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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第二章
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添い寝役は健在でした。

「あ、あの……話って何ですか?」


 部屋に引き込まれてすぐに私は訊ねた。彼は声をひそめて、肩をすくめてみせる。


「口実だよ口実。あの場でただ連れてきたら誤解されるだろうからさ。俺だってバラしてせっかくの安眠を奪われたくないし」


「ああ、そういうことですか」


 もしかしたらダンジョンで二人きりになったときに聞かれたことを追及されるかもしれない、などと考えてしまった自分が恥ずかしい。もちろん、それだけでなく、レフィセーレのことについても聞かれるのでは、と考えていたのだ。


 ふと、自分が見た勇者の表情がただの幻だったようにすら感じる。


 ――そんな訳ないのに、彼はきっとレフィセーレ様に惹かれ始めてるはず……。


「そうそう、という訳で今日は疲れたからさっさと寝よう」


 そう言うと、勇者はさっさと装備を外して楽な格好になり、ベッドに横になる。私はその姿を見てため息をつきながら、一番上に着ている重たいローブを脱いで、髪をまとめた。


「ため息なんかついてどうしたんだ? リフィエも疲れたのか? まあ、今日は色々と盛りだくさんだったからな。ああ、そうだ、リフィエは聖女様が同行しても構わないんだよな?」


「あ、はい。彼女の力は私なんか足もとにも及ばない程ですから、同行して頂けば心強いですよ。しかも、とてもいい方ですから……でも、彼女がいるなら私が同行する必要はなくなりますね。だから、その話を聞いたとき、そろそろ神殿に戻るべきかなと思ったんです。私じゃ、皆さんの足手まといでしたから」


 私はもしかしたらこれで、結ばれることはない人の側で過ごさなくてはならない日々から解放されるかもしれない、と思いながら苦笑気味に彼の質問に答えた。そして、身支度を整えて振り向いた瞬間、ベッドに押し倒され、そのまま覆いかぶさるように抱きしめられる。


 頭の中が真っ白になり、押し戻すことも出来ずにそのまま体を強張らせていると、頭頂部につけられた口から勇者がつぶやく。


「足手まといなんかじゃない、それに、夜一緒に過ごしてくれる人がいなくなったら、俺があまり眠れなくなるじゃないか」


 彼の声には強い非難が込められていた。怒っているように聞こえる。


 このまま致されてしまっても抵抗できない体勢に、私の心臓は爆発寸前かと思うほど激しく打つ。もうこのまま、最後まで行っても構わないような気がした。そうすれば、私は神聖呪文を使う力をなくしてしまうけれど、パーティから離れる口実に出来るだろう。


 添い寝役が私の理由はなんとなくわかっている。勇者はパーティ内の不和が嫌なのだろう。


 あの三人の内誰かひとりでも選べばもめることは必定だろうし、レフィセーレに淡い思いを抱いたとしても、彼女の方がどう思っているかはわからない。それに、レフィセーレは聖女なのだ。こんなことを簡単に頼めるような人物ではない。


 エーミャに至っては犯罪になってしまう。


 私しかいない。


「そうですね……いつか本当に隣で眠って欲しいひとが現れるまで、側にいますよ」


 そう告げると、彼は私の上からどいてベッドの上に座り込むと、不貞腐れた顔で言った。


「そんな人、現れるかどうかわからないだろ」


 私は曖昧に笑って、体を移動させると彼の言葉には答えずに言った。


「もう寝ますね。疲れましたから」


 勇者は私の言葉を聞くと、小さく頷いて横になり、ろうそくの火を消した。暗がりの中、しばらくじっとしていると、規則的な寝息が響き始める。もう、眠ったのだろうか?


 私はうっすらと目を開けると、横目で隣に眠る顔を見る。月光に映し出された青白い姿は、ひどく安心したようで、胸がじくりと痛んだ。自分で言ったことに、自分で傷ついていたのだ。自分の内心をさとられたくなくて、言ってしまったのだが、返ってきた反応は予想と違っていた。


 彼にとって、ここでの唯一の友人と呼べるのがわたしだ。だから、離れて行って欲しくないのだ。だけど、私の感情は友情ではないから、つらかった。


 この食い違いは、きっと出会った頃からはじまっている。


 まだ大神殿にいた頃に、召喚された勇者と出会ったのだが、その時はまさか恋愛感情に悩まされるとは思っておらず、私は彼に相談役として使って欲しいと言った。

 その頃の勇者は、どことなく思い詰めたようなところがあったからだ。

 昼間見た光景を思い返しながら、彼が変わってしまったことについて思いをはせる。最初、ここに召喚されて呆然としていた勇者は、今とは真逆だった。


 何となくその時のことを思い返す。

 今日、あまりにも色々なことが起こりすぎたせいか、目が冴えてなかなか眠れそうになかった。思考は自然と、最も穏やかだった頃の記憶をよみがえらせはじめる。

 こんなことをしていてはだめだ、あと少しで夜が開けてしまう。眠らなければ、と思えば思うほど眠れない。寝つきの良い勇者を羨みながら、私は過去を思い出した。


 それは、今から約二年ほど前のこと。


 最初に彼を目にした時は、これほどの感情を抱くことなるなんて、て全く思ってもいなかった……。


 

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