2話
誤字脱字報告は喜びます。
4/02 誤字修正 メインキャラクターの名前間違えるとか泣きたい
4/08 学園→学院に修正
「実はな、俺は行商人ではないんだ」
そう言ったケフィス。
村で入手できない物を持ってきたり、逆に村から何か買っている彼。
今リドルが持っている護身用の剣も、リドルが勉強してきた本も彼から買ったものだ。
そんなケフィスが自分が行商人ではないという。
──嘘をついてまで自分を連れて行きたくないのだろうか?
そんな疑問を持ったリドルにケフィスは続ける。
「たしかに、あの村では行商人みたいな事をやってはいるがな、本職ではないんだよ。俺の本職は冒険者なんだ」
「冒険者?」
「あぁ。あの村での取引も、ギルドで依頼があった品の売買なんだよ」
ケフィスはリドルに冒険者、冒険者ギルドについて簡単に説明する。
ある程度の規模以上の町には冒険者ギルドという物が存在する事。
そこで仕事(依頼)を請け負い、それをこなす人達は冒険者と呼ばれるいう事。
ケフィスはその冒険者ギルドに所属しそれで生計をたてているという事。
そして──ケフィスはそのギルドで危険な仕事も多く受けているためリドルを連れて歩く事は出来ないという事──
「というわけですまないがリドル。お前を連れて歩く事は出来ないが…」
ケフィスは落ち込んだリドルの頭に手を置き続ける。
「別にお前をどこかそのへんの村に置いて行く、という事ではないよ。そこまで俺は薄情者じゃない。それにそんな事をしたら次にあの村に行った時に俺がどんな目に会うか想像するだけで恐ろしい。あの連中を見てるとお前が愛されてるのがよくわかるからな。」
「でも連れてってはくれないんだよね?」
「あぁ、常に連れて行く事は出来ない。そこでだ、俺に提案があるんだが……リドル。お前、学院って興味はないか?」
「学院って貴族とかそういう人達の事じゃないの?」
「そういうのもあるな。だが俺が言ってる学院は違うぞ。平民が多いし、学べる事も多い。お前はまだ若いし、嫁探しにしてもまだ急ぐ歳でもない。俺みたいに歳くってると学ぶ事すら難しいからな」
──そういえば聞いてないけどケフィスって何歳くらいなんだろうか?俺が子供の頃から村に来てるし、見る限り30~35歳のような機もする。
「……お前、今俺の歳を想像しなかったか?」
図星を指され誤魔化すように笑う。
「まぁ、30代だ。話を戻すぞ。学院というのは学ぶ機関。そうだな。剣術や座学、それに魔術も場合によっては学べる。滞在期間はまぁ3年くらいでどうだ? その頃には15歳。嫁探しはそれからでも十分だし、もしかしたら学院でいい子がいるかもしれないしな」
たしかに提案としては悪くない。それどころかいいと言っても良い。いろんな町を渡り歩くのもいいが、学園というのは多くの人が集まる場所と聞いた事がある。嫁探しにしてもケフィスの言うとおりだ。
「すぐ決めろって言うんじゃないぞ? 次の村には明日着くが、学院がある町まではまだ日付がある。それに俺の目的地もその町だしな」
「わかった。俺、学院に行くよ」
「なぁリドル。すぐにじゃないって……」
「いや、決めたんだケフィス。俺は村から出た事がない。そりゃ本や長老からいろいろ学んだけど、足りないと思う。仮にこのまま嫁を見つけて村に帰っても、俺が村で出来る事は限られてる。」
これはリドルを過小評価してたかな、とケフィスは思う。
リドルはまだ12歳だ。それにあの村は隔離されてるため、もっと世間知らずだと思っていた。
たしかに世間知らずではあるが、これならあまり心配しなくてもいいかもしれない。
そんな事を考えていたのだが、自分でも気づかないうちにケフィスは微笑んでいたんだろう。
「ケフィス! 今馬鹿にしただろう!」
「いや、馬鹿になんてしてないよ。思ったいたよりよく考えているな、と」
「そりゃ俺の将来の事だから考えるさ! まぁ……嫁探しだけは考えたくはないんだけど」
たしかに王族でもあるまいし12歳で考える事ではないとも思う。
「とにかく! 俺は学院に入ろりたいと思う。ただ学院ってのはやっぱお金かかるんだろ?」
「そりゃかかるな。もちろんその事もふまえて学園の話をしたんだよ。学院に入っても金は稼ぐ事が出来るんだ。町で働いたり、学院内でも働けるな」
「学院内で?」
「ああ。危険の少ない場所への鉱石採取、薬草採取。それに実験の助手とかもあるな。とにかく、お前はそこで学院費用、滞在費用、旅費を3年かかって貯めるんだ。悪くない話だろう?」
悪くない話だ。学院を出た後の事も考えられてる。
ここまでくると正直それ以上の案はないように思えてきた。
「それにな、俺も学院がある町を拠点に冒険者やってるんだ。何かあった時に頼れる大人がいたほうがいいだろう?」
「うん、やっぱ俺は学院に行く。頼れるかどうかは分からないけど知り合いの大人は貴重だからね」
意地の悪い笑みを浮かべそう言ったリドル。
そんなリドルを頭を乱暴に撫で、ケフィスは笑う。
「さて、今日はここらで野営だな。このままだと明日には近くの村に着くからな。あぁ、言い忘れてたが次の村はナジールって村だ」
──そうか、村って名前があるのか。たしかに全部”村”では分からないよな。
村の外での交流がなかったからいまさらそんな事に驚く。
「そして学院がある町はディスティルと言う。それとな、面倒を避けるためにお前は俺の弟って事にしておく」
「ケフィスの弟?」
「あぁそうだ。お前の村の事は秘密だと言っただろう? そうするとお前の出自の事で何か聞かれるかもしれないからな」
リドルは理解した。たしかに、ケフィスとリドルはどっちも金髪であり似ている。
ケフィスのほうが多少黒みが入っているが兄弟と言われて違和感はないだろう。そう、髪の色は。
「わかった。けどケフィス」
「なんだ?」
「兄弟にしては歳が離れすぎてると思うんだけど」
「……認めたくはないがたしかにそうだな」
「さすがに認めようよ、父さん」
ケファスは苦い顔をする。たしかにこれくらいの歳の子がいてもおかしくはない年齢だ。おかしくはないんだがそれでも父さん、と呼ばれる事に抵抗がある。
「リドル……実は俺20代前半……だったらいいなぁ」
「さすがにそれは無理があると思うな。まぁ、歳が離れた兄弟ってのもいるから。よろしく兄さん」
からかう事に成功した、と楽しそうにリドルは笑う。ケフィスは苦い顔のままだが。
「……よろしく、弟よ。」
おぼえておけよ、とつぶやき野営の準備を始めるのだった。