4話
ちょっと日付が空きました。
主人公最強物語、ではないはず。
振り下ろされる一撃をケフィスは半歩下がって避ける。
避けられたリドルはさらに踏み込み、木剣を繰り出す──が、またも避けられる。
剣筋は良い、とか決して言えないが、速い。これで技術さえ身に付けば危ないな、とケフィスは思う。
リドルの剣は相手を打ち負かすための剣というよりは生き残るための剣だ。まぁ、あの森の魔獣を考えると当然とも言えるだろうが。
冒険者であるケフィスにとっては正しいが、技術というより本能で振っている剣。怖くは無い。
フェイントもない実直な剣を横に避け、ケフィスは一歩踏み込む。
剣の間合いから拳の間合いにされたリドルは思わず一歩下がる。
ケフィスは体勢を崩したリドルに迫り、その胸に手を当てた。
そのまま左足で地面を蹴り、その衝撃をそのままリドルの胸に叩き込む。
リドルは吹き飛ばされる、がダメージはそうないはずだ。
もっとも打撃を加えるより、であってダメージがないわけではないのだが。
「リドル、何度も言っているだろう? 攻撃が大振りすぎるんだ」
「そんな事言っても・・・」
リドルはディスティルに向かう途中にケフィスから剣術を習っていた。
村でも大人達から習ってはいたが、剣を使用しているといっても剣術というより体術と言ったほうが近いだろう。
型とかは教えてもらえず、ほぼ実戦形式での訓練だった。
村ではそれなりに戦えるほうではあったが、未だケフィスに一撃を入れる事は出来ない。
何故か村での訓練と違ってケフィスの動きが分かり難いのだ。
リドルが村で実践をやった時や村の狩りに参加したは、大なり小なり相手の動きが読めた。それに合わせて戦っていたのだから今ケフィスとやっている訓練は非常にやりにくいものであった。
「ケフィス・・・兄さんの動きがおかしいんだよ」
「いやおかしいってお前・・・・・・。とりあえずもっと動きを小さくして当てる事を目指したほうがいいぞ。お前は力はあるからな。当てれば大振りじゃなくても倒せる可能性はある。まぁ、今日の実践訓練はここまでだ。教えた型で素振りしておけよ?」
「了解」
ケフィスはそのまま野営の準備をする。
リドルの育った村を出てから約一週間といったところだろうか。目的地のディスティルまでは後数日。
その間の移動中は勉学、そして野営時は剣術の訓練。あと数日しかない。
リドルは物覚えがいいが、それでも数日では教えられる事は少ないだろう。
それでも教えなければいけない事はある。この一週間の旅路で嫌でも気付いてしまったリドルの異常さを。
リドルは強い。
技術が、ではなく身体能力がである。
それはあの村で特殊な訓練を積んだのか、それともあの森の魔獣に鍛えられたのか分からないが。
しかしそれは筋力的な問題ではないように見える。
見た目には線の細い12歳の少年なのだ。
おそらく魔力的、魔術的要素なのだろうがその方面に疎いケフィスには正確な理由は分からない。
過保護な村の連中がかけた加護というのが一番有力かな、とは思ったが。
とにかく、ディスティルに着いて何か問題を起こしてからじゃ拙い。
そんな事を考えケフィスは野営の準備をしていた。
夕食が終わった後、ケフィスはリドルを連れて野営地近くにあった木の麓まで来る。
「さて、リドル。寝る前の訓練をする前に一つだけ教えておかなければならない事がある。まずはこの木を全力で殴れるか?」
「全力で? いいけど」
そう言ってリドルは木から離れる。やはり普通ではない。普通は素手で木を全力で殴る、という行為はしないだろう。
少し離れたリドルはそのまま全力で木に向かって駆け出すし拳を振りかぶり──轟音が森に響いた。
「まぁ、想像通りというか。手、痛くないか?」
「そりゃ痛いけど」
多少赤くなった手を振り答えるリドル。
さすがに木は折れていないが、リドルの拳の形はしっかり残っている。
「リドル、とりあえず教えておこう。仮に俺が同じ力でこの木を叩いたら腕は折れるだろうな」
「え?」
「もっとも、そんな力はないが。お前の力は異常だ。全力を出すのはやめておいたほうがいい」
「でも・・・・・・」
「でも、じゃない。原因は俺にも分からんが、おそらく魔術的な何かだとは思うんだが。学園行って魔術を学べばそれも分かると思う。頼むからそれまで全力を出さないでくれ」
「・・・・・・わかった」
異分子は尊敬されるか叩かれるかどちらかである。
後ろ盾のない新入生が異常ともいえる力を持っていたらまず叩かれるだろう。
──隠し通せるとも思わないが
ケフィスはそう思うと、ばれた時のためのフォローを考える。
常にリドルの側に入れるわけではないのだ。リドルを信じるしかない。
今は出来ることをやるしかないのだから。