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第3話:砂利(魔石)が余ったので、私道を舗装してみた。

毎日 07:10、12:10、17:10、19:10 、21:10  に1話ずつ

5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので

よろしくお願いします

 ガタンッ! ゴトトトト……!

 ズズッ……(タイヤが空転する音)


「あー、揺れるなぁ……」


 俺はハンドルにしがみつきながら、溜息をついた。

 俺の愛車、白い軽トラ(4WD・5速マニュアル)が、悲鳴を上げている。


 ここは実家からふもとの県道へと続く、唯一の進入路だ。

 道といっても、祖父が山を開拓した際につけた、ただの獣道である。

 昨日の雨と、俺が重機で行き来したせいで、路面はぬかるみ、大きなわだちができていた。


「これじゃサスペンションがイカれるし、何より腰に悪い。せっかくジュースを買いに行こうと思ったのに、炭酸が抜けちまうよ」


 俺はシフトをローに入れ、半クラッチを駆使して泥沼を脱出した。

 なんとか平らな場所まで車を進め、サイドブレーキを引く。


「……舗装、するか」


 せっかく庭を整地しても、そこに至るアクセスが悪ければ物流が滞る。

 元・現場監督の血が、この悪路を許せなかった。


「でも、アスファルト頼むと高いしなぁ。コンクリ打つにも型枠が面倒だ」


 ふと、荷台を見る。

 そこには、昨日の草刈りで回収した「黒い石」が入ったバケツが積んであった。

 マンイーターの根元から出た、硬そうな石だ。


「……これでいいか」


 俺はバケツを手に取った。

 これを砕いて撒けば、立派な「砕石(砂利)舗装」になるだろう。

 泥のぬかるみも解消されるし、タイヤのグリップも良くなるはずだ。


『ま、マスター!? 今、ものすごく不敬なことを考えていませんか!?』


 胸ポケットのスマホが震えた。

 たまちゃんだ。


『それは「深緑のコア」ですよ! 冒険者が一生かかって一つ手に入れられるかどうかの秘宝です! 王都に持っていけば、屋敷が建ちます! 一生遊んで暮らせます!』

「屋敷より、今の快適な道路だ」


 俺は聞く耳を持たず、工具箱から『大ハンマー(スレッジハンマー)』を取り出した。

 柄の長い、解体用のやつだ。


「よし、撒くぞ」


 俺は轍の深い部分に、ゴロゴロと魔石を転がした。

 黒曜石のように輝く石が、汚い泥の上に並ぶ。


「えいっ」


 ガチンッ!!


 ハンマーを振り下ろす。

 硬い手応えと共に、魔石が粉々に砕け散った。


パリーーーン!!


 その瞬間、砕けた破片から、紫色のガスのようなものが「プシュゥゥゥ!」と噴き出した。


『ひいぃぃっ! もったいない! 純粋なマナが霧散していくぅぅ! 私ガチャ100連分の魔力がぁぁ!』

「お、中身が詰まってるのか? 意外と簡単に割れるな。施工性がいい」


 俺はたまちゃんの悲鳴をBGMに、次々と国宝級の石を叩き割っていった。

 ガチン! パリン!

 砕くたびにキラキラした粉が舞い、泥水と混ざり合っていく。


「よし、こんなもんか」


 砕石を敷き詰めたら、次は「転圧(締め固め)」だ。

 本来ならランマーやプレートといった専用機械を使うが、今は手持ちがない。


「ユンボで踏めばいいか」


 俺はユンボに乗り換え、キャタピラで砕石の上を何度も往復した。

 数トンの重量でグリグリと踏み固める。


 ガリガリ……ミシミシ……


 すると、不思議なことが起きた。

 ただの砂利道になるかと思いきや、砕けた魔石の粉末が泥と化学反応を起こしたのか、互いに溶け合うように結合し始めたのだ。


 数分後。

 そこには、黒く濡れたように輝く、一枚岩の舗装道路が完成していた。


『……なんということでしょう』


 たまちゃんが呆然とした声を出す。


『泥と魔石粉末が圧力融合して……古代魔法文明の「転移回廊」より純度の高い、魔導路面マナ・ロードが出来てしまいました……』

「うん、水はけも良さそうだ。見た目も黒くてカッコいいな」


 俺は満足げに頷くと、再び軽トラに乗り込んだ。

 さて、試運転テストドライブだ。


          ◇


 ドアを閉め、シートベルトを締める。

 こいつとは長い付き合いだ。エアコンの効きは悪いし、内装もチープだが、日本の田舎を走るならフェラーリよりこいつが最強だ。


「行くぞ」


 ギアをローに入れ、クラッチを繋ぐ。

 アクセルをじわりと踏んだ。


 タイヤが、完成したばかりの「黒い道」に乗る。


 その瞬間だった。


 ヒュオオオオオオオオ…………


「ん?」


 エンジンの音とは違う、インバーターのような高周波音が聞こえた気がした。

 同時に、車体がフワッと軽くなる。


「……あれ?」


 アクセルを軽く踏んだだけなのに、背中がシートに押し付けられた。

 加速Gだ。

 いつもなら「ブブブ……」と苦しげに登る坂道を、軽トラは音もなく滑るように加速していく。


「おわっ、速い速い!」


 慌ててセカンド、サードへとシフトアップする。

 スピードメーターの針が、ありえない速度で跳ね上がる。

 時速40キロ、60キロ……あっという間に80キロ。

 この細い山道で出す速度じゃない。


 だが、不思議と怖くなかった。

 ガタガタという振動が一切ないのだ。

 まるで氷の上を滑っているかのように──いや、地面から数ミリ浮いているかのように、滑らかに進んでいく。


『マスター! タイヤを見てください! タイヤが!』

「なんだ、パンクか?」


 サイドミラーを見る。

 タイヤが、青白く発光していた。


『路面の魔力をタイヤが吸い上げて、推進力に変換してます! これもう軽トラじゃなくて「魔導戦車チャリオット」ですよ!』

「……そうか、プラグ交換したから調子いいんだな」

『人の話を聞いてください!!』


          ◇


 あっという間に麓まで降りてきてしまった。

 いつもの3倍くらいのペースだ。


 俺は自販機の前で車を停めると、メーターパネルを確認した。


「……減ってない」


 ガソリンの針が、出発時からピクリとも動いていない。

 これだけの山道を、結構な高回転で走ったはずなのに。


「なるほどな」


 俺は納得した。


「やっぱり舗装は大事だわ。路面の抵抗ロスが減ったから、燃費が劇的に向上したんだな」

『違います。外部電源で走ってるようなもんだからです』

「これならリッター500キロはいけるかもしれん。家計に優しいな」


 俺はホクホク顔で、自販機のコーラ(130円)を買った。

 浮いたガソリン代で飲むコーラは格別だ。


「よし、帰るか」


 帰り道も、軽トラは唸りを上げて急勾配を登っていった。

 これなら、重い資材を積んでも楽勝だろう。

 俺は「いいDIYをした」という充実感に包まれていた。


 ――だが、俺は気づいていなかった。


 夜になり、俺が家で寝静まった頃。

 俺が敷いた「黒い道」が、月明かりを浴びて妖しく発光し、山全体に濃厚な魔力を撒き散らしていたことを。


 そして、その甘い魔力の匂いに惹き寄せられて、森の奥深くから、招かれざる客たちが近づいてきていることを。


 ギチチ……ギャギャッ……


 暗闇に光る、無数の赤い目。

 小鬼ゴブリンの群れだ。


「ヒャッハー! 人間ノ匂イガスルゾ!」

「コノ道、歩キヤスイ! 人間ノ家、ドコダ!」


 快適になった道路は、敵にとっても「侵攻しやすいルート」になってしまっていたのだ。

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