた。



  ☆  ☆



 それから十日ほどたった昼過ぎのこと。


 やや曇りの空からは、今にも雨粒が落ちてきそうだった。私は時々あの日のことを思い出し、どう謝ろうかと考えながらも、忙しく働いていた。ただ、同僚たちが勇者の話をすると、それとなく逃げた。彼女たちを見ていると、彼が皮肉っぽく言った言葉がよみがえるからだ。


 ――容姿だけ……か。


 彼は、ありのままの自分を見て欲しかったのだろうか? けれど、向き合ってくれた人はいるという。それなのに、上手くいかなかった。それは、どうしてそうなったのだろう?


 私は頭を横に振った。もう関わらないで欲しい、と言われたのに、いつまでも同じことばかり考えている自分が嫌だ。気持ちを切り替えなくては、そう言い聞かせて、大神殿の近くにある図書館へと向かう。今日の午後は神聖呪文を学ぶ予定だった。


 だが、その途中で大神殿の敷地内にある転送陣がまばゆく輝き、二人の僧侶が若者を肩で支え、慌てて施療院へ向かうのを見てしまった。また、大けがをした人が運ばれたのだろうかと思って視線で彼らを追いかける。そして、気づいた。


 支えられた若者は、勇者だった。


「……どうして?」


 思わず口から疑問がこぼれおちる。


 勇者はこの世界に来る際に、様々な能力を与えられ、元々持っていた力は最も高められる。神聖呪文の力の源である「神」によって、究極に祝福された存在。それが勇者だ。


 すぐにそれが使いこなせるようになる訳ではないが、彼は肉体的に強靭なだけでなく、癒しの神聖呪文、魔法も使うことが出来る能力は持っている。今は、そんな体に慣れるために、周囲の小村やダンジョンに導き手である高位の僧侶たちとともに向かっては、魔族退治をしていた。


 だというのに、なぜ彼があんな大けがを? しかも、側にいた僧侶たちでは治せないような傷を負うなんて、何があったというのだろう。


 行っても何もできないし、声も掛けられないことはわかっている。無駄だ、後で何があったか、どうなったかだけ聞けばいいと、心の声も言っている。けれど、足はそれを無視して、思わず施療院へと駆けだしてしまっていた。


 ――何でもいい、何か出来ることがあれば……!


 そんな思いで、私は走った。神聖呪文を学ぶ予定は頭から吹き飛んでしまっていた。



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