第5話:作業動画をアップしたら、ネットがざわつき始めた。
毎日 07:10、12:10、17:10、19:10 、21:10 に1話ずつ
5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので
よろしくお願いします
電気柵の設置から一夜明けた、昼下がり。
俺はエアコンの効いた自室で、自作PCに向かっていた。
「よし、データの取り込み完了」
モニターに映し出されているのは、昨日までの作業風景だ。
撮影者はたまちゃん(スマホ)。
さすがダンジョンコアの演算能力というべきか、画質が異常に良い。
「すげえな。8K・120fps? 毛穴まで見えそうだ」
『当然です。私の視覚野は、あらゆる偽装や隠蔽を見破る「真実の目」ですから。手ブレ補正も完璧ですよ』
画面の中のたまちゃんがエッヘンと胸を張る。
「じゃあ、ちゃちゃっと編集するか」
俺は動画編集ソフトを立ち上げた。
凝った演出をするつもりはない。あくまで記録用だし、誰かの参考になればいい程度のものだ。
BGMなし。テロップなし。
要らない部分をカットして繋ぐだけの、男らしい「無編集動画」だ。
「まずは、初日の整地作業。……ここ、岩を退かすシーンだな」
「次は、二日目の草刈り。……うん、チップソーの切れ味がよく分かる」
「最後は、昨夜の電気柵。……光と音が派手でいいな」
数分で編集終了。
エンコードして、動画投稿サイトへアップロードする。
タイトル:『【DIY】実家の裏山、荒れてたので整地してみた #1』
タグ:#DIY #草刈り #農業 #害獣駆除 #重機
「よし、投稿完了」
俺は「ッターン!」とエンターキーを叩き、満足げにコーヒーを啜った。
『……マスター。本当にこれを公開するんですか?』
「ん? ああ。顔はタオルで隠れてるし、場所も特定されないだろ」
『そういう問題じゃないんですけどね……。世界中の学者が卒倒しないといいんですが』
たまちゃんが何かブツブツ言っていたが、俺は気にせずブラウザを閉じた。
まあ、どうせ再生数なんて二桁いけばいい方だろう。
◇
――数時間後。
とある大手掲示板の「DIY・日曜大工スレ」に、一つのURLが貼られた。
【悲報】ニコニコ動画にとんでもないガチ勢が現れる
1 :名無しのDIY好き
これ見てみろ。
[URL]
サムネの重機からして気合入りすぎワロタ。
2 :名無しさん
釣り乙。
……って、画質良すぎだろこれ。8K?
俺の低スペックPCじゃカクカクして見れねぇよ。
3 :重機マニア
!?
このユンボ、コマツのPC30か? いや、アームの形状が微妙に違う。カスタム機か?
つーか、操作うますぎるだろ。旋回とブームの連動に無駄がなさすぎる。本職のオペレーターだわこれ。
4 :名無しさん
>>3
そこじゃないだろw
1:05あたりの岩を退かすシーン見たか?
あの岩、掴まれた瞬間に手足バタつかせてないか?
5 :オカルト板住人
>>4
見た。
岩から「グオオオン」って悲鳴みたいなSE(効果音)入ってるしな。
たぶん中に人が入ってる着ぐるみか、アニマトロニクスだろ。
それにしてもリアルだが。
6 :名無しさん
次の草刈りシーンもヤバいぞ。
雑草が触手みたいに襲いかかってきてるw
それを草刈り機で薙ぎ払うだけの映像なんだが、なんか緑色の汁がカメラに飛んでるし、動きがヌルヌルすぎて気持ち悪い。
7 :CGクリエイター
プロの目から言わせてもらうと、これはCGだね。
植物の物理演算がおかしい。あんな動き、現実の植物はしない。
でもレンダリングの質はハリウッド級だ。個人制作レベルじゃないぞ。
どこかの企業のプロモーションか?
8 :名無しさん
最後の電気柵www
夜の森に無数の赤い目が光っててワロタ。ホラー映画かよ。
からの閃光&電撃。
「バチィッ!」って音がリアルすぎてビビったわ。
9 :特定班
場所どこだこれ?
植生が日本のものに見えるけど、背景に映ってるシダ植物、図鑑で調べても出てこないんだが。
白亜紀に絶滅した古代種に似てる気がする。
10 :名無しさん
投稿者名「現場監督」。
動画の説明文「庭が荒れてたので整地しました」。
……庭? これが庭???
◇
一方、その裏側。
東京・霞が関にある、とある雑居ビルの一室。
表向きは「気象観測データセンター」だが、その実態は日本政府直轄の『超常現象監視室』。
そこでモニターにかじりついていた一人の男が、悲鳴を上げた。
「か、係長! これを見てください!」
「なんだ騒がしい。またUFO動画か?」
係長と呼ばれた中年男性、権田が気だるげに近づく。
しかし、モニターに映し出された映像を見た瞬間、彼の手からコーヒーカップが滑り落ちた。
ガシャン!
「こ、これは……!!」
「はい。今、ネットで話題になっている動画なんですが……」
「CGなどではない! 見ろ、この電気柵の放電光! これは電気じゃない、高密度の魔力プラズマだ!」
権田は食い入るように画面を凝視した。
一般人にはただの「すごい映像」に見えるものが、専門家の目には「脅威」として映っていた。
「1分5秒の岩……これは『ロック・ゴーレム』だ。しかも相当な高位個体だぞ。それを重機でゴミのように……」
「草刈りのシーンも異常です。この紫の植物、文献にある『禁忌のマンイーター』と特徴が一致します」
「場所は!? 撮影場所はどこだ!」
「現在特定中ですが……GPS情報は消されています。ただ、太陽の角度と植生から、日本の山間部であることは間違いありません」
権田は脂汗を拭った。
胃がキリキリと痛み出す。
「日本に……こんな特級指定の魔物が群生している場所があるだと? しかも、それを『整地』と称して蹂躙している人間がいる……?」
「投稿者のアカウント名は『現場監督』です」
「現場監督……。一体何者なんだ……」
◇
翌朝。
そんな騒ぎになっているとは露知らず、俺は爽やかに目覚めてPCを開いた。
「お、再生数が10万回いってる。すげえな」
たった一晩で、予想以上の数字が出ていた。
コメント欄も盛り上がっている。
『CGすげえええ!』
『映画の予告編ですか?』
『重機の操作、神業ですね』
『続きはよ』
俺はコーヒーを飲みながら、満足げに頷いた。
「『CGすげえ』か。最近のスマホ画質は凄すぎてCGに見えるって言うしな。褒め言葉として受け取っておくか」
「『重機の操作、神業』。……お、分かってるねえ。旋回とブームの連動は練習したからな」
「『場所どこですか』。……これはスルーだな。特定されてイタズラされたら迷惑だし」
どうやら、好意的なコメントが多いようだ。
俺は「いいね」ボタンを押して、PCを閉じた。
「まあ、記録用としては上出来か。また面白い作業があったら上げるか」
自己顕示欲が満たされた俺は、上機嫌で庭へと向かった。
夕涼みでもしよう。
縁側に座り、暮れなずむ空を見上げる。
平和だ。
世界中が動画の解析で大騒ぎになっていることなど、知る由もない。




