第3話:砂利(魔石)が余ったので、私道を舗装してみた。
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5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので
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ガタンッ! ゴトトトト……!
ズズッ……(タイヤが空転する音)
「あー、揺れるなぁ……」
俺はハンドルにしがみつきながら、溜息をついた。
俺の愛車、白い軽トラ(4WD・5速マニュアル)が、悲鳴を上げている。
ここは実家から麓の県道へと続く、唯一の進入路だ。
道といっても、祖父が山を開拓した際につけた、ただの獣道である。
昨日の雨と、俺が重機で行き来したせいで、路面はぬかるみ、大きな轍ができていた。
「これじゃサスペンションがイカれるし、何より腰に悪い。せっかくジュースを買いに行こうと思ったのに、炭酸が抜けちまうよ」
俺はシフトをローに入れ、半クラッチを駆使して泥沼を脱出した。
なんとか平らな場所まで車を進め、サイドブレーキを引く。
「……舗装、するか」
せっかく庭を整地しても、そこに至る道が悪ければ物流が滞る。
元・現場監督の血が、この悪路を許せなかった。
「でも、アスファルト頼むと高いしなぁ。コンクリ打つにも型枠が面倒だ」
ふと、荷台を見る。
そこには、昨日の草刈りで回収した「黒い石」が入ったバケツが積んであった。
マンイーターの根元から出た、硬そうな石だ。
「……これでいいか」
俺はバケツを手に取った。
これを砕いて撒けば、立派な「砕石(砂利)舗装」になるだろう。
泥のぬかるみも解消されるし、タイヤのグリップも良くなるはずだ。
『ま、マスター!? 今、ものすごく不敬なことを考えていませんか!?』
胸ポケットのスマホが震えた。
たまちゃんだ。
『それは「深緑の核」ですよ! 冒険者が一生かかって一つ手に入れられるかどうかの秘宝です! 王都に持っていけば、屋敷が建ちます! 一生遊んで暮らせます!』
「屋敷より、今の快適な道路だ」
俺は聞く耳を持たず、工具箱から『大ハンマー(スレッジハンマー)』を取り出した。
柄の長い、解体用のやつだ。
「よし、撒くぞ」
俺は轍の深い部分に、ゴロゴロと魔石を転がした。
黒曜石のように輝く石が、汚い泥の上に並ぶ。
「えいっ」
ガチンッ!!
ハンマーを振り下ろす。
硬い手応えと共に、魔石が粉々に砕け散った。
パリーーーン!!
その瞬間、砕けた破片から、紫色のガスのようなものが「プシュゥゥゥ!」と噴き出した。
『ひいぃぃっ! もったいない! 純粋なマナが霧散していくぅぅ! 私ガチャ100連分の魔力がぁぁ!』
「お、中身が詰まってるのか? 意外と簡単に割れるな。施工性がいい」
俺はたまちゃんの悲鳴をBGMに、次々と国宝級の石を叩き割っていった。
ガチン! パリン!
砕くたびにキラキラした粉が舞い、泥水と混ざり合っていく。
「よし、こんなもんか」
砕石を敷き詰めたら、次は「転圧(締め固め)」だ。
本来ならランマーやプレートといった専用機械を使うが、今は手持ちがない。
「ユンボで踏めばいいか」
俺はユンボに乗り換え、キャタピラで砕石の上を何度も往復した。
数トンの重量でグリグリと踏み固める。
ガリガリ……ミシミシ……
すると、不思議なことが起きた。
ただの砂利道になるかと思いきや、砕けた魔石の粉末が泥と化学反応を起こしたのか、互いに溶け合うように結合し始めたのだ。
数分後。
そこには、黒く濡れたように輝く、一枚岩の舗装道路が完成していた。
『……なんということでしょう』
たまちゃんが呆然とした声を出す。
『泥と魔石粉末が圧力融合して……古代魔法文明の「転移回廊」より純度の高い、魔導路面が出来てしまいました……』
「うん、水はけも良さそうだ。見た目も黒くてカッコいいな」
俺は満足げに頷くと、再び軽トラに乗り込んだ。
さて、試運転だ。
◇
ドアを閉め、シートベルトを締める。
こいつとは長い付き合いだ。エアコンの効きは悪いし、内装もチープだが、日本の田舎を走るならフェラーリよりこいつが最強だ。
「行くぞ」
ギアをローに入れ、クラッチを繋ぐ。
アクセルをじわりと踏んだ。
タイヤが、完成したばかりの「黒い道」に乗る。
その瞬間だった。
ヒュオオオオオオオオ…………
「ん?」
エンジンの音とは違う、インバーターのような高周波音が聞こえた気がした。
同時に、車体がフワッと軽くなる。
「……あれ?」
アクセルを軽く踏んだだけなのに、背中がシートに押し付けられた。
加速Gだ。
いつもなら「ブブブ……」と苦しげに登る坂道を、軽トラは音もなく滑るように加速していく。
「おわっ、速い速い!」
慌ててセカンド、サードへとシフトアップする。
スピードメーターの針が、ありえない速度で跳ね上がる。
時速40キロ、60キロ……あっという間に80キロ。
この細い山道で出す速度じゃない。
だが、不思議と怖くなかった。
ガタガタという振動が一切ないのだ。
まるで氷の上を滑っているかのように──いや、地面から数ミリ浮いているかのように、滑らかに進んでいく。
『マスター! タイヤを見てください! タイヤが!』
「なんだ、パンクか?」
サイドミラーを見る。
タイヤが、青白く発光していた。
『路面の魔力をタイヤが吸い上げて、推進力に変換してます! これもう軽トラじゃなくて「魔導戦車」ですよ!』
「……そうか、プラグ交換したから調子いいんだな」
『人の話を聞いてください!!』
◇
あっという間に麓まで降りてきてしまった。
いつもの3倍くらいのペースだ。
俺は自販機の前で車を停めると、メーターパネルを確認した。
「……減ってない」
ガソリンの針が、出発時からピクリとも動いていない。
これだけの山道を、結構な高回転で走ったはずなのに。
「なるほどな」
俺は納得した。
「やっぱり舗装は大事だわ。路面の抵抗が減ったから、燃費が劇的に向上したんだな」
『違います。外部電源で走ってるようなもんだからです』
「これならリッター500キロはいけるかもしれん。家計に優しいな」
俺はホクホク顔で、自販機のコーラ(130円)を買った。
浮いたガソリン代で飲むコーラは格別だ。
「よし、帰るか」
帰り道も、軽トラは唸りを上げて急勾配を登っていった。
これなら、重い資材を積んでも楽勝だろう。
俺は「いいDIYをした」という充実感に包まれていた。
――だが、俺は気づいていなかった。
夜になり、俺が家で寝静まった頃。
俺が敷いた「黒い道」が、月明かりを浴びて妖しく発光し、山全体に濃厚な魔力を撒き散らしていたことを。
そして、その甘い魔力の匂いに惹き寄せられて、森の奥深くから、招かれざる客たちが近づいてきていることを。
ギチチ……ギャギャッ……
暗闇に光る、無数の赤い目。
小鬼の群れだ。
「ヒャッハー! 人間ノ匂イガスルゾ!」
「コノ道、歩キヤスイ! 人間ノ家、ドコダ!」
快適になった道路は、敵にとっても「侵攻しやすいルート」になってしまっていたのだ。




