第51話:Amazonが届かない。世界が燃えているらしい。〜『配送遅延』の犯人は魔王軍ですか?〜
俺は玄関で安全靴を履き、靴紐をきつく締めた。
ヘルメットを被り、「安全第一」のシールを指差呼称する。
「よし」
ガチャリ。
ドアを開ける。
外は、この世の終わりのような光景だった。
空は紫色に淀み、巨大なゲートからは次々と魔物が吐き出されている。
眼下には、山を埋め尽くす黒い軍勢。
だが、俺の目には、それらは「敵」には映らなかった。
「邪魔なゴミが散らかってるな」
俺は納屋の横に届いていた、レンタル重機へと向かった。
『アスファルトフィニッシャー(ホイール式)』。
道路工事の主役。アスファルト混合物を平らに敷き均すための巨大な機械だ。
ホッパー(受け皿)には、魔法で保温しておいた「合材(アスファルト混合物)」が満載されている。その温度、160度。
俺は運転席に乗り込み、エンジンをかけた。
グオオオオオン!!
巨大な重機が動き出す。
坂道を登ってきた騎士団長が、目の前に現れた黄色い巨体を見て馬を止めた。
「な、なんだあの鉄の城は!? 止まれ!」
「舗装開始。退かないなら埋めるぞ」
俺は無慈悲にレバーを操作した。
フィニッシャーの後部から、ドロドロの黒いアスファルトが排出される。
ジュワァァァァァァ……!!
猛烈な熱気と、鼻を突くタール(石油)の臭いが辺りに充満する。
「な、なんだこの黒い泥は!? 熱ッ!?」
先頭の馬が、足元の黒い沼に足を取られた。
160度の粘着物質。触れた草が一瞬で炭化する熱量だ。
「足が抜けない! 粘りつく! こ、これは溶岩か!?」
「呪いの沼だ! 退却しろ!」
だが、遅い。
アスファルトは冷えると固まる。動けば動くほど絡め取られ、数千の騎士団が一本道で団子状態になった。
「よし、路盤材の敷き均し完了」
俺はフィニッシャーを降り、次の重機へと乗り換えた。
仕上げはこいつだ。
『コンバインドローラー(4t級)』。
巨大な鉄の円筒を持つ、転圧機。
「合材を撒いたら、冷える前に踏み固めないとな」
俺はエンジンを吹かし、鉄のローラーを回転させた。
眼下には、アスファルトの海でもがく黒騎士団。
俺にとって彼らは、道路の強度を上げるための「骨材(砕石)」でしかなかった。
「平らになれよ」




