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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第一章
11/63

予想通り勝利しました。

 何がそんなに楽しいのか、ひとしきり「フハハハハ」と笑いつづけた後、茨魔族はぴたりと笑い止み、今度は手もとのレバーを引いた。何かが稼働する音がして、またゴンドラが「うぃーん」と言いながら下りてくる。


「……いつの時代の結婚式だよ。もうバブルは終わったってーのに」


 またしても勇者がよくわからないことを呟く。勇者の元いた世界では、結婚式にああいうものを使用するのだろうか。だとしたら、何と恥ずかしいことをするのだろうと私は思った。


 下りてきたゴンドラの中にあったのは鋼鉄製とおぼしき檻で、閉じ込められていたのは幼い少年と若い娘だった。見たところ姉弟のようだ。彼らのそばには例の植物の魔物が控え、今すぐにでも命を奪い去ることが出来そうだ。その表情は一様に青ざめている。


「芸がないな」


 ぽつり、と呟いた勇者は無表情だった。


「ふははは! こいつらは町長の子どもだ、お前らが何かすればこいつらを殺す。どうだ、手も足も出まい。だがそれだけではないぞ、我を殺せばこの地下迷宮が崩れ、町が崩壊するのだ。さあ、我の前にひざまずくが良い!」


 私は茨魔族が放った言葉にがく然とした。そうか、だからレフィセーレは魔族を完全に消滅させることが出来ずに捕らわれてしまったのか。私は指が白くなるほど杖を強く握りしめる。魔族のこういうやり方はこの旅の途中何度も見てきたけれど、やはり吐き気がした。


「そうか、わかった」


 勇者があっさりと言った。彼を囲む三人が色めき立ち、エーミャも驚いてこちらを見る。そのまま足を折り、地面に膝をついてしまった。魔族がそれを見てひと際高い哄笑を上げる。


「やめろユウマ! そんなことしたってあいつは町を崩壊させるつもりだぞ!」


 ツィーラが勇者の腕にとりすがり、何とか立たせようとする。他の二人も追従して、似たようなことを言いながら立たせようとする。だが、彼は一言「黙ってろ」と告げると、地面に両のてのひらをつけて、口の中で小さく何かを唱えた。


 すると、魔族の乗ったゴンドラに異変が起こる。金属部分がうごめきだし、やがて針状に変化しだしたのだ。それは魔族を覆うように広がり、どこぞの拷問器具のようになっていく。


「へ、うわっ! 何だ……どうなっているんだ?」


 慌てる声。それに続いて子どもたちの乗った方にも変化が起こり始める。やはり金属部分が変形し、地面へ向けて長く伸び出したのだ。それが地面に突き刺さると、今度はゆっくりと縮み始める。そうしている間に檻も変形し、ぐにゃりとたわむと、ぼろぼろになって崩れ去ってしまった。


 彼らはしばらく茫然としていたが、やがて解放されたことを知ると、私たちの方へと歩み寄ってきた。男の子はまっすぐに私のところへ来たので、私は女の子も手招きした。が、またしても彼女の目が勇者に釘づけになっているのを見て、何だかぐったりする。


 女の子はしばらくそうしていたが、エーミャが「危ないから」と言いつつ下がらせると、我に返ったようにこちらへやってきた。


 そうしている間に、魔族の乗ったゴンドラが凄まじい勢いで落下してくる。私たちは距離をとり、勇者が立ちあがって剣を引き抜くのを眺めた。思わず、のどがごくりと鳴る。


 足もとの敷き石が盛大に破壊され、私は飛び散った破片が子どもたちに当たらないよう結界を張った。やがて衝撃が収まると、金属の檻に閉じ込められた魔族に、勇者が剣を突きつけて笑いかけているのが見える。


「さぁて、それじゃあまずは町の人たちを解放してもらおうかな」


「わ、わ、わ我を殺せば町が滅ぶぞ?」


「うん、だから殺すとは言ってないだろ。ただ、痛い目にあってもらうだけだから……ああ、妙な素ぶりを見せたらまずその手と喉から使えないようにするんで」


 言いつつ、剣の腹でぴたぴたと頬を叩く。私は思わずぞっとした。昔、会ったばかりの頃の彼の面影が綺麗に消えていく。まだ魔物一匹しとめることすら躊躇っていた勇者はもういないのだ。


「……我が、我が人間ごときに、こうなったら全て道連れにしてくれるわ!」


 魔族が叫び、赤い石のはまった指輪を壁に叩きつけた。それが地下迷宮を崩壊させるための起爆装置だったらしい。――が、なにも起こらない。固唾を飲んで、身を固くしてみたが、やはり何も起こらない。


「ああ、実はさっき地の精霊に呼び掛けて、迷宮に仕掛けられていた爆発物は全て不発にしてもらったから、逆らっても意味ないよ。けど、この水晶の解呪だけは出来なかったんだ。

 というわけで、殺されたくなかったらよろしくな」


 魔族の顔に、ぴしりとヒビが入った。私はその圧倒的な力に呆れながらも、とりあえず全てが済んでほっとした。魔族はうなだれて、静かに解呪の言葉を口にする。


 少しして、青白い光が一段と強くなり、水晶が少しずつ割れ始める。その水晶は実体がないものらしく、淡く輝きながら雪のように溶け去ってしまう。子どもたちを破片から守る必要はないとわかると、私は結界を解いて、その様子を見守った。


 やがて、完全に水晶が消え去ると、封じられていたレフィセーレの身体がぐらりとかしいで落ちてきた。勇者は腕を差し伸べて、その肢体を優しく抱きとめる。


「……っ」


 うめき声を上げたのは、サーミュだった。私も含めて、皆苦しそうな表情で、その光景を見つめる。それは、私たちにとって拷問に等しい光景だった。


 淡く輝きながら降り注ぐ水晶のかけらの下、腕に聖女を抱く勇者。


 沈黙が降り積もる。そして、聖女レフィセーレがゆるゆるとまぶたを開いた。



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