第43話:温泉掘削とトラブル。〜ボーリング調査の失敗と、緊急事態〜
ガガガガガガガガガッ!!!!
地下50階層の灼熱地獄に、硬質な破砕音が響き渡る。
俺の前にあるのは、軽トラで搬入し、その場で組み立てた『簡易ボーリングマシン(井戸掘り用)』だ。
三脚に吊るされたエンジンが唸り、長いドリルロッドを回転させて、岩盤に食い込ませている。
「よし、いい音だ」
俺は振動する機械を押さえながら、水平器を確認した。
気泡はど真ん中。完璧な垂直だ。
「ここがズレると、途中でロッドが折れたり、狙った水脈を外したりするからな」
俺は額の汗を拭った。ワークマンの遮熱ブルゾンを着ていても、作業をすれば暑いものは暑い。
その様子を、少し離れた安全地帯からアリシアたちが眺めている。
「あのような細い槍で、大地の殻を貫くというのですか……?」
「うむ……。まるで星の核に針を刺す儀式じゃ。『地殻穿孔魔法』……ドワーフ族でもここまでの機材は持っておらんぞ」
二人が固唾を呑んで見守る中、俺は淡々と作業を進めた。
1メートル進むごとに、新しいロッド(鉄パイプ)をねじ込んで継ぎ足していく。
地下10メートル……20メートル……。
地上の感覚で言えば、地下数キロの深さに相当する魔力的深度だ。
「地層が変わったな。硬いけど、サクサク進む」
手に伝わる振動が変わる。
そろそろか?
◇
作業開始から数時間後。
ロッドを継ぎ足そうとした、その時だった。
ガクンッ!
ドリルの手応えが急に軽くなった。
空洞に突き当たった感触だ。
「お、抜けたか?」
俺はレバーをニュートラルに戻した。
直後。
シュオオオオオオオッ!!
ロッドと地面の隙間から、猛烈な勢いで白い蒸気が吹き出した。
続いて、熱湯の柱が天井に向かって噴き上がる。
「出た! 温泉だ!」
俺はガッツポーズをした。
フェイスシールド越しに湯気を見る。
硫黄の匂い。温度は……体感で80度くらいか。地上に引く頃には丁度いい湯加減になるだろう。
「湯量よし、温度よし。大成功だ!」
「やりましたね社長! これで温かいお風呂に入れます!」
アリシアが歓声を上げる。
ポチも「わんわん!(いい湯だな!)」と跳ね回っている。
これで冬の寒さともおさらばだ。
俺は安堵のため息をつき、湧き出るお湯を眺めた。
――しかし。
異変はすぐに起きた。
◇
ズズズズズ…………
地面の揺れが収まらない。
いや、むしろ強くなっている。
ボーリングマシンの振動ではない。もっと深い、地底の底から響いてくるような、重く不吉な地鳴りだ。
ドスン! ドスン!
まるで、巨人の心臓が鼓動しているかのような音が、足の裏から伝わってくる。
「……ん? 余震か?」
俺がいぶかしんだ瞬間、ポケットのスマホがけたたましいアラートを鳴らした。
『ビーッ! ビーッ! マスター!! 警告!! 緊急事態です!!』
画面が真っ赤に点滅している。
『直下のマグマ溜まりの圧力が、異常上昇しています! 臨界点突破!』
「は? どういうことだ?」
『掘りすぎです! マスターが貫いたのは水脈じゃありません! この星のエネルギーが循環する「火竜の動脈」です! 血管に風穴を開けちゃったんですよ!!』
たまちゃんの悲鳴と同時に、光景が一変した。
ボッフゥゥゥン!!
噴き上がっていた白い蒸気が、一瞬にして毒々しい赤色に変わった。
お湯の中に、赤く発光する粘性流体――マグマが混ざり始めたのだ。
「うおっ、熱っ!?」
飛び散ったしぶきが作業着に当たり、ジュッと音を立てる。
さらに、掘った穴を中心に、地面に亀裂が走り始めた。
ミシミシ、メリメリと岩盤が悲鳴を上げている。
「ま、まずいぞ!」
マギ婆さんが顔色を変えて叫んだ。
「大地の怒りが爆発する! 龍脈の奔流じゃ! このままでは、このダンジョンごと山が吹き飛ぶ規模の大噴火が起きるぞ!」
「噴火……!?」
アリシアが後ずさる。
「て、撤退しましょう社長! これは人の手では止められません! 自然災害そのものです!」
噴出の勢いは増すばかりだ。
赤いマグマの柱が、天井を焦がすほどの高さまで伸びている。
このままでは、ここ(地下50階層)がマグマで満たされるのも時間の問題だ。
◇
だが、俺はその場から動かなかった。
揺れる地面の上で足を踏ん張り、腕組みをして噴出孔を睨みつける。
「あーあ。配管ミスったな」
俺は舌打ちをした。
「圧が高すぎたか。これじゃバルブつけても吹き飛ぶな」
逃げる?
ここで逃げたらどうなる。
マグマが溢れて、地下農園が燃えて、最後は実家まで火の海だ。
せっかくリフォームした我が家を、施工ミスで全焼させるわけにはいかない。
「止めるしかないな」
俺はスマホを取り出した。
たまちゃんが泣きそうな顔をしている。
『マスター!? 止めるとかいうレベルじゃないです! 火山弾が飛んできてますよ!』
「穴があったら埋めればいい。単純な話だ」
水漏れならパテで埋める。
マグマ漏れなら、もっと硬いもので埋めればいい。
俺は電話帳を開き、一件の連絡先をタップした。
呼び出し音が鳴る。
相手は、俺がいつも世話になっている、地元の解体業者(兼、生コン屋)の社長だ。
「もしもし、源さん? 佐伯です」
轟音の中で、俺は声を張り上げた。
『おう、佐伯ちゃんか! なんだ後ろが騒がしいな! パチンコ屋か?』
「いや、ちょっと現場で水漏れしちゃって。急ぎで頼みたいものがあるんです」
『なんだい? 土嚢か?』
俺は、目の前で噴き上がるマグマの柱を見上げながら、冷静に注文した。
「コンクリートです。ミキサー車とポンプ車、一番デカいやつ回してください」
『はぁ? コンクリ?』
「特注の『高強度』でお願いします。あと、『急結剤(止水用)』も山盛りで」
源さんが電話の向こうで笑った気配がした。
『へっ、相変わらず急な仕事だな! いいぜ、ちょうど余ってる生コンがある! 30分で持ってく!』
「助かります。現場はいつもの裏山(ダンジョンの入り口)です」
通話を切る。
俺は仲間たちの方を振り向いた。
「よし、工事再開だ。噴火口にコンクリートを流し込んで、物理的に蓋をするぞ」
地球のエネルギー VS 現代土木技術。
絶対に負けられない戦い(止水工事)が始まろうとしていた。




