表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/76

第56話:動力炉(コア)を引っこ抜く。〜巨大クレーンは、UFOキャッチャーではありません〜

 地上。

 俺はクレーンのウィンチを緩め、20トンの鉄球をゆっくりと降ろした。

 ズシン、と地面が揺れる。


「よし、先端アタッチメント交換だ。レオナルド、手伝ってくれ」

「はっ! 神のハンマーを、次なる神器へと換装するのですね!」


 勇者レオナルドと、ジャージ姿のアリシアが駆け寄ってくる。

 俺は操縦席から降りて、鉄球のシャックル(連結金具)を外した。

 代わりに用意したのは、巨大な『解体用グラップル』だ。


 5本の鋭い爪を持つ、鋼鉄の手。

 油圧で開閉し、鉄骨だろうが岩だろうが、あらゆるものを噛み砕いて掴むことができる。


「ピン固定よし。油圧ホース接続よし」


 俺は再び操縦席に戻り、ペダルを踏み込んだ。

 ウィィィン……。

 グラップルの爪が、グワッ、グワッと開閉する。


「動作確認OK。行くぞ」


 再びブームを空へ向ける。

 先ほど叩き割った結界の穴――浮遊城の横っ腹に向かって、鋼鉄の巨腕が伸びていく。


「ハンマーから……『神の手』へ……! もはや逃げ場はないということか!」


 地上のアリシアが、空を見上げてごくりと喉を鳴らした。


          ◇


 一方、上空の魔王城。

 結界を失い、強風が吹き荒れる城内はパニックに陥っていた。


「へ、陛下! 結界が消滅しました! 丸裸です!」

「ええい、狼狽えるな! 迎撃だ! 魔法部隊、一斉掃射……」


 魔王が叫ぼうとした時、崩れた壁の向こうから、ヌッと「それ」が入ってきた。


「ヒィィィッ!! て、手だ! 巨人の手が入ってきたぁぁ!!」


 魔族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。

 5本の爪を持つ鋼鉄の腕が、城の内部をまさぐるように侵入してきたのだ。

 その動きは、獲物を狙う猛獣のように正確で、冷徹だった。


          ◇


「慎重に、慎重にな……」


 操縦席の俺は、モニターを見ながらミリ単位でレバーを操作していた。

 狙うのは、城の中央に浮いている「動力魔石エンジン」のみ。


「周りの柱や壁を傷つけるなよ。あの柱、いい金属オリハルコン使ってるからな。スクラップ屋に売れば金になる」


 俺の頭の中は、すでに解体後のリサイクルのことでいっぱいだった。

 グラップルを慎重に進め、直径5メートルほどの紫色の巨大魔石に狙いを定める。


「位置よし。……UFOキャッチャーなら、ここでボタンを離すところだな」


 だが、これはゲームではない。

 アームの力は弱くないし、確率機のように撫でるだけで落とすこともない。

 このクレーンの握力は、数千トンだ。


「ガッチリ掴むぞ」


 俺はペダルを踏み込んだ。


 ガシャン!! ギギギギ……


 5本の爪が魔石に食い込み、完全にロックする。

 掴んだ。


「貴様ぁ! それは我が軍の心臓! 触れるなぁぁ!」


 魔王が玉座から魔法弾を撃ってくるが、クレーンの装甲(と俺の「安全第一」スキル)の前では豆鉄砲だ。

 俺は無視して、ウィンチを巻き上げた。


「引っこ抜くぞ!」


 グググググッ……!


 アームを引き戻す。

 だが、魔石はすんなりとは動かなかった。

 魔石から城の壁や床に向かって、無数の「パイプ」や「魔力ケーブル」が繋がっているからだ。

 それらがピンと張り詰め、抵抗する。


 ミシミシ……バチバチッ!


 城全体がきしみ、魔力の火花が散る。


「ちっ、配線がごちゃごちゃしてんな。スパゲッティコードかよ」


 俺は舌打ちした。

 こういう整備性の悪い機械は嫌いだ。ちゃんと結束バンドでまとめておけと言いたい。


「まあいい。まとめて千切る」


 俺はエンジン出力を最大にした。

 強引に引き剥がす。


 ブチブチブチブチィッ!!!!


 太いケーブルが弾け飛び、配管がひしゃげる音。

 まるで、巨大生物の血管を引きちぎるような断末魔が響き渡った。


「ぬあああああッ!? 魔力供給が……止まっただとぉ!?」


 魔王の絶叫と共に、城内の明かりがフッと消えた。


          ◇


 ズズズ……


 動力を失った浮遊城が、重力に従って傾き始めた。

 ゆっくりと高度を下げていく。


「おっと。そのまま落ちたら庭が散らかる」


 この巨大な瓦礫が自宅の庭に落ちたら、片付けが面倒だ。

 俺はクレーンを旋回させ、ブームの側面を使って、落ちていく城を軽く「押した(プッシュ)」。


「あっちだ。裏山の『採石場跡地』。あそこならデカい穴がある」


 クレーンに小突かれた城は、放物線を描いて落下していく。

 誘導先は、昔じいちゃんが石を切り出していた巨大な窪地。

 今は俺が「燃えないゴミ置き場」として使っている場所だ。


「そこだ、入れ!」


 ズッッッダァァァァァン!!!!


 凄まじい地響き。

 舞い上がる土煙。

 浮遊城は、まるで測ったかのように、大穴の中にスッポリと収まった。


「よし、ホール・イン・ワン」


 ゴミ箱シュート成功だ。

 俺は満足して、吊り下げていた「動力魔石」を、軽トラの荷台(クッション付き)へと下ろした。


「こいつはデカすぎてメルカリで送れないな。後でカットして売るか」


          ◇


 俺はクレーンを降り、軽トラに乗って墜落現場へと向かった。

 大穴の中には、無惨にひしゃげた城の残骸が埋まっている。


「うわ、グチャグチャだな。……でも、いい素材だ」


 俺はバールで瓦礫を叩いた。

 キィン! と高く澄んだ音がする。


「ミスリルに、オリハルコンか。これ、全部『鉄くず(スクラップ)』として売れるぞ」


 キロ単価いくらだろうか。

 銅より高ければいいんだが。分別すれば数百万、いや数千万にはなるかもしれない。


「でも、一人じゃ運び出せないな。ユニック車(クレーン付きトラック)も呼ばなきゃ……」


 俺が皮算用をしていると、瓦礫の山がガサゴソと動いた。


 ボォン!


 炎と共に瓦礫が吹き飛び、中から一人の男が這い出してきた。

 全身を赤い鎧で覆った巨漢。

 魔王軍四天王の一人、魔将軍ザガンだ。


「ゲホッ、ゲホッ……! おのれ人間……! よくも我が城を……ゴミのように……!」


 ザガンは満身創痍ながらも、殺意に満ちた目で俺を睨みつけた。


「お、生きてたか」


 俺はバールを肩に担ぎ、気さくに声をかけた。


「元気そうだな。ちょうどよかった、人手が足りなかったんだ」

「あ?」

「責任とって、片付け手伝え。日当は出すから」


 俺は荷台から、予備のヘルメットと『安全帯』を取り出した。

 解体現場には、頑丈な作業員が必要不可欠だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ザガン敵だったの?w前温泉の時手伝ってたのは誰?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ