ep.0 始業式イヴ
STARLIGHTです。
今回は完全新作として、個人での制作としては、BEWITCHに続いて第二作目となります。
まずは、作品紹介という意味も兼ねて、プロローグにあたるep.0を先行投稿しました。ep.1からはFloral Heartsを書き終わり次第、BEWITCHと並行して書いていきます。
余談ですが、一昨日、BEWITCHのTale.7「漆黒の世界」を投稿しましたので、読んでいただけると嬉しいです。
車の助手席から、ただ通り過ぎていく景色を眺める。
それは七年前、僕がこの桜木町を離れたときからあまり変わってないように感じた。
「どうしたの蓮、ぼーっとしちゃって」
姉さんが運転席から横目で僕を見ながら聞いてくる。
「いや、この町はあんまり変わってないなあって思ってさ」
「そう?結構変わったと思うけど」
「うーん?」
まあ、小さい頃の記憶なんて曖昧で当然か・・・
「さあ、着いたよ」
桜木駅から車で二十分弱、僕たちは目的の場所に着いた。
『晴見学院』
この桜木町にある唯一の高等学校だ。
「それじゃあ私はまだ講習が残ってるから戻るね。男子寮はここを真っ直ぐ行ったところにあるから、迷うことはないと思うよ。それじゃ、後でね」
「うん、ありがとう姉さん」
姉さんは、最後に柔らかな笑みを浮かべると学院へと戻っていった。
僕はその後姿が見えなくなってから、もう一度学院の方を見た。
「これが晴見学院・・・明日から通う学校、か」
第一印象は、建物がきれいだということと、グラウンドが広いということ。
前の学校よりも、遥かに大きいという印象が一番強かった。
「・・・よし、下見も済んだし、寮に向かいますか」
僕は学院に背を向けると、明日から始まる新しい学院生活をどう送るか考えながら、寮へと続く道をてくてくと歩き始めた。
-Rio-
「またここにいたのですか?」
屋上の扉を開ける音と共に、一人の女性が話しかけてきた。
「・・・うん、美海さん」
その人は、私の従姉の文月美海さんだった。
「せっかくの春休みでしたのに、誰かと遊べばよかったじゃないですか?野々宮さんとか」
「・・・結衣ちゃんは、よくここに来てくれたよ」
「そうではなく、一緒に町に出たり、家で遊んだり、・・・何もしなかったのですか?」
「・・・うん。だけど、私・・・ここが好きだから」
そう言って私は、再び屋上から町を見渡す。そんな私の後ろで、美海さんは小さく溜め息をついていた。
ふと視線を落とすと、一台の車が校門前で止まった。
「・・・あれ、橘先生の車」
「え?・・・あ、本当ですね。一緒にいる子って、男の子でしょうか?」
「・・・たぶん、新しくこの学院に入ってくる子」
「新入生ですか?」
「ううん、転校生。あの子、たぶん橘先生の弟」
「どうしてわかるんです?」
「この前、ホームルームで弟が来るかもって言ってたから」
男の子は先生が校舎に戻った後、しばらく学院を見渡していた。
ふと目が合った気がしてビクッ、としたけど、気のせいだったみたい。
「それでは、私は生徒会室に戻りますね。何かあったら、いつでもいらして下さい」
「・・・うん、バイバイ」
私は小さく手を振って、美海さんを見送った。
もう一度、校門へと目を向ける。すると、男の子がちょうど立ち去ろうとしていた。・・・たぶん、男子寮にいくのだろう。
「友達・・・あの子とは、友達になれるかな・・・」
そんな私の呟きは、春風と一緒に、遠く流れていった。
-Yui-
「結衣お姉ちゃん、準備できたよー」
「どれどれー・・・うん、ちゃんと全部入ってるね」
「うん!」
「お姉ちゃーん、僕のシューズどこー?」
「昨日洗って部屋に置いておいたでしょー?」
「えー、ないよー」
「もう、しょうがないなー。ねえ楓」
「智くんは結衣お姉ちゃんが大好きだから、甘えてるんだよ。もちろん私も!」
「・・・それは嬉しいんだけどねー」
「お姉ちゃーん」
「はいはい、今行くから待ってなさい」
夜、私たちは明日の始業式に備えて準備をしていた。
テキパキと準備を済ませる楓に比べて、智輝は自分の物を整理してない分、進みが遅い。同じ双子なのに、どうしてこうも違うのだろうか?
「智輝も楓も、また同じクラスになれたらいいね」
私は自分の準備も並行しながら二人に話しかける。
「えー!」「うん!」
二人からはそれぞれ違った反応が返ってきた。
「何で?智くん、私と一緒じゃ嫌なの?」
「え、いや、そういうわけじゃ・・・ないけど」
「あはは、智輝はかっこつけたいだけだよねー」
「っ!?・・・う、うるさいなー」
指摘されて恥ずかしくなったのか、智輝は無視したように準備を進め始めた。
私と楓はクスクスと小さく笑いながら、そんな智輝の様子を見ていた。
『お休み、お姉ちゃん!』
「うん、お休み。智輝、明日はちゃんと起きなさいよ?」
「うっ、・・・努力はするよ」
「結衣お姉ちゃん、起きなかったら私が起こすから大丈夫だよ」
「お願いね、楓」
「だから、大丈夫だって!」
二人はお互いに言い合いながら、部屋に入っていった。
私はそれを見届けてから、自分の部屋に戻った。
部屋に入ると、携帯のランプがピカピカ光っているのが見えた。メールが来てたようだ。
『From.莉桜』
『校門前で、転校生らしき男の子を目撃。たぶん、橘先生の弟』
莉桜からだった。
またあの子は屋上にいたのだろう。
休みの日まで屋上にいるなんて、一体どれだけ気に入っているのだろう?
「でも、転校生かー。どんな子なんだろ?」
莉桜に返信を済ませると、私は何となく、その子と同じクラスになれたらいいなーと思いながらベットに入った。
徐々に睡魔が襲ってくる中、ふと窓に視線を向けると、町明かりに照らされた、とてもきれいな夜桜の並木道が見えた。
(明日が楽しみだなあー・・・・・・)
いかがでしょうか。
今作の「しぇあメモ!-where's my LOVE,where's my DREAM-」の「しぇあメモ」は、「Share Memories」の略で「思い出を共有する」という意味です。
本小説に興味を持っていただけた方、次回の投稿を楽しみにしていてください。