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ep.3 野々宮家

インフルとノロウイルスから完全復帰して戻ってきました。

更新が一週間ほど遅れて申し訳ないです。

転入して最初の日曜日。

僕は達哉と商店街の本屋に来ていた。

「俺は少年コミックんとこ行くけど、蓮はどうするよ?」

「うーん、僕はマンガよりもラノベをよく読むからそっちの方に行ってみるよ」

「そっか。場所はわかるか?」

「前に、結衣たちに案内してもらったから大丈夫だよ」

「んじゃ、一時間後くらいに店前で落ち合おうぜ」

達哉はそう言って、店の奥へ入っていった。


ここ、ミツバ図書は商店街の中心部にあるショッピングモールのすぐ真向かいにある。

結衣の話じゃ、この辺りに本屋はここだけらしい。

外装を見た限りじゃ品揃えも悪いんじゃ、と最初は思ったんだけど、中に入ってみると意外に広く、品揃えもむしろ、そこら辺の本屋よりも優秀だったことにビックリ!

晴見学院で使われている教科書や参考書なども、ここで取り寄せているそうだ。


「うーん・・・、っとあったあった。『Dキューブ⑩』先月発売だったんだけど、転校のこととかですっかり忘れてたんだよねー」

残り冊数を確認して、まだ大丈夫と思った僕は、他に良い本がないか探してみることにした。


(・・・ん?)

新作ラノベの見本を読んでいると、向かいの棚の方でバタバタと飛び跳ねる音がした。

「・・・っしょ!うーん・・・・っえい!」

僕は気になって、向かいの本棚に向かった。

「うぅ・・・あとちょっと・・・えい!」

そこには、上の段の本を必死に取ろうとジャンプしている女の子がいた。

それだけでなく、あろうことかその子は、踏み台の上でジャンプしていた。

(・・・って、そんな足場の悪い場所で見境なく飛び跳ねたら!)

「今度こそ・・・えーい!」

女の子が思いっきり跳ぶ。でも、その手は本には僅かに届かない。しかも・・・

「・・・え、わっ、わわっ!?」

着地した位置が微妙にずれたのか、女の子はバランスを崩した。

僕はその瞬間、考えるよりも速く身体が動いていた。

「・・・っよっと」

「えっ・・・?」

間一髪、女の子が倒れる前に抱きかかえることが出来た。

「ふぅ・・・間一髪。大丈夫?」

女の子の顔を見て確認する。すると女の子は顔を真っ赤にして、「だ、だだ、大丈夫です」といって俯いてしまった。

僕はその子を降ろして立ち上がる。

「それで、君はどの本が欲しかったの?」

できるだけ優しく問うと、女の子は「・・・あ、あれ」と1つのピンクの背表紙のマンガを指差した。

僕はその本を抜き取って、女の子に渡してあげる。

「・・・あ、ありがとう・・・お兄ちゃん」

「どういたしまして。君は、ここには1人で来たの?」

「ううん、お姉ちゃんと一緒に・・・」

「楓ー、欲しい本は見つかったー?」

その時、女の子の声を遮って、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「・・・あれ?蓮くんじゃない、おはよう。時間的には、もうこんにちはかな?」

「あ、結衣お姉ちゃん!」

楓と呼ばれた女の子は、結衣の姿を見つけると、てこてこ走っていって抱きついた。

(・・・って、お姉ちゃん!?)

「どうしたの、楓」

「あのね、結衣お姉ちゃん。このお兄ちゃんが、私の欲しい本を取ってくれたの!」

「そうだったんだ。お礼はちゃんと言った?」

「うん!」

結衣は楓ちゃんの頭を撫でながら、僕に向き直って頭を下げてきた。

「ごめんね、蓮くん。妹が迷惑かけたみたいで」

「ううん、全然。・・・まあ台の上で飛び跳ねるのは、ちょっと見てて危なっかしかったけどね」

「そんなことしてたの!?こーら楓、危ないでしょー。今度からはしちゃダメだよ!」

「うぅ・・ごめんなさい」

話が落ち着いたところで、僕は結衣に問いかけることにした。

「結衣って妹がいたんだね。初めて知ったよ」

「えっ、話してなかったっけ?」

結衣が首をかしげる。

「結衣お姉ちゃん、このお兄ちゃん、知り合いなの?」

楓ちゃんの方も聞かされていないようだ。

・・・まあ初めて会ったんだけどね。

「ごめんごめん。この人は橘蓮くん。4月から転校してきた人で、私の友達だよ」

「たちばなれん・・・れん・・・蓮お兄ちゃん?」

「うん、そう呼んでくれていいよ」

年下の子から『お兄ちゃん』と呼ばれると、本当に妹が出来たみたいでちょっと嬉しかった。

「それで、こっちが私の妹で、楓」

「改めて初めまして。野々宮楓(ののみやかえで)、10歳です」

「うん、よろしくね、楓ちゃん」

「はい!」

お互いに紹介を済ませたところで、ちょうど12時を知らせる音楽が流れた。

「もう昼かー。時間が経つのって早いなー」

ここに来たのが9時だったから、もう3時間が過ぎていた。

「結衣お姉ちゃん、私お腹空いたー」

「そうだねー、そろそろ帰ろっか・・・あ、そうだ!」

結衣がまた何かを思いついたように手を合わせた。

「蓮くんも一緒に来ない?」




・・・そんなこんなで僕は今、結衣の家の前に立っていた。

ちなみに達哉は、バイトがあるからと言って、先に帰ってしまった。

(はぁ~、僕ってつくづく押しに弱いよな・・・)

「どうしたの、蓮お兄ちゃん?」

「ううん、何でも・・・」

「??」


「ちょっと待っててね。今お茶いれるから」

「うん、ありがとう」

居間に座った僕は、辺りをぐるりと見渡した。

まず驚いたのが、この部屋が純和風だったことだ。

畳に掛け軸、テレビは違うけど、ほとんどが和式だった。

「蓮お兄ちゃんと結衣お姉ちゃんは、いつ知り合ったの?」

いつの間に・・・というかたぶん、ずっと隣にいたのだろう楓ちゃんが話しかけてきた。

「結衣とは転校初日にもう友達になったよ。それで、校内をいろいろと案内してもらったんだ」

「ふ~ん」


「ただいまー」

少しの間3人で談笑していると、玄関が開く音と一緒に、元気な男の子の声が聞こえてきた。

「あ、智くんお帰り~」

パタパタと楓ちゃんが玄関へ駆けていく。

「智くん?」

僕が首を傾げていると、その男の子が楓ちゃんと一緒に居間に入ってきた。

「・・・誰?」

「結衣お姉ちゃんのお友達だよ。本屋さんで私が落ちそうなところを、蓮お兄ちゃんが助けてくれたんだよ」

「・・・どうやったらそんな状況になるんだよ」

楓ちゃんの説明を聞き終わって、智くんと呼ばれた男の子がこっちを向いた。

「あ、僕は楓の双子の兄で、野々宮智輝(ののみやともき)です」

「へー、楓ちゃんのお兄さんなんだ。橘蓮です、初めまして」

(さすが結衣の弟妹って感じだな。2人とも、礼儀正しいや)

「さてと、智輝も帰ってきたことだし、お昼ご飯作りましょうか!」

「おー!」

結衣の声に、楓ちゃんが元気よく返事をした。

「おーって、楓ちゃんも手伝うんだ」

「うん、結衣お姉ちゃんとお料理するの、楽しいもん!」

「智輝、よかったら蓮くんにゲームの相手してもらいなさい」

2人は仲良くキッチンに向かっていった。

居間には、僕と智輝くんだけが残された。

「蓮兄ちゃん、ゲームできるのー?」

「まあね、結構強いよ」

ちょっと年長者の意地ってやつを張ってみる。

「そうなんだー。楓やお姉ちゃんは弱すぎて張り合いないからねー、楽しみだよ!」

そうして僕たちは、ご飯ができるまでの間、格ゲーに闘志を燃やすのだった。




-Yui-

「くっそー、また負けたー」


蓮くんの悔しがる声がキッチンにまで聞こえた。

「蓮お兄ちゃんでも、やっぱり智くんには勝てないみたいだね、結衣お姉ちゃん」

「智輝、あれだけはホントに強いからね~」

たいていの格闘ゲームやシューティングゲームなら、私でもいい勝負になるけど、あのスマ○ラDXだけは相手にならない。

「あ、楓、そこのじゃがいもを剥いてくれる?」

「うん、わかったよ」

(最近は、楓も料理に興味を持ち出したみたいだし、今度の休みの日にでも、簡単なものなら教えてあげようかな)

楓が隣で一生懸命じゃがいもを剥いている姿を見ながら、そんな風に思った。


「蓮兄ちゃん弱すぎだよー」

「待て待て、今のはちょっと油断しただけだ・・・もう一回!」


そんなやり取りを耳にしながら、ふと思った。

蓮くんと智輝、性格が似てるなあ、と。

「ねえ、結衣お姉ちゃん」

じゃがいもを剥きながら、楓が私を呼んだ。

「どうしたの、楓」

「蓮お兄ちゃんって、本当に彼氏とかじゃないの?」

それは、いつかの夜にも聞かれた質問だった。

「・・・違うよ」

「だけど・・・」

楓がそう聞いてくる理由はわかる。

今まで()()()()人付き合いをしてきたんだから、こうして家にまで呼んだ彼を不思議に思うのはしょうがないことだ。

「・・・正直なことを言うとね、よくわかんないんだ。蓮くんを家に連れてきた理由」

「えっ?」

そう、自分でもよくわからない。でも・・・

蓮くんは、『何か』を持っている。

それが何かはわからないけど、少なくとも私はその『何か』に興味を持ったからこそ、彼と一緒にいる。

そして、たぶん莉桜も同じなんじゃないかと思う。

だって、私と莉桜は、よく似ているんだから・・・

「・・・よし。楓、切った野菜を全部鍋に入れてー」

「あ、うん」


蓮くんや莉桜といることで、自分の中で何かが変わる・・・

煮立っていく鍋をやさしく混ぜながら、私は改めてそう思った。




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