第56話:動力炉(コア)を引っこ抜く。〜巨大クレーンは、UFOキャッチャーではありません〜
地上。
俺はクレーンのウィンチを緩め、20トンの鉄球をゆっくりと降ろした。
ズシン、と地面が揺れる。
「よし、先端交換だ。レオナルド、手伝ってくれ」
「はっ! 神のハンマーを、次なる神器へと換装するのですね!」
勇者レオナルドと、ジャージ姿のアリシアが駆け寄ってくる。
俺は操縦席から降りて、鉄球のシャックル(連結金具)を外した。
代わりに用意したのは、巨大な『解体用グラップル』だ。
5本の鋭い爪を持つ、鋼鉄の手。
油圧で開閉し、鉄骨だろうが岩だろうが、あらゆるものを噛み砕いて掴むことができる。
「ピン固定よし。油圧ホース接続よし」
俺は再び操縦席に戻り、ペダルを踏み込んだ。
ウィィィン……。
グラップルの爪が、グワッ、グワッと開閉する。
「動作確認OK。行くぞ」
再びブームを空へ向ける。
先ほど叩き割った結界の穴――浮遊城の横っ腹に向かって、鋼鉄の巨腕が伸びていく。
「ハンマーから……『神の手』へ……! もはや逃げ場はないということか!」
地上のアリシアが、空を見上げてごくりと喉を鳴らした。
◇
一方、上空の魔王城。
結界を失い、強風が吹き荒れる城内はパニックに陥っていた。
「へ、陛下! 結界が消滅しました! 丸裸です!」
「ええい、狼狽えるな! 迎撃だ! 魔法部隊、一斉掃射……」
魔王が叫ぼうとした時、崩れた壁の向こうから、ヌッと「それ」が入ってきた。
「ヒィィィッ!! て、手だ! 巨人の手が入ってきたぁぁ!!」
魔族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
5本の爪を持つ鋼鉄の腕が、城の内部をまさぐるように侵入してきたのだ。
その動きは、獲物を狙う猛獣のように正確で、冷徹だった。
◇
「慎重に、慎重にな……」
操縦席の俺は、モニターを見ながらミリ単位でレバーを操作していた。
狙うのは、城の中央に浮いている「動力魔石」のみ。
「周りの柱や壁を傷つけるなよ。あの柱、いい金属使ってるからな。スクラップ屋に売れば金になる」
俺の頭の中は、すでに解体後のリサイクルのことでいっぱいだった。
グラップルを慎重に進め、直径5メートルほどの紫色の巨大魔石に狙いを定める。
「位置よし。……UFOキャッチャーなら、ここでボタンを離すところだな」
だが、これはゲームではない。
アームの力は弱くないし、確率機のように撫でるだけで落とすこともない。
このクレーンの握力は、数千トンだ。
「ガッチリ掴むぞ」
俺はペダルを踏み込んだ。
ガシャン!! ギギギギ……
5本の爪が魔石に食い込み、完全にロックする。
掴んだ。
「貴様ぁ! それは我が軍の心臓! 触れるなぁぁ!」
魔王が玉座から魔法弾を撃ってくるが、クレーンの装甲(と俺の「安全第一」スキル)の前では豆鉄砲だ。
俺は無視して、ウィンチを巻き上げた。
「引っこ抜くぞ!」
グググググッ……!
アームを引き戻す。
だが、魔石はすんなりとは動かなかった。
魔石から城の壁や床に向かって、無数の「パイプ」や「魔力ケーブル」が繋がっているからだ。
それらがピンと張り詰め、抵抗する。
ミシミシ……バチバチッ!
城全体がきしみ、魔力の火花が散る。
「ちっ、配線がごちゃごちゃしてんな。スパゲッティコードかよ」
俺は舌打ちした。
こういう整備性の悪い機械は嫌いだ。ちゃんと結束バンドでまとめておけと言いたい。
「まあいい。まとめて千切る」
俺はエンジン出力を最大にした。
強引に引き剥がす。
ブチブチブチブチィッ!!!!
太いケーブルが弾け飛び、配管がひしゃげる音。
まるで、巨大生物の血管を引きちぎるような断末魔が響き渡った。
「ぬあああああッ!? 魔力供給が……止まっただとぉ!?」
魔王の絶叫と共に、城内の明かりがフッと消えた。
◇
ズズズ……
動力を失った浮遊城が、重力に従って傾き始めた。
ゆっくりと高度を下げていく。
「おっと。そのまま落ちたら庭が散らかる」
この巨大な瓦礫が自宅の庭に落ちたら、片付けが面倒だ。
俺はクレーンを旋回させ、ブームの側面を使って、落ちていく城を軽く「押した(プッシュ)」。
「あっちだ。裏山の『採石場跡地』。あそこならデカい穴がある」
クレーンに小突かれた城は、放物線を描いて落下していく。
誘導先は、昔じいちゃんが石を切り出していた巨大な窪地。
今は俺が「燃えないゴミ置き場」として使っている場所だ。
「そこだ、入れ!」
ズッッッダァァァァァン!!!!
凄まじい地響き。
舞い上がる土煙。
浮遊城は、まるで測ったかのように、大穴の中にスッポリと収まった。
「よし、ホール・イン・ワン」
ゴミ箱シュート成功だ。
俺は満足して、吊り下げていた「動力魔石」を、軽トラの荷台(クッション付き)へと下ろした。
「こいつはデカすぎてメルカリで送れないな。後でカットして売るか」
◇
俺はクレーンを降り、軽トラに乗って墜落現場へと向かった。
大穴の中には、無惨にひしゃげた城の残骸が埋まっている。
「うわ、グチャグチャだな。……でも、いい素材だ」
俺はバールで瓦礫を叩いた。
キィン! と高く澄んだ音がする。
「ミスリルに、オリハルコンか。これ、全部『鉄くず(スクラップ)』として売れるぞ」
キロ単価いくらだろうか。
銅より高ければいいんだが。分別すれば数百万、いや数千万にはなるかもしれない。
「でも、一人じゃ運び出せないな。ユニック車(クレーン付きトラック)も呼ばなきゃ……」
俺が皮算用をしていると、瓦礫の山がガサゴソと動いた。
ボォン!
炎と共に瓦礫が吹き飛び、中から一人の男が這い出してきた。
全身を赤い鎧で覆った巨漢。
魔王軍四天王の一人、魔将軍ザガンだ。
「ゲホッ、ゲホッ……! おのれ人間……! よくも我が城を……ゴミのように……!」
ザガンは満身創痍ながらも、殺意に満ちた目で俺を睨みつけた。
「お、生きてたか」
俺はバールを肩に担ぎ、気さくに声をかけた。
「元気そうだな。ちょうどよかった、人手が足りなかったんだ」
「あ?」
「責任とって、片付け手伝え。日当は出すから」
俺は荷台から、予備のヘルメットと『安全帯』を取り出した。
解体現場には、頑丈な作業員が必要不可欠だ。




