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第63話:現場診断。原因は『配管詰まり』と断定。〜神の雷は、地面に逃がせば怖くない〜

 エルフの集落を後にした俺たちは、軽トラで荒野をひた走り、ついに「世界の中心」へと辿り着いた。


「……デカいな」


 フロントガラス越しに見上げた俺は、思わず声を漏らした。

 そこには、雲を突き抜けるほどの巨木がそびえ立っていた。

 『世界樹』。

 かつては世界中にマナを供給していたという、大地の心臓部だ。


 だが、その姿はあまりにも痛々しい。

 葉は一枚残らず落ち、幹は石のように化石化して、無惨なひび割れが走っている。

 生きている木というより、巨大な墓標のようだ。


「酷い……。完全に枯れておる」


 助手席のマギ婆さんが、沈痛な面持ちで杖を握りしめる。


「大地のマナを吸い上げる『ポンプ』としての機能が、完全に停止しておるのじゃ。これでは世界が死ぬのも無理はない」

「とりあえず、見てみるか」


 俺は軽トラを停め、スコップを持って車を降りた。

 世界樹の根元へ歩み寄る。

 地面はカチカチに乾燥し、ひび割れている。


「硬いな」


 俺はスコップを突き立てた。

 カチンッ!

 甲高い音がして、刃が弾かれる。土というより、コンクリートに近い硬度だ。


「ダメだこりゃ。土が死んでる」


 俺は土のかけらを指で捻り潰した。


「これじゃ水も空気も通らない。根っこが窒息状態だ」

「窒息……?」

「ああ。それに、地下の魔力マナの流れも滞ってる。血管が詰まってるようなもんだ」


 俺は世界樹の幹をコンコンと叩き、診断を下した。


「典型的な『施工不良(メンテナンス不足)』だな。管理者は何やってたんだか」


          ◇


 その時だった。

 俺が幹に触れた手から、パチッと静電気が走った。


 ピピッ……ピピピッ!


 無機質な電子音が響き渡る。

 直後、上空から強烈な光が降り注いだ。


『警告。警告。聖域へノ不正アクセスヲ検知』


 空から、機会音声のような重々しい声が降ってくる。


汚染源エラーヲ排除シマス。世界ヲ、保護スルタメニ……』


 光の柱の中から、黄金の輝きをまとった巨人が降臨した。

 全長10メートル。

 全身が金色の鎧で覆われ、背中には光の輪が浮いている。手には雷を纏った巨大な槍。


「あ、あれは……!」


 案内役としてついてきていたエルフの長老が、悲鳴を上げてひれ伏した。


守護神ガーディアン様! 我らが守り神よ! なぜ我らに矛を向けるのですか!」

「バグっておるのじゃ!」


 マギ婆さんが叫ぶ。


「世界が弱りすぎて、システムが誤作動を起こしておる! 近づく者はすべて『敵』と認識する殺戮マシーンと化しておるぞ!」


 なるほど。

 俺は冷静に巨人を見上げた。


「警備ロボットのセンサーがいかれてるのか。古い機械にはよくあることだ」

「社長! 呑気なことを言っている場合ではありません!」


 アリシアがバールを構えて前に出る。

 ザガンとレオナルドも戦闘態勢をとるが、その顔は青ざめていた。


「勝てん……! あれは『神』そのものだ! 俺たちの攻撃など通じない!」


          ◇


『滅ビヨ』


 守護神が、無慈悲に槍を振り上げた。

 空が急激に暗くなり、黒雲が渦を巻く。

 バリバリバリッ!

 槍の穂先に、数億ボルトの雷エネルギーが収束していく。


「来るぞ! 全員伏せろぉぉ!」

「『神の裁き(ジャッジメント)』だ! いかなる物理障壁も貫通し、魂を焦がす絶対の雷撃……!」


 仲間たちが絶望する中、俺は一人、軽トラの荷台へと走った。


「雷か。電圧は高そうだが……」


 俺は荷台の工具箱を漁った。

 ある。

 いつか使うと思って積んでおいた、電気工事の必需品が。


「所詮は電気だろ? 電気なら、逃げ道を作ってやればいい」


 俺が取り出したのは、1メートルほどの銅の棒と、太いケーブル。

 『アース棒(接地極)』だ。


「ザガン! ハンマー貸せ!」

「は、はいっ!」


 俺は守護神の足元へダッシュした。

 巨人が槍を振り下ろそうとする、その刹那。


 カン! カン! カン!


 俺は地面にアース棒を深々と打ち込んだ。

 そして、銅線ケーブルの片方をアース棒に接続し、もう片方の先端(フック付き)を――。


「そらよっ!」


 ブンッと投げて、守護神の金属製の足首に巻き付けた。


「接地抵抗10オーム以下! A種接地工事、完了!」


 俺は叫んだ。


「全員、俺より後ろに下がれ! 感電するぞ!」


          ◇


『消滅セヨ』


 守護神が槍を突き下ろした。

 バリバリバリバリッ!!!!

 視界を白く染める閃光。鼓膜を破る轟音。

 直撃すれば、人間など消し炭になる高圧電流が、俺たちの頭上に迫る。


 だが。

 その雷撃は、俺たちに届く直前で、不自然に軌道を曲げた。


 バチチチチチチッ!!!!


 稲妻が、守護神の体から足元の銅線へと逆流し、アース棒を通って地面へと吸い込まれていく。


「な、なんだ!?」


 アリシアが目を見開く。

 俺たちの周囲数メートルだけが、雷雨の中でぽっかりと空いた安全地帯となっていた。


「電気は正直だからな。抵抗の低い方へ流れるんだよ」


 人体よりも、銅線の方が遥かに電気を通しやすい。

 神の雷といえど、物理法則には逆らえない。

 莫大なエネルギーは、全てアース線を通じて地中深くへと逃げていった。


「はい、漏電処理完了。電気工事士二種ナメんなよ」


 俺は絶縁手袋をした手で親指を立てた。


「か、雷が……地面に吸われた!?」

「魔法を弾いたのではない……『通り道』を作ってやったのか!?」


 マギ婆さんが杖を震わせる。


「自然のことわりを利用し、天災すらも受け流す……! これぞ『避雷の極意』!」


          ◇


『エ……? 出力低下……エラー発生……』


 全エネルギーを地面に捨ててしまった守護神が、ガクンと膝をついた。

 バッテリー切れだ。

 目の光が弱々しく明滅している。


「よし、今だ」


 俺は動かなくなった巨人の体によじ登った。

 胸部にある、発光するコアのような部分。あそこが制御盤だろう。


「失礼しますよ」


 俺は腰から『インパクトドライバー』を抜いた。

 胸部装甲の四隅にあるボルトにビットを当てる。


 ギュイィィン! ギュイィィン!


 高速回転でボルトを抜く。

 パカン、と装甲が外れ、中の複雑な配線(魔力回路)が露わになった。


「あった、これだ」


 中心にある、一番大きなスイッチ。

 俺はそれを、ガチャンと下ろした。


 ブシュゥゥゥ……


 蒸気が抜けるような音がして、守護神の目の光が完全に消えた。

 ただの巨大な黄金の彫像となって、沈黙する。


「よし、ブレーカー落としたぞ」


 俺は巨人の上から、下にいる仲間たちに声をかけた。


「現場の安全確保よし。これでやっと工事に取り掛かれるな」


 エルフたちが、あんぐりと口を開けて俺を見上げている。

 神を……物理的に修理(停止)してしまった人間に、言葉もないようだ。


「さて、と」


 俺は世界樹を見上げた。

 邪魔者は消えた。次はいよいよ、この死にかけた木と大地を蘇らせる番だ。


「まずは材料だな。手持ちじゃ全然足りん」


 俺はバインダーを取り出し、見積もりを書き始めた。


「一度、日本に戻るぞ。『4トントラック』が必要だ」

「えっ? トラックですか?」

「ああ。ホームセンターの園芸コーナーを買い占めるからな」


 ここからが、本当の天地創造リノベーションだ。

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