表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/76

第26話:軽トラの馬力が足りないので、魔改造する。

 ブブブブブブ……。


 悲痛なエンジン音が、山道に響いていた。

 俺の愛車、スズキ・キャリイ(平成生まれ)が、急勾配の坂道で喘いでいる。


「遅いなぁ……」


 俺はシフトノブを握りしめ、アクセルをベタ踏みした。

 だが、スピードメーターの針は40キロを行ったり来たりしている。

 荷台には、前回の買い出しで余った資材が少々。大した重さではないはずなのに、この体たらくだ。


「2速じゃ吹け切るし、3速じゃトルクが足りない。やっぱりNA(自然吸気)エンジンの軽トラじゃ、この峠はキツイか」


 助手席のアリシアが、不安そうにダッシュボードにしがみついている。


「しゃ、社長……。鉄の馬が悲鳴を上げています……! 心臓が破裂しそうな音です!」

「古い車だからな。登坂車線があったら間違いなく入るレベルだ」


 俺はため息をついた。

 魔石アスファルトのおかげで路面状況は最高なのに、肝心のマシンパワーが足りていない。

 これでは、いざという時の資材運搬に支障が出る。


「……ターボ、欲しいな」


 過給機。空気を圧縮してエンジンに押し込み、爆発的なパワーを生み出す魔法の装置。

 だが、後付けターボキットなんて高いし、取り付けも面倒だ。


「もっと手軽に、強制吸気ラムエアできないもんかな……」


 俺の脳裏に、納屋に転がっている「ある素材」が浮かんだ。


          ◇


 帰宅後。

 俺は軽トラを納屋に入れ、助手席のシートを跳ね上げた。

 軽トラのエンジンはここにある。


「さて、と」


 俺が取り出したのは、こぶし大の緑色に輝く石。

 『風の魔石』だ。

 メルカリ出品祭りで、自分用に一個だけキープしておいたやつである。


「こいつからは常に強烈な風が吹き出している。……つまりだ」


 俺はエアクリーナーボックス(エンジンの空気取り入れ口)の蓋を外した。


「こいつを吸気口に突っ込めば、『無限過給』ができるんじゃないか?」

『マスター、正気ですか?』


 スマホのたまちゃんが、ドン引きした声を出す。


『それは「疾風の王ストーム・ロード」の核ですよ? 竜巻を生み出すエネルギー源です。それを内燃機関に直結したら、シリンダーが爆発してピストンが空の彼方に飛んでいきますよ?』

「大丈夫だ。日本のエンジンは頑丈だからな(鋳鉄ブロックだし)」


 俺は魔石を吸気ダクトに当てがった。

 サイズが合わない。魔石の方が少し大きい。


「入らないな。……まあ、無理やり固定すればいいか」


 俺は工具箱から、DIYの最終兵器を取り出した。

 『布粘着テープ(シルバー)』。通称、ガムテープ。

 配管の水漏れからバンパーの補修まで、人類の知恵が詰まった万能拘束具だ。


「吸気漏れがないように、ガチガチに巻くぞ」


 ダクトに魔石を押し当て、銀色のテープでグルグル巻きにする。

 見た目は最悪だが、機能すればいいのだ。


「よし、隙間なし。吸気効率1000%アップだ」


 横で見ていたアリシアが、ゴクリと唾を飲んだ。


「なんと……! 暴れ狂う『暴風の精霊』を、あの『銀色の聖帯』だけで封じ込めるとは……!」

「粘着力が強いからな」

「主殿の拘束魔術ガムテは、神話級の強度……! 勉強になります!」


          ◇


 施工完了。所要時間5分。

 俺は運転席に戻り、キーを差し込んだ。


「さて、どうなるか。燃調(燃料調整)が追いついてくれるといいが」


 キーを回す。


 キュルルル……。


 セルモーターが回る音。ここまではいつも通りだ。

 だが、点火した瞬間。


 ドォォォォンッ!!


 納屋の屋根が震えるほどの爆音が炸裂した。


「きゃあぁっ!?」


 アリシアが耳を塞いでしゃがみ込む。

 マフラーから、青白い炎アフターファイアーがバック・トゥ・ザ・フューチャーのように噴き出している。


 そして、エンジン音が変わった。


 改造前:「ポポポポポ……(牧歌的)」

 改造後:「キィィィィィィン……(金属的な高周波)」


「……ジェット機か?」


 俺はタコメーター(後付け)を見た。

 アイドリングなのに3000回転を指している。

 車体がガクガクと武者震いし、サイドブレーキを引いているのに前に進もうとしている。


「お、クリープ現象が強すぎるな。空気の流入量が多すぎて、ECUコンピューターがガソリンを吹きまくってるのか」

『マスター! 吸気圧計が振り切れてます! これもう過給圧3キロとかかかってますよ!? F1マシンですか!?』

「まあ、走れば馴染むだろ」


 俺は細かいことは気にしないことにした。

 とりあえず、走ってみないと分からない。


「ちょっと試運転してくる。誰か乗るか?」


 俺が声をかけると、アリシアが青ざめた顔で立ち上がった。


「(あの音……爆発寸前のドラゴンの咆哮だ……。あの中に乗るなど、火口に飛び込むようなもの……)」

「嫌ならいいぞ」

「い、行きます! 社長の安全を守るのが、警備員の務めですから!」


 彼女は決死の覚悟で、助手席に乗り込んだ。

 シートベルトを両手で握りしめている。


「わんっ!」


 そこへ、犬小屋からポチが飛び出してきた。

 爆音を聞きつけて、野生の血が騒いだらしい。


「わんわん!(風の匂いがする! これは速いぞ!)」


 ポチは迷わず荷台に飛び乗ると、流線型の姿勢をとった。

 風を受ける準備万端だ。


「よし、全員乗ったな」


 俺はサイドブレーキを下ろし、クラッチを切った。

 ギアをローに入れる。


「行くぞ」


 俺は、ほんの少しだけアクセルを踏んだ。


 ギャギャギャギャギャッ!!!!


 凄まじいスキール音と共に、4本のタイヤが空転し、白煙を上げた。

 次の瞬間。


 ズドンッ!!


 背中を巨人に蹴飛ばされたような衝撃。

 軽トラが、ロケットのように射出された。


「うおっ!? Gがすごいな! シートに張り付く!」

「ひいいぃぃぃーーッ!!(白目)」

『風だぁぁぁぁ!!(歓喜)』


 納屋を飛び出し、俺たちは魔石舗装された山道へと躍り出た。

 0-100km/h加速、推定2秒。

 それはもはや軽トラではなかった。

 白い流星だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
マニュアル車なのにクリープ現象とは、凄い改造だ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ