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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第二章
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参加宣言

 彼らの吐く息はだいぶ酒臭い。しかも、目が据わっているところを見ると、相当飲んだものと思われる。やがて勇者が入って来て、言った。


「聖女様……ですね。はじめまして、俺はフジシロ・ユウマと言います」


「こちらこそはじめまして。レフィセーレです……と言っても、もうリフィエから聞いて知っているとは思いますが。この度は助けて頂いてありがとうございます」


 レフィセーレはそう言って、静かに頭を下げた。勇者は慌てて顔を左右に振りながら言った。


「そんなことはありません、俺は当然のことをしたまでですから」


「いいえ、本来ならばあなたの役目は私がしなければならないことでした。だと言うのに、別世界で別の人生を歩んでいたあなたを勝手にも呼びつけてこのような戦いに巻き込まなくてはならなかったのですから、当然のことなどではありません」


 憂いに満ちた瞳で勇者を見つめながら言うレフィセーレ。交わされる眼差しに、何か通じ合うものを感じた私は、いたたまれなくって目を反らした。

 すると、誰かに袖を引っ張られた。

 見るとそれはウェティーナで、思いつめたような表情で私を見ている。彼女は小さく息をついて、ムリヤリ感満点の笑顔を浮かべると言った。


「ユウマ様、わたくし眠くなってしまいました。聖女様には明日きちんとご挨拶させて頂きますから、失礼いたします。それに、リフィエもきっと付き添いでお疲れでしょうから、今日はわたくしと一緒に休んで頂きますね」


「えっ? ……ああ、わかった。おやすみ」


 勇者はそう言うと、どこか不満そうな顔つきで私をじろりと見やってから、またレフィセーレへと視線を戻した。彼が何に対して怒っているのかはわかったが、どうしてそこまで不満な顔をするのかは理解できなかった。

 私はウェティーナに引きずられるようにして部屋を出ると、その直前にツィーラとサーミュが笑ったのを見た気がして、背すじが冷えた。


 やがて、ウェティーナにあてがわれた部屋の前まで来ると、彼女はやおら私の肩を強い力で掴んで訊ねてきた。


「聞きましたわ、貴女……あの忌々し……いえ、ゴホンッ、その、聖女様とお知り合いなんですってね」


「え、ええ。まあ、と言っても、一度お世話したことがある程度ですけど」


「そう、じゃあ聞くわ。聖女様の過去とか弱点とかご存じじゃないかしら?」


 のどの奥からくつくつと笑い声をもらしながら訊ねてくるウェティーナの様子は尋常じゃなかった。それに、他の二人の様子もおかしかった気がする。

 私はもしや、今までにない強力なライバルの登場に、三人が一時的に手を組んだのではないだろうか、と勘ぐってしまう。


「あの、それを知ってどうするつもりなんですか?」


「決まってますわ、排除するの……勇者パーティの回復役はあなただけで結構よ。いいえ、むしろ貴女と最後まで旅したいわ。だからね、邪魔なの。きっと聖女様はわたくしたちに同行したいと仰られるはずですもの、その前に弱みをちらつかせて自分から断って頂くのよ」


「で、でも、能力的にはレフィセーレ様のほうがずっと優れて……」


「だからよ! あの方はあなたとわたくし、ふたりぶんの能力を持っているんですのよ? このままではわたくしたち双方ともに用済みにされてしまいますわ!」


 悲鳴に近い声を上げながら、ウェティーナより一層強い力で私の肩をつかんでくる。


 ――痛い痛い痛い! ちょっ、爪を立てないで欲しいんですけど!


 私は痛みから涙目になりながら答えた。


「勇者様はそんなことしませんよ、皆で賑やかに行けばいいじゃないですか。それに、私は彼女の弱点なんてわかりません!」


 そう言うと、後ろから腕を掴まれた。首だけで振り向くと、そこにはサーミュの顔があった。すぐ近くにはツィーラもいる。ウェティーナは驚いたのか肩から手を離してくれる。――ああ、助かった。


「おふたりとも、どうしたんですの……? ユウマ様は」


「聖女がエーミャと三人だけで話したいと言ったから仕方なく、ね。まあ、ふたりきりではないし、深刻な様子だったから承諾したんだよ」


 もの凄く不服そうに、なおかつ不安げにサーミュは答えた。


「もう、間に合いそうにありませんわね」


 彼女たちの沈痛な様子に、ウェティーナは何かを察したのかそう呟いた。女が四人も寄り集まっていると言うのに、誰も何もしゃべらない。気まずい沈黙だけが流れて行く。


 全員が黙りこくっているため、何かを言いだせそうにない。何か無難な話題をと思い、皆疲れているから眠った方が良いのでは、とか、詳しい話は休んでからの方が良いかも、と何度か言おうとしては、雰囲気に押し負けてしまう。


 やがて、かなりの時間が経った頃、小さな足音がして、廊下を見慣れた姿が歩いて来た。勇者だ。いつもであれば抱きつくために飛び出していく三人が、表情を強張らせ、今にも叫びだしそうな顔をしているのを見て、私は慌てた。


「あ、あの! レフィセーレ様とは何をお話になったんですか?」


「うん。あのさ……ここまでこの五人でやってきたし、この先も特に困ることはないと思う。けど、あんな風に頼まれたらやっぱり断れない」


 勇者にしてはやや歯切れの悪い言い方だ。私は彼の言いたいことを察して、先を促した。


「それで、何を頼まれたんですか?」


「彼女たちも俺たちと一緒に旅をしたいそうだ。俺としては、特に構わないと思っているんだけど、一応皆の意見も聞くって言ってきちゃったから……返事は別に急がないけど、この町を発つまでには決めて欲しいんだ」


 私は――ああ、やはりと思って三人の顔を見る。彼女たちの表情が、私の心境と恐ろしいほどに重なる。皆、嫌だと言っているのがわかった。けれど、勇者は疲れたようすで「さて」と言うと、私の腕をつかんで言った。


「じゃあいい加減疲れたから寝るよ。おやすみ……でも、リフィエにはちょっと話があるから、少しだけ付き合ってよ」


 彼は大きく欠伸をしながら言うと、そのまま私を引きずって行く。私は大混乱した頭で、三人の突き刺さる視線に向けて首を左右に振りつつ、勇者に用意された部屋へと引きずり込まれた。



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