第46話:固めたコンクリの上で、露天風呂を作ろう。〜災い転じて福となす(リフォーム)〜
地下50階層。
つい先ほどまでマグマが噴き出していた地獄の釜は、今は灰色のコンクリートによって完全に封印されていた。
俺は空間の隅、コンクリから突き出している一本の鉄パイプを指差した。
封印作業のどさくさに紛れて確保しておいた、源泉引き込み用のパイプだ。
バルブをひねると、シュウウゥゥ……と適温のお湯が出てくる。
「湯はある。床暖房もある。景色もいい。露天風呂には最高のリッチだ」
俺は腕まくりをした。
世界の危機を救った直後だが、そんなことはどうでもいい。
今の俺は、風呂に入りたいだけだ。
◇
「まずは浴槽作りだ。アリシア、その辺の岩を集めてくれ」
「は、はい! 岩運びならお任せください!」
ジャージ姿のアリシアが駆け出す。
この辺りには、耐熱性の高い玄武岩や溶岩石がゴロゴロ転がっている。風情のある岩風呂を作るにはもってこいだ。
「ふんっ!」
アリシアが、抱えるほどもある巨大な岩を軽々と持ち上げた。
推定100キロはあるだろうか。
「社長! この岩、背もたれに丁度よいカーブを描いています!」
「お、いいな。運んでくれ」
ドスン、ドスン。
彼女は重機も使わず、人力で次々と岩を運んでくる。
頼もしい従業員だ。
俺は集まった岩を円形に並べ、浴槽の形を作っていく。
岩と岩の隙間には、防水モルタルを充填する。
「ここが大事だ。水漏れしたらお湯がたまらないからな」
コテを使って、丁寧に隙間を埋めていく。
背中が当たる内側は、モルタルを指でなぞって滑らかに仕上げる。入浴中に痛くないようにするための配慮だ。
「よし、枠はできた。次は床だ」
俺は軽トラから、一袋の砂利を下ろした。
ホームセンターで買っておいた、黒く艶やかな石。
『那智黒石』。
高級旅館の庭などで見かける、磨かれた玉砂利だ。
「これを底に敷き詰める。足ツボ効果もあるし、何より見栄えが良い」
ザラザラと黒い石を敷き詰める。
無機質なコンクリの床が、一気に高級感あふれる浴槽へと変わった。
『……マスター』
たまちゃんがジト目で見ている。
『国宝級の魔石を道路の砂利にした時とは、扱いが違いすぎませんか?』
「あっちはただの路盤材だろ。こっちは肌に触れるもんだぞ」
◇
浴槽ができたら、次は配管だ。
源泉かけ流しとはいえ、熱湯がそのまま出ると火傷する。温度調節が必要だ。
「上(地下1階)から引いてきた水パイプと、源泉パイプを接続する」
俺は『塩ビパイプ(VP管)』と、『継手』を取り出した。
グレーの無骨なパイプだ。
これを専用の接着剤で繋いでいく。
キュッ、ポン。キュッ、ポン。
パズルのように配管を組み上げ、最後に『サーモスタット付き混合水栓』を取り付ける。
「これで42度のお湯が安定して供給される」
その作業を見ていたマギ婆さんが、感嘆の息を漏らした。
「青き管(水)と、赤き管(湯)を結合させ……『適温』という新たな概念を生み出す……! これは相反する属性を混ぜ合わせる『融合魔法』の極意!」
「ただの配管工事だよ」
幻想的な鍾乳洞の中に、現代的なグレーの塩ビパイプが走る光景。
ミスマッチだが、それがまたスチームパンク的な機能美を醸し出している……気がする。
◇
「よし、風呂は完成。あとは……」
俺は周囲を見渡した。
だだっ広い地下空間とはいえ、着替えが丸見えなのは落ち着かない。
「目隠しがいるな。脱衣所を作るぞ」
俺は単管パイプで四角い枠を組み、そこにホームセンターで買った『葦簀』を垂らした。
風情のある簡易脱衣所の完成だ。
中には、プラスチックの脱衣カゴと、とっておきのアイテムを設置する。
『珪藻土バスマット』。
「こいつは便利だぞ。濡れた足で乗っても、一瞬で乾くからな」
「一瞬で……!?」
アリシアが興味津々でマットをつつく。
濡れた指で触ると、スーッと水が吸い込まれて消えた。
「なっ……!? 水を……貪り食った!? これは乾燥地帯に棲む魔物『砂漠の精霊』を封じ込めた石板ですか!?」
「ただの土だよ。カビないから楽なんだ」
◇
すべての準備が整った。
俺は混合水栓のハンドルを握った。
「試運転だ。注水開始」
ひねる。
ジャーーーーーッ!!
勢いよくお湯が噴き出し、岩風呂に溜まっていく。
湯気がもうもうと立ち上り、硫黄の香りが漂い始めた。
「おおお……!」
一同から歓声が上がる。
黒い岩肌、透き通ったお湯、そして背景には赤く燃えるマグマの輝き。
幻想的かつ野趣あふれる、世界でここだけの絶景露天風呂だ。
「温度よし。水漏れなし」
俺は手をお湯につけて確認した。
完璧だ。
マグマの封印から数時間。ついに、俺たちの楽園が完成した。
「よし、一番風呂といくか」
俺はタオルを肩にかけた。
ふと見ると、脱衣所の前でポチがくるくると回っている。
「くぅ〜ん……(早く! 早く開けろ!)」
どうやら待ちきれないらしい。
アリシアとマギさんも、ソワソワしている。
「今日は特別だ。みんなで入るぞ」
「えっ!? み、みんなで……ですか?」
アリシアが顔を赤らめる。
「混浴? いや、家族風呂みたいなもんだろ」
俺は気にせず服を脱ぎ始めた。
労働の後の風呂。
しかも、ここは世界中のあらゆるステータス異常を回復する、伝説の秘湯(になる予定)だ。
「さあ、癒やしの時間だ」




