表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/76

第37話:巨大野菜の味と、身体強化。〜サラダ(おでん)を食べただけでレベルアップ〜

 庭の洗い場に、ズシンと横たわる白い巨塔。

 先ほどユンボで収穫した、全長3メートルの巨大大根だ。


「さて、捌くか。さすがにこの太さじゃ、出刃包丁もノコギリも通らん」


 俺は納屋から、昨日メンテナンスしておいた『アレ』を持ってきた。

 エンジン式チェーンソー。

 ただし、今回はソーチェーンとガイドバーを新品に交換し、潤滑オイルも「食品機械用(植物油)」に入れ替えてある。衛生面もバッチリだ。


「いっくぞー」


 俺はスターターロープを引いた。


 ブイイイイイイイィィィン!!!!


 静かな夕暮れに、けたたましい爆音が響く。

 俺は回転する刃を、大根の胴体に押し当てた。


 ズバババババババッ!!!!


 木を切る時とは違う、瑞々しい破砕音が響く。

 刃が食い込んだ瞬間、切断面から大量の水分が噴き出した。


「うおっ、汁がすごい!」


 プシャアァァッ!

 まるで水道管が破裂したかのような勢いで、透明な大根の汁が飛び散る。

 夕日に反射して、庭に綺麗な虹が架かった。


「聖なる巨木が……虹を撒き散らしながら輪切りにされていく……!」

「なんと濃密なマナ水じゃ! これを浴びるだけで肌が若返りそうじゃわい」


 アリシアとマギさんが、降り注ぐ大根汁(聖水)を浴びてうっとりしている。

 俺は気にせず、厚さ10センチの輪切りを量産していった。


          ◇


 次は煮込みだ。

 当然、普通の鍋には入らない。


「こいつを使うか」


 俺が用意したのは、BBQ用に買っておいた『半切りドラム缶』だ。

 綺麗に洗って、U字溝で作った即席カマドの上にセットする。


「水は井戸水。出汁は……この前の残りを冷凍しといたやつだ」


 ドボドボと注ぎ込んだのは、先日に作った「水龍リヴァイアサンの蒲焼き」の時に出たアラで取った濃厚スープ。

 そこに昆布と鰹節、そして市販の『おでんの素』を投入する。

 隠し味はオイスターソースだ。


「具材は、大根と……こいつも入れるか」


 同じく巨大化してしまったコンニャク(スライムではない、芋から作ったやつ)と、巨大ゆで卵(コッコトリスという魔物の卵)も放り込む。


 グツグツグツ……。


 数時間後。

 ドラム缶からは、暴力的なまでに食欲をそそる香りが立ち上っていた。

 大根は透き通るような飴色に染まり、箸……いや、トングで掴むと崩れそうなほど柔らかくなっている。


「よし、完成だ。今日は庭で食うぞ」


          ◇


 俺たちはドラム缶を囲んで、テーブルについた。

 熱々のおでんを取り分ける。


「辛子をつけて食うのが通だぞ。ほら」


 俺はアリシアの皿に、風呂桶サイズの大根を乗せた。


「い、いただきます……!」


 アリシアが割り箸で大根を割る。

 スッ……。

 抵抗がない。まるで豆腐のように滑らかに切れた。

 湯気と共に、黄金色の出汁がジュワッと溢れ出す。


 ハフッ、ハフッ……。

 彼女が熱い塊を口に放り込む。


「んんっ!? ……あ、甘いっ!!」


 アリシアが目を見開いた。


「噛む必要がありません! 舌の上でトロトロに溶けていきます! 大地の甘みと、水龍のコクが、口の中で爆発しています!」

「味染みてるな。成功だ」


 俺も一切れ頬張る。

 うん、美味い。肥料が効きすぎたせいか、野菜の味がめちゃくちゃ濃い。


 その時だった。


 ドクンッ!!


 アリシアの体が、ビクンと跳ねた。

 ジャージ越しでも分かるほど、全身の筋肉が脈打っている。


「な、なんです!? 体の奥から……灼熱の力が湧いてきます! 抑えきれません!」

「落ち着け。栄養がありすぎるだけだ」


 アリシアが次の具を取ろうとして、割り箸に力を入れた瞬間。


 バキィッ!!


「あ」


 割り箸が粉砕された。

 それだけではない。持っていた茶碗にも、ピキピキとヒビが入っていく。


「握力が……制御できません! 指先が万力バイスになったようです!」

「おいおい、食器を壊すなよ。ゴリラか」


 どうやらSTR(筋力)がカンストしたらしい。

 恐るべき8-8-8肥料の効果だ。


          ◇


 一方、向かいのマギさん(老婆姿)も、ハフハフと大根を食べていた。


「ふごふご……。柔らかいのぉ。歯がなくても食えるわい」


 彼女は皿に残ったスープまで、ズズーッと飲み干した。


「ぷはぁ。……おお? なんだか体が熱いのう」


 ボムッ!!


 突然、マギさんの体から白い湯気(魔力光)が噴き出した。


「わっ、婆ちゃん大丈夫か!?」


 俺が覗き込むと、光の中から一人の女性が現れた。

 シワだらけだった肌は白磁のように輝き、曲がっていた腰はスラリと伸び、白髪は艶やかな金髪に変わっている。

 見た目年齢、20代。

 とんでもない絶世の美女エルフだ。


「……誰?」

「おお……! 魔力回路が完全修復された! 細胞が活性化しておる!」


 美女が、鈴を転がすような美声で叫んだ。


「主よ! これがわしの全盛期の姿じゃ! どうじゃ、惚れ直したか?」

「へー、昔は美人だったんだな。加工アプリ(詐欺写真)みたいだ」

「感想が薄い!」


 マギさんが頬を膨らませる。

 どうやら、高濃度のマナと栄養を摂取したことで、一時的に若返った(アンチエイジング)らしい。

 まあ、消化されれば元に戻るだろう。


「ポチはどうだ?」

「わんっ!(おかわり!)」


 ポチは大根を丸呑みにしていた。

 一瞬、体が巨大化フェンリルモードしかけたが、俺が頭を撫でると「へへっ」と舌を出して元の柴犬に戻った。

 毛並みがプラチナのように輝いている。トリミング直後より綺麗だ。


「俺は……なんともないな」


 俺も大根を食べてみたが、普通に美味しいだけだ。

 多少、肩こりが治った気がする程度か。


『マスターは既にステータスがオーバーフロー(測定不能)してますから、誤差の範囲ですね』


 たまちゃんが画面の隅で冷静に分析していた。


「まあ、食物繊維たっぷりだからな。明日は快便間違いなしだ」


          ◇


 食後。

 俺たちは満腹で動けなくなっていた。

 だが、問題が一つ。


 目の前のドラム缶には、まだ8割近くのおでんが残っている。

 さらに、収穫した巨大大根はあと2本残っているのだ。


「作りすぎたな……。これじゃ明日も明後日もおでんだぞ」

「私は構いません! 毎日でも!」

「わしもじゃ! このまま若さを保ちたい!」


 二人は乗り気だが、さすがに飽きる。

 冷蔵庫にも入らないし、腐らせるのは農家(家庭菜園)の恥だ。


「配るか」


 俺は閃いた。


「下流の村の人たちに、お裾分けしてこよう。前に野菜もらったし、そのお返しだ」

「なるほど。神の恵みを下々の者へ……慈悲深いです、社長」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ