3話
話の区切りが難しい。
誤字脱字報告はかなり喜ばれます。
ケフィスの言ったとおり、村には翌日の夕方に到着した。今日はこの村で夕食をとる予定だ。
訪れた村はリドルの暮らしていた村と大きな違いはなかった。
リドルは違和感を感じたが、自分の暮らしていた村と比べて違和感を感じるのは当たり前の事だろうと納得した。
ケフィスは村長にあいさつし、仕事をしてくると言ってリドルを置いて行ってしまった。
どうもこの村も外とはあまり交流がなく、ケフィスのような旅人は珍しいらしい。仕事というのもまた行商人みたいな事なんだろう、と考えていた。
リドルはとりあえず観光する場所もないだろうと判断し、ケフィスに教えてもらった宿で待っている。
宿と言っても食堂が本業で、滅多に来ない旅人のために二階を客室として利用しているような場所であったが。
「あら、初めて見るお客さんね。あなたがケフィスさんの弟さんかな?」
一階の食堂部分で待っていたリドルに、見知らぬ女が声をかけてきた。
歳は10代半ばといったところだろうか。人当たりの良さそうな笑顔をしている。
ケフィスの名前を出してきた、という事は知り合いなんだろうか。
とりあえずケフィスの弟──という事になってるので肯定しておく。もっとも、相手も知ってて声を掛けているんだろうが。
「いきなりごめんね。私はイルナ。ここの一人娘なの。よろしくね」
「うん、よろしく。俺はリドル。兄さんと一緒に旅をしているんだ」
「さっきお父さんから聞いたわ。一泊してディスティルに戻るって事も。暇してるように見えたけどお話聞かせて欲しいな?」
「お話・・・・・・?」
「ええ、そうね。ディスティルの話とか旅の話とか。旅の人って珍しいから」
──これは拙い。数日前に村を出たばっかりなのにディスティルの事なんて知っているわけもない。知っているのは学院と冒険者ギルドがある事くらいだ。
何を話すべきか迷っていると、食堂の奥からタイミング良く声がかかる。
「イルナー! 話なら後にして手伝ってくれ!」
「わかったー。ごめんねリドル君。また後で聞かせてね?」
「う、うん」
イルナは呼ばれて食堂の奥に消えていく。
──助かった。
そう思わずにはいられない、が多分夕食後にまた話をしにくるんだろう。それまでにケフィスが戻って来てくれればいいんだが。
とりあえず、間に合わなかった時のために本で読んだ事で無難な話を作れないか頭を悩ませる。
最悪、夕飯後に準備があるからと言って部屋に戻ればなんとかなるかな、とも考えるリドルであった。
「そりゃ災難だったな」
話を聞いてケフィスは笑った。
夕飯前に戻ってきて、今はリドルと一緒に食事をしている。
「笑い事じゃないよ。村の事を黙っておけと言ったのケフィスじゃないか」
「まぁな。ま、そのへんは俺が話をしておくから心配するな。イルナも悪気があったわけじゃないしな。それに”兄さん”だろ?」
「分かってるよ兄さん。そういえば仕事って何かあったの?」
「あそこでの仕事とそんなに変わらないよ。外から仕入れてきた物を売ったりな。あとは・・・・・・手紙とかだな」
「手紙?」
「あぁ。場所が場所だからな。手紙の配達ってのも冒険者への依頼のうちなんだ。まぁ依頼料が安いから何かのついでに受けるのが一般的だが」
なるほど、たしかに合理的ではある。
「けど受ける人がいなかったらどうなるのそれ?」
「一定期間だれも受けなければギルドの人間が配達する事になってるな」
納得したリドルは食事を再開した。とは言っても、量が多く食べられるか不安ではあるが。
その事をケフィスに伝えると無理しても食べろ、と言われたので頑張って食べる事にする。村のだれよりも食べれたのに、外では通用しないみたいだった。
ケフィスの知識は豊富だ。聞いておいて間違いはないだろう。
「ケフィスさん、リドル君。どうかな?」
食事している彼らの元にイルナが話しかけてきた。ケフィスは手をとめてそれに返す。
「あぁ、美味しいよ。イルナも手伝ったんだろ?」
「うん! その煮込みとか自信作なの」
「これイルナが作ったのか。どおりで美味しいと思った」
「お世辞言っても駄目だよ? ね、リドル君どうかな」
「兄さんの言うとおり美味しいよ」
そうリドルが答えると、嬉しそうにイルナは笑う。それをみたケフィスは苦笑した。
「やっぱ歳の近い男の答えのが嬉しいのかね?」
「そんなんじゃないってば! それよりさっきの話なんだけど」
慌てて話題を変えるイルナ。これは嫁探しすぐに終わるんじゃないか、とケフィスは思う。
「ディスティルの話ならリドルより俺のが詳しいぞ? やっぱリドルの事が・・・・・・」
「だから違うってば! ほら。学院の事とか聞けたらいいなぁって」
ケフィスは納得した。イルナが聞きたいのは多分学園内部の事だろう。
たしかイルナの妹が今期から学院に入っているはずだ。リドルが学園に入ってるかもしれない、と考え聞いてみたのだろう。
「残念ながらまだリドルは学院に入っていないんだ。ただ、今年から入るから妹さんにも会う可能性はあるな」
「そっか。あ、ケフィスさん。手紙って・・・・・・」
「あぁ、イルナ充ての手紙ならあったよ。村長に預けてあるから取りに行くといい」
「ありがとう!」
そう言い残してイルナは食堂から出て行く。よほど待ち遠しかったのだろう。
「イルナに妹いたんだ」
「あぁ。なにやら才能があるとかで学園に入る事になったらしい。詳しい話は知らんが名前はレニだったかな。向こうで会ったらよろしく言っておくのもいいかもしれんな」
「会ったらそうするよ」
とりあえず、二人は残った夕飯を片付けるため手を動かした。