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第39話:地下農園(プラント)計画の始動。〜太陽がないなら、LED(植物育成ライト)を点ければいい〜

 巨大野菜のメルカリ出品から数日後。

 俺は再び、地下1階の倉庫エリアに降り立っていた。


 以前、ポンプで水を抜き取った元・地底湖。

 そこは今、泥が乾き、広大な地下空洞となっていた。広さはテニスコート数面分はあるだろうか。


「うん、いい物件だ」


 俺はLED懐中電灯で広大な闇を照らし、満足げに頷いた。


「ここなら広いし、地下だから気温も年間を通して一定だ。天候に左右されない農業ができる」

「それに、地面を見てみろ」


 俺は足元の土を蹴った。

 黒く、しっとりとした土。

 長年、水龍リヴァイアサンが棲み処にしていた場所だ。龍のフンや、魔物の死骸が堆積し、発酵したヘドロが乾燥して、超高濃度の有機肥料(マナ堆肥)になっている。


「土作り不要。種を撒くだけで育つ最高の環境だ」


 だが、後ろについてきたマギ婆さんが、杖をつきながら首を横に振った。


「しかし主よ。土は良くても、ここは闇の世界じゃ」


 彼女は天井を見上げた。鍾乳石が垂れ下がる岩盤だ。当然、空は見えない。


「太陽の恵みがなければ、作物は育たぬ。光合成ができんぞ」

松明たいまつを燃やしますか? それとも私が『聖なる光ホーリー・ライト』を維持し続けましょうか?」


 アリシアが提案するが、俺は却下した。


「火だと酸欠になるし、魔法だとお前が過労死する。……現代農業には、もっといいものがあるんだ」


 俺は階段の脇に積んであった、大量のAmazonのダンボール箱を指差した。


「文明の利器を使うぞ」


          ◇


 俺たちは作業に取り掛かった。

 まずは単管パイプで、畑の上に巨大なやぐらを組む。

 そこに、箱から取り出した「パネル状の機械」を等間隔に吊り下げていく。


「これは……鏡ですか? いや、ガラスの中に無数の粒が埋め込まれています」


 アリシアが不思議そうにパネルを見つめる。

 俺がポチったのは、『植物育成用LEDライト(業務用・吊り下げ式)』。

 1セット数万円するプロ仕様を、100セット大人買いした。


「太陽の代わりだ。こいつで光合成させる」

「太陽を……代用するだと? そんな神の御業が……」


 マギさんが信じられないといった顔をしている。

 俺は配線コードを繋ぎ、タイマーをセットした。

 電源は、以前設置した発電機から引いている。


「よし、設置完了。点灯式といこうか」


 俺は壁に取り付けたブレーカーのレバーに手をかけた。


「3、2、1……点灯!」


 バチッ!

 ブゥゥゥン…………


 通電音と共に、暗闇だった地下空間が一変した。


「ひっ!?」

「な、なんじゃこりゃあぁぁ!?」


 二人が悲鳴を上げて目を覆う。

 無理もない。

 そこに出現したのは、暖かな太陽の光などではなかった。


 ド派手な「赤紫マゼンタ」色の光だった。


 植物の光合成に最も効率が良いとされる「赤」と「青」の波長を強化したLED。それが混ざり合い、毒々しいほどのピンクパープルの光が、地下空間を埋め尽くしたのだ。


「ま、禍々しい……! ここは魔界の培養槽ですか!?」


 アリシアが震え上がる。

 無機質なパイプと、天井から降り注ぐ妖しい光。

 その光景は、SF映画に出てくるマッドサイエンティストの実験室か、エイリアンの巣窟にしか見えない。


「太陽を模倣したというのか!? ……いや、これは『狂気の太陽』じゃ! 自然界に存在せぬ波長じゃ!」

「まあ、人間には目に悪い色かもな」


 俺は遮光メガネ(サングラス)をかけた。

 植物にとっては、これが一番のご馳走なのだ。


          ◇


 環境は整った。次は栽培だ。

 俺は耕した地面に、レタスとホウレンソウの種を植えた。

 葉物野菜は成長が早いし、LEDとの相性がいい。


「よし、婆ちゃん。例の魔法、頼むわ」

「う、うむ……」


 マギさんが気乗りしない顔で杖を構える。


「この邪悪な光の下で精霊に呼びかけるのは気が引けるが……致し方あるまい」

「出力は抑えめでな。暴走させると天井突き破るぞ」

「承知した。……大地よ、芽吹け! 『成長促進グロウ・アップ』!」


 魔法の光が土に染み込む。

 すると、紫色のLEDに照らされた土から、ポコポコと緑色の芽が顔を出した。


 ニョキニョキニョキ……


 まるで生き物のように、芽が伸びていく。

 光合成速度が最大化された環境下で、魔法のブーストがかかる。

 通常なら1ヶ月かかる成長が、数十分、数時間単位で進んでいく。


「すごい……。見る間に葉が茂っていく……」

「水龍の土壌と、LEDの光、そして魔法。完璧なサイクルだ」


 俺は満足げに腕組みをした。

 スマホを取り出し、管理アプリで数値を確認する。


「温度よし、照度よし。タイマー設定で、一日18時間照射して、6時間休ませる。これで季節に関係なく、安定して野菜が作れる」


 俺の思考は、完全に「工場長」のそれになっていた。

 ファンタジーな農業ではない。工業製品としての野菜生産プラントだ。


          ◇


 数時間後。

 一面に、立派なリーフレタスが茂っていた。

 紫色の光を浴びて、葉脈が黒く浮き上がって見えるのが少し不気味だが、生育状態は完璧だ。


「よし、収穫してみるか」


 俺は一番育ちのいい株をナイフで切り取った。

 LEDの下から出すと、鮮やかな緑色に戻る。


「食ってみるか」

「……これを、ですか?」


 アリシアが恐る恐るレタスを見る。


「あの魔界の光を浴びて育った野菜……。呪われているのでは……?」

「食ってから言え」


 俺はバリッと葉をちぎり、アリシアの口に押し込んだ。


「むぐっ! ……ん、んんっ!?」


 咀嚼したアリシアの目が輝いた。


「み、瑞々しい! 苦味が一切なく、葉が柔らかい! 露地栽培のものより雑味がありません!」

「だろ? 風雨に晒されないからストレスがないんだ。栄養価も高いぞ」


 俺も一枚かじる。

 シャクッ。

 うん、うまい。サラダにしたら最高だ。


『マスター。見た目はバイオハザードの研究所みたいですけど、味はミシュラン級ですね』


 たまちゃんが画面の隅でヨダレを拭いている。


「よし、『地下農園アンダーグラウンド・ファーム』稼働成功だ。これで冬でも野菜には困らないな」


 俺たちは収穫した野菜をカゴいっぱいに詰めて、地上へと戻ることにした。

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