第21話:ワンコインの『砂利』をコンビニから発送した。
俺は軽トラに乗り、山を降りて最寄りのコンビニへと向かった。
田舎のコンビニは、物流の拠点であり、村民のオアシスだ。
ウィーン。
自動ドアをくぐり、レジへ直行する。
「お願いします」
「はーい、メルカリ便ですねー」
バイトの女の子が、慣れた手つきでバーコードをスキャンする。
ピッ。
レシートが出力され、専用の袋に入れて封筒に貼る。
ここまでは順調だった。
だが、店員が封筒を受け取った瞬間、彼女が小首をかしげた。
「あれ? お客様、これ……少し温かいですね?」
ギクリとした。
魔石だ。封印(梱包)が甘かったのか、エネルギーが熱となって漏れ出しているらしい。
いわば、半永久的に発熱し続けるホッカイロ状態だ。
「あー、それね」
俺は平静を装って嘘をついた。
「さっきまでコタツに入れてたから。冷めないうちに届けたくて」
「なるほどー! そういうことですか!」
店員は笑顔で納得した。
田舎の人は疑うことを知らない。
「では、お預かりしまーす」
店員が封筒をレジ奥の棚に置く。
その瞬間、棚の上の電子レンジが「チン!」と勝手に鳴り、防犯カメラの映像が一瞬歪んだ気がしたが、俺は見なかったことにした。
『(ふぅ……。もし中身を見られていたら、店員さんが「魔力酔い」で気絶するところでした……)』
たまちゃんの安堵のため息が聞こえた。
◇
「さて、仕事(発送)も終わったし、自分へのご褒美だ」
俺はスイーツコーナーへと足を向けた。
今回の売上金(500円)が入る予定なので、強気な買い物ができる。
「これだな」
手に取ったのは、『プレミアムロールケーキ』と『大きなツインシュー』。
コンビニスイーツ界の傑作だ。
家に帰ると、アリシアとポチが玄関で待っていた。
「おかえりなさいませ、社長!」
「わんっ!」
「ただいま。ほら、土産だ」
俺はシュークリームを渡した。
アリシアがおずおずとパッケージを開ける。
「これは……? 柔らかい皮の中に、黄金のクリームが……」
一口かじる。
その瞬間、彼女の碧眼が見開かれた。
「んんっ!? 甘い……! そして濃厚なコク!」
「カスタードクリームっていうんだ」
「カスタード……! 卵と牛乳と砂糖を、完璧な温度管理で融合させた錬金術の結晶! 王族の結婚式でしか出ないレベルの菓子を、コンビニという場所は常備しているのですか!?」
アリシアが打ち震えている。
ポチも鼻にクリームをつけながら、夢中で貪っていた。
「平和だなあ」
俺はロールケーキを食べながら、のんびりと茶を啜った。
500円の売上で、これだけ幸せになれる。
やはり不用品販売は素晴らしい。
◇
数日後。
スマホに通知が届いた。
【商品が到着し、購入者から評価されました】
「お、届いたか。早かったな」
俺はアプリを開き、取引メッセージを確認した。
購入者は、あのアクアリウムマニアらしき人物だ。
『無事に届きました!
梱包を開けた瞬間、封じ込められていた魔力の爆風で、家の窓ガラスが全部割れました(笑)。
凄まじいエネルギーです。本物の「賢者の石」を手にできる日が来るとは……。
これは家宝にします! ありがとうございました!』
評価:【良い】
「…………」
俺はメッセージを二度見した。
「『窓が割れた(笑)』って……。冗談キツイな」
配送中に揺れて、石同士がぶつかった音でもしたんだろうか。
それを大げさに言っているに違いない。
オタク特有の早口な文体からして、かなり興奮しているようだ。
「まあ、満足してくれたならいいか。『良い』評価ついたし」
売上金が確定し、残高が増える。
俺はニヤリと笑った。
「よし、味を占めたぞ。在庫はまだ山ほどあるし、どんどん売っていこう」
俺が次の「断捨離」を画策している頃。
世界の裏側では、事態は冗談では済まないレベルに発展していた。
◇
アメリカ、バージニア州アーリントン。
国防総省――通称『ペンタゴン』。
その地下深くにある、極秘会議室。
張り詰めた空気の中、巨大なスクリーンに映し出されているのは、日本のフリマアプリの画面だった。
「長官。日本から『高純度エネルギー体』が流出しているという情報は事実です」
分析官が、汗を拭いながら報告する。
「先日取引されたこの『黒い石』……。傍受した魔力波形データによると、たった一つで原子力発電所一基分に相当するエネルギーを内包しています」
「なんだと……?」
白髪の長官が、葉巻を握りつぶした。
「核燃料に匹敵する物質が、ネット市場で取引されているというのか? 価格はいくらだ?」
「……4ドル(約500円)です」
「4ドルだとぉぉ!? ふざけるな! 日本の経済はどうなっているんだ!」
会議室がどよめく。
戦略級の資源が、タバコ一箱より安い値段でばら撒かれている。
これは経済テロであり、安全保障上の重大な危機だ。
「出品者の名は?」
「アカウント名『KENTO』。正体不明の日本人です」
「確保せよ。その男が持つ在庫を全て押収し、日本の技術力を丸裸にするのだ」
長官は冷徹に告げた。
「CIAのトップエージェント、コードネーム『サイファー』を呼べ」
「彼は休暇中ですが……」
「構わん。日本へ送れ。これは戦争だ」
◇
翌日。
成田空港の到着ロビーに、一人の男が降り立った。
黒いスーツにサングラス。観光客を装っているが、その鋭い眼光は隠しきれていない。
米国最強のスパイ、サイファー。
あらゆるセキュリティを突破し、数々の極秘任務を遂行してきた伝説の男。
「……ここがジャパンか」
彼はサングラスの位置を直し、不敵に笑った。
「ターゲットは地方の一般人。……イージーな仕事だ」
彼が向かう先は、賽の河原市。
佐伯の住む裏山である。
一方、そんな危機が迫っているとは露知らず。
佐伯はのんきに、庭でイチゴに水をやっていた。
「あー、せっかく実ったイチゴが、鳥に食われてるな」
佐伯は空を見上げた。
ムクドリかヒヨドリか。甘い匂いに釣られてやってくる害鳥たちだ。
「ネット張るのも面倒だし……あれ買ってくるか。『鳥よけのキラキラテープ』」
佐伯の思いつきで設置される100均の防鳥グッズ。
それが、最新鋭のスパイ装備を無力化する「光子レーザー兵器」になるとは、この時の彼は知る由もなかった。




