第58話:重機レンタルの常連になる。〜『キナン』か『アクティオ』か、それが問題だ〜
瓦礫の山となった採石場跡地。
浮遊城の解体作業が一区切りつき、俺たちは昼休憩をとっていた。
ブルーシートの上に車座になり、弁当を広げる。
メンバーは、俺、アリシア(ジャージ騎士)、ポチ(柴犬神獣)、レオナルド(反射ベスト勇者)。
そして新入りのザガン(安全帯魔将軍)だ。
「ほら、食え。今日の社食は『のり弁(大盛り)』だ」
俺は近くのコンビニで買ってきた、温かい弁当を配った。
ザガンが、ごつい手で割り箸を割り、恐る恐る弁当箱を覗き込む。
「こ、これは……」
彼は震えていた。
白飯の上に敷き詰められた漆黒のシート(海苔)。
その上に鎮座する、黄金色の筒(ちくわの磯辺揚げ)と、白身魚のフライ。
「漆黒の紙の下に、白き穀物が隠されている……。そしてこの黄金の筒……!」
ザガンがちくわ天を口に運ぶ。
サクッ。
「う、うまい……! 魚のすり身か? 揚げ油の香ばしさと、青海苔の風味が鼻を抜ける!」
「醤油かけるともっと美味いぞ」
「この黒い聖水(醤油)を!? ……おおお! 塩気が甘みを引き立てる! 魔界の宴より豪華だ……!」
魔王軍四天王が、398円の弁当に涙してかきこんでいる。
その横で、勇者レオナルドが冷ややかな視線を向けた。
「ザガンよ、貴様も堕ちたな。魔王への忠誠はどうした」
「うるさい! 俺は日当のために働いているだけだ! この『タルタルソース』という白い錬金薬のためにな!」
かつての宿敵同士が、のり弁をつつきながら喧嘩している。
平和だ。現場の休憩時間はこうでなくてはならない。
「さて、と」
俺は食べ終わった容器を片付けながら、午後の予定を確認した。
「社長、午後の作業は?」
「騒音対策だ。地下がうるさいからな」
◇
その時だった。
ズズズズズ……ドォォン!!
地面を突き上げるような縦揺れ。
空になった弁当箱が跳ね、ポチが「わんっ!(地震か!?)」と立ち上がる。
『……おのれ、人間……』
地底の奥底から、腹に響くような重低音が聞こえてきた。
魔王の声だ。
『我が城を堕とし、眷属をたぶらかした人間よ……。貴様の魂を、深淵の闇に……』
声そのものが衝撃波となって、鼓膜を圧迫する。
ザガンが顔面蒼白で震え上がる。
「へ、陛下のお怒りだ……! やはり俺たちは皆殺しに……!」
「あー、うるさい」
俺は耳を小指でほじった。
「重低音が響くなあ。ウーハー効かせすぎだろ」
『ま、マスター? 相手は激おこですよ?』
「換気が悪いから声がこもるんだ。風穴を開けてやる必要があるな」
俺はポケットからスマホを取り出した。
相手を「換気扇のない部屋でカラオケしてる迷惑な客」扱いしながら、電話帳を開く。
「もしもし? あ、毎度。佐伯です」
いつもの建機レンタル屋(馴染みの担当者)だ。
『おっ、佐伯さん! クレーンはどうでした?』
「ああ、いい仕事してくれたよ。で、次なんだけど……地下の岩盤が硬くてさ」
俺はカタログスペックを思い出しながら注文した。
「『シールドマシン(トンネル掘削機)』、在庫ある?」
『シールドマシン!? いや、あれはレンタル品っていうか、国家プロジェクトとかで使うやつで……』
「中古のコンパクトなやつでいいよ。直径10メートルくらいの」
『10メートルはコンパクトとは言わねえよ! ……まあ、あんたなら何とかするか。ちょうどトンネル工事が終わって戻ってきたやつがある』
さすがプロだ。話が早い。
「今日持ってこれる? ……OK、助かるわ。いつもの場所に置いといて」
通話を切る。
振り返ると、ザガンとレオナルドが口をあんぐりと開けていた。
「つ、通信魔法……!? しかも、供物(生贄)なしで『鉄の古龍』を召喚したというのか!?」
「社長の人脈は、商会の枠を超えています……。国家を動かせるレベルでは?」
◇
夕方。
裏山の入り口に、巨大なトレーラーの車列が到着した。
シールドマシンは巨大すぎるため、パーツごとに分割されて運ばれてくるのだ。
「うわ、デカいな」
荷台に載せられているのは、巨大な円盤状のパーツ。
『カッターフェイス』。
直径10メートルの鋼鉄の円盤に、無数の超硬合金ビット(刃)がびっしりと植えられている。
「ヒィッ!? なんだあの『歯』は! アダマンタイトをも噛み砕くぞ!」
ザガンが腰を抜かす。
確かに、回転しながらすべてを擦り潰すその形状は、拷問器具の集合体のようだ。
「よし、組み立てるぞ。クレーン出せ」
俺は先日借りた1200トン吊りクレーンを再稼働させた。
巨大なパーツを吊り上げ、接合していく。
「ザガン、そこのボルト締めろ! トルク管理しっかりな!」
「は、はいっ! (魔王軍の攻城兵器より精密だ……!)」
「レオナルド、合図頼む!」
「御意! 巻き上げーッ!」
勇者と魔将軍が協力して、現代の掘削機を組み立てる。
奇妙な一体感が生まれていた。
数時間後。
夕闇の中に、全長20メートル超の鋼鉄の芋虫が鎮座していた。
「完成だ」
俺はボディをポンと叩いた。
泥水を吸い出し、土砂を排出しながら前進する、土木技術の結晶。
「よし、試運転だ」
俺はコクピットに乗り込み、エンジンを始動させた。
ゴゴゴゴゴゴゴ…………
腹に響く低い駆動音。
カッターフェイスが、ゆっくりと、しかし力強く回転を始める。
ギチ、ギチ、とビットが噛み合う音が、破壊力を予感させる。
◇
その時。
再び、地面が激しく揺れた。
ズガガガガッ!!
裏山のさらに奥。
ダンジョンの入り口(大穴)から、黒い瘴気が噴水のように吹き上がる。
空が紫色に染まり、稲妻が走る。
『……待っていろ人間。今、這い出して貴様をひねり潰してやる……!』
魔王の声が近づいている。
どうやら、向こうから出てくる気らしい。
「出てくるのか? ちょうどいい」
俺はシールドマシンの先端を、大穴の方角に向けた。
無限軌道が地面を削る。
「穴から顔出した瞬間、こいつ(ドリル)で『栓』をしてやる」
俺は防音イヤーマフを装着した。
「みんな、耳栓の準備しとけよ。削る音がうるさいからな」
土木工事VSラスボス。
地下トンネル掘削の要領で、魔王のドテッ腹に風穴を開ける時間がやってきた。




