第26話:軽トラの馬力が足りないので、魔改造する。
ブブブブブブ……。
悲痛なエンジン音が、山道に響いていた。
俺の愛車、スズキ・キャリイ(平成生まれ)が、急勾配の坂道で喘いでいる。
「遅いなぁ……」
俺はシフトノブを握りしめ、アクセルをベタ踏みした。
だが、スピードメーターの針は40キロを行ったり来たりしている。
荷台には、前回の買い出しで余った資材が少々。大した重さではないはずなのに、この体たらくだ。
「2速じゃ吹け切るし、3速じゃトルクが足りない。やっぱりNA(自然吸気)エンジンの軽トラじゃ、この峠はキツイか」
助手席のアリシアが、不安そうにダッシュボードにしがみついている。
「しゃ、社長……。鉄の馬が悲鳴を上げています……! 心臓が破裂しそうな音です!」
「古い車だからな。登坂車線があったら間違いなく入るレベルだ」
俺はため息をついた。
魔石アスファルトのおかげで路面状況は最高なのに、肝心のマシンパワーが足りていない。
これでは、いざという時の資材運搬に支障が出る。
「……ターボ、欲しいな」
過給機。空気を圧縮してエンジンに押し込み、爆発的なパワーを生み出す魔法の装置。
だが、後付けターボキットなんて高いし、取り付けも面倒だ。
「もっと手軽に、強制吸気できないもんかな……」
俺の脳裏に、納屋に転がっている「ある素材」が浮かんだ。
◇
帰宅後。
俺は軽トラを納屋に入れ、助手席のシートを跳ね上げた。
軽トラのエンジンはここにある。
「さて、と」
俺が取り出したのは、こぶし大の緑色に輝く石。
『風の魔石』だ。
メルカリ出品祭りで、自分用に一個だけキープしておいたやつである。
「こいつからは常に強烈な風が吹き出している。……つまりだ」
俺はエアクリーナーボックス(エンジンの空気取り入れ口)の蓋を外した。
「こいつを吸気口に突っ込めば、『無限過給』ができるんじゃないか?」
『マスター、正気ですか?』
スマホのたまちゃんが、ドン引きした声を出す。
『それは「疾風の王」の核ですよ? 竜巻を生み出すエネルギー源です。それを内燃機関に直結したら、シリンダーが爆発してピストンが空の彼方に飛んでいきますよ?』
「大丈夫だ。日本のエンジンは頑丈だからな(鋳鉄ブロックだし)」
俺は魔石を吸気ダクトに当てがった。
サイズが合わない。魔石の方が少し大きい。
「入らないな。……まあ、無理やり固定すればいいか」
俺は工具箱から、DIYの最終兵器を取り出した。
『布粘着テープ(シルバー)』。通称、ガムテープ。
配管の水漏れからバンパーの補修まで、人類の知恵が詰まった万能拘束具だ。
「吸気漏れがないように、ガチガチに巻くぞ」
ダクトに魔石を押し当て、銀色のテープでグルグル巻きにする。
見た目は最悪だが、機能すればいいのだ。
「よし、隙間なし。吸気効率1000%アップだ」
横で見ていたアリシアが、ゴクリと唾を飲んだ。
「なんと……! 暴れ狂う『暴風の精霊』を、あの『銀色の聖帯』だけで封じ込めるとは……!」
「粘着力が強いからな」
「主殿の拘束魔術は、神話級の強度……! 勉強になります!」
◇
施工完了。所要時間5分。
俺は運転席に戻り、キーを差し込んだ。
「さて、どうなるか。燃調(燃料調整)が追いついてくれるといいが」
キーを回す。
キュルルル……。
セルモーターが回る音。ここまではいつも通りだ。
だが、点火した瞬間。
ドォォォォンッ!!
納屋の屋根が震えるほどの爆音が炸裂した。
「きゃあぁっ!?」
アリシアが耳を塞いでしゃがみ込む。
マフラーから、青白い炎がバック・トゥ・ザ・フューチャーのように噴き出している。
そして、エンジン音が変わった。
改造前:「ポポポポポ……(牧歌的)」
改造後:「キィィィィィィン……(金属的な高周波)」
「……ジェット機か?」
俺はタコメーター(後付け)を見た。
アイドリングなのに3000回転を指している。
車体がガクガクと武者震いし、サイドブレーキを引いているのに前に進もうとしている。
「お、クリープ現象が強すぎるな。空気の流入量が多すぎて、ECUがガソリンを吹きまくってるのか」
『マスター! 吸気圧計が振り切れてます! これもう過給圧3キロとかかかってますよ!? F1マシンですか!?』
「まあ、走れば馴染むだろ」
俺は細かいことは気にしないことにした。
とりあえず、走ってみないと分からない。
「ちょっと試運転してくる。誰か乗るか?」
俺が声をかけると、アリシアが青ざめた顔で立ち上がった。
「(あの音……爆発寸前のドラゴンの咆哮だ……。あの中に乗るなど、火口に飛び込むようなもの……)」
「嫌ならいいぞ」
「い、行きます! 社長の安全を守るのが、警備員の務めですから!」
彼女は決死の覚悟で、助手席に乗り込んだ。
シートベルトを両手で握りしめている。
「わんっ!」
そこへ、犬小屋からポチが飛び出してきた。
爆音を聞きつけて、野生の血が騒いだらしい。
「わんわん!(風の匂いがする! これは速いぞ!)」
ポチは迷わず荷台に飛び乗ると、流線型の姿勢をとった。
風を受ける準備万端だ。
「よし、全員乗ったな」
俺はサイドブレーキを下ろし、クラッチを切った。
ギアをローに入れる。
「行くぞ」
俺は、ほんの少しだけアクセルを踏んだ。
ギャギャギャギャギャッ!!!!
凄まじいスキール音と共に、4本のタイヤが空転し、白煙を上げた。
次の瞬間。
ズドンッ!!
背中を巨人に蹴飛ばされたような衝撃。
軽トラが、ロケットのように射出された。
「うおっ!? Gがすごいな! シートに張り付く!」
「ひいいぃぃぃーーッ!!(白目)」
『風だぁぁぁぁ!!(歓喜)』
納屋を飛び出し、俺たちは魔石舗装された山道へと躍り出た。
0-100km/h加速、推定2秒。
それはもはや軽トラではなかった。
白い流星だった。




