第55話:空中解体ショーのお知らせ。〜絶対防御の魔法障壁? いや、ただの窓ガラスだろ〜
地上100メートル。
世界最大級のクレーン車の操縦席で、俺はモニターを睨んでいた。
「風速5メートル。……よし、作業に支障なし」
上空の風は穏やかだ。これならブームが振られることもない。
モニターには、目の前に浮かぶ浮遊城のテラスがドアップで映し出されている。
そこでは、黒い鎧を着た魔族たちが、こちらを指差して何やら喚いているのが見えた。
『フハハハ! 人間め! 鉄の塔を建てて何をする気だ?』
『ここから魔法を撃ち込めば、貴様など……』
どうやら、まだ状況が飲み込めていないらしい。
工事現場の近くでウロウロされると危ない。
俺は親切心から、警告を出してやることにした。
「おい、そこ危ないぞ。下がってろ」
俺は操作盤にある「警笛」のボタンを押した。
プォォォォォォォォォン!!!!
ズビリ、と空気が震えた。
大型船舶の汽笛にも似た、重厚かつ大音量の電子音が、至近距離で炸裂する。
「ギャアアアアッ!?」
「お、音響兵器か!? 鼓膜が破れるぅぅ!!」
魔族たちが耳を押さえて転げ回る。
よし、退避確認。
俺は右手のレバーを握り直した。
「解体工事、開始する」
◇
俺はレバーをゆっくりと倒した。
油圧モーターが唸りを上げ、巨大なクレーン本体が旋回を始める。
それに合わせて、ブームの先端から吊るされたワイヤーがしなる。
その先にあるのは、直径2メートルを超える鋼鉄の塊。
重量20トン。『解体用鉄球』だ。
遠心力がかかり、鉄球が振り子のように大きく空を割る。
「いっくぞー」
タイミングを合わせて、さらに旋回速度を上げる。
鉄球が加速する。
狙うは、城の外壁だ。
ブォンッ……!!
風を切る重たい音がして、鉄球が城に吸い込まれていく。
ズガァァァァァァァァン!!!!
鐘を突いたような轟音が、空一面に響き渡った。
激しい衝撃。城全体がグラグラと揺れる。
「なっ……!?」
城内で玉座にしがみついていた魔王が、驚愕の声を上げた。
「直撃だと!? あの距離から、正確に……!?」
だが、城は砕けなかった。
鉄球が当たる寸前、城全体を覆うように、七色に輝く光の膜が出現したのだ。
『絶対魔法障壁』。
物理、魔法、あらゆる干渉を遮断する、魔王軍最強の盾。
鉄球はその表面で火花を散らし、ボヨヨンと弾き返されていた。
「フハハハハ! 見たか人間! これが我が城の防御力よ!」
魔王が高笑いする。
物理攻撃など、この結界の前では無力――。
◇
「……あー、やっぱりガードが入ってるか」
操縦席の俺は、弾かれた鉄球の挙動を見て冷静に分析していた。
手応えが硬い。コンクリートの壁に当たった感じではない。
「窓ガラスにしちゃ硬いな。防弾ガラスか? それとも強化アクリルか?」
最近のビルはセキュリティがしっかりしている。
どうやら、この違法建築も全面ガラス張りのカーテンウォール構造らしい。
『マスター! あれは「神の盾」と同等の多重結界です!』
たまちゃんが通信機越しに叫ぶ。
『核ミサイルでも傷つきませんよ! あんな鉄の玉じゃ……』
「形あるものは、いつか壊れるんだよ」
俺はレバーを微調整し、揺れ戻ってきた鉄球の勢いを殺さずに、次のスイングへと繋げた。
「強化ガラスってのはな、面で押しても割れないんだ。一点に衝撃を集中させるのがコツだ」
俺は鉄球の軌道を修正した。
狙うのは、さっき当てたのと全く同じ座標。
ミリ単位のズレも許さない。
「そらよっ」
ガンッ!!
二撃目。
再び結界が明滅し、衝撃を散らす。
だが、俺は休まない。
鉄球の反動を利用し、リズムよく、まるで巨大なメトロノームのように連打を叩き込む。
ガン! ガン! ガン!
地上の勇者レオナルドが、その光景を見て震えていた。
「見よ……! あの巨体を操りながら、針の穴を通すような精密動作……! 神のハンマーが、寸分違わず急所を穿ち続けている!」
◇
ガンッ!!
五発目の衝撃が走った時。
空中に、異変が起きた。
ピキッ……
何もない空間に、蜘蛛の巣状の亀裂が走ったのだ。
「な、なんだと……!?」
魔王が玉座から立ち上がった。
「絶対防御に……ヒビが……!? ありえん! 物理衝撃の蓄積など、瞬時に修復されるはず!」
「修復が追いついていないのです! 次弾が来るまでの間隔が短すぎます!」
側近が悲鳴を上げる。
俺は、その亀裂を見逃さなかった。
「よし、ヒビが入った。脆くなったな」
ガラスは、一度ヒビが入ればあとは簡単だ。
俺はエンジンの回転数を上げた。
旋回速度、最大。
フルスイングの一撃をお見舞いする。
「そこだッ!!」
ズガァァァァン!!!!
鉄球が亀裂の中心に突き刺さった。
一瞬の静寂。
そして。
パァァァァァン!!!!
甲高い音が、空に響き渡った。
結界が、粉々に砕け散ったのだ。
七色の破片が、ダイヤモンドダストのようにキラキラと降り注ぐ。
「ば、バカな……! 結界が……割れた……!?」
魔王軍の絶望を余所に、俺は満足げに頷いた。
「よし、窓が開いた。これで風通しが良くなったな」
壁(結界)がなくなり、城の内部が丸見えになった。
慌てふためく魔族たち。
そして、城の中央で浮遊している、巨大な紫色の石が見える。
「……あれがエンジン(動力炉)か」
直径5メートルはある巨大な魔石。
あれが浮力の源だろう。
だとしたら、あれを撤去してしまえば、この城はただの岩塊に戻って落ちるはずだ。
「でも、鉄球じゃ掴めないな」
俺はフックを巻き上げながら考えた。
叩き壊すのではなく、引っこ抜く必要がある。
「先端、変えるか」
俺は無線で地上に連絡を入れた。
『レオナルド、一旦下ろすぞ。「グラップル(巨大ハサミ)」用意してくれ』
『りょ、了解です! 神の手を装着するのですね!』
俺は鉄球を地上へと下ろした。
次は、巨大なツメで、城の心臓を抉り出す番だ。
UFOキャッチャーの時間だ。




