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第2話:雑草が動くので、草刈り機で物理説教した。

毎日 07:10、12:10、17:10、19:10 、21:10  に1話ずつ

5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので

よろしくお願いします

 チュンチュン……。

 小鳥のさえずりで目が覚める。

 田舎の朝は静かだ。排気ガスの臭いもしないし、満員電車の圧迫感もない。


「ふわぁ……。今日もいい天気だ」


 俺はあくびをしながら縁側のサッシを開け放ち、新鮮な空気を吸い込もうとした。


 だが、目の前に広がっていたのは、爽やかな朝の風景ではなかった。


「……ん?」


 昨日まで膝丈くらいの雑草が生えていただけの庭が、一夜にしてジャングルと化していた。

 それもただのジャングルじゃない。

 太さが俺の太ももくらいある紫色のツタが、蛇のようにうねりながら、庭の片隅にある家庭菜園(トマト畑)を侵食しようとしている。


 ブブブブッ!

 ポケットに入れたスマホが激しく振動した。


『マスター! 起きてください! 警戒レベルMAXです!』


 画面の中で、たまちゃんが赤色灯のように点滅している。


『昨日の充電でダンジョンが活性化しすぎて、深層の植生が地表まで溢れ出ちゃいました! あれは「マンイーター(人喰い蔦)」! 物理攻撃無効、再生能力Sランクの化け物です! すぐに避難を!』


 たまちゃんが何か喚いているが、俺の頭に入ってきたのは「植生が溢れ出た」という部分だけだった。


「なるほど……放置してたからな。栄養たっぷりで育ちすぎたか」


 やはり山の手入れは一日たりともサボれない。

 あのツタ、放置しておくとトマトの日当たりが悪くなるし、根っこが絡まって枯れてしまうかもしれない。


「よし、やるか」


 俺はタオルを首に巻き、納屋へと向かった。


『マスター!? 聞こえてますか!? あれは雑草じゃなくて魔物なんです! 近づいたら養分にされますよ!?』

「騒ぐな。雑草ごときに負けるかよ」


 俺は納屋の壁に掛けてある、相棒を手に取った。

 『エンジン式刈払機(草刈り機)』だ。


 普段なら、柔らかい草を刈るための「ナイロンコードカッター」を使うところだ。あれなら石を弾いても危なくない。

 だが、今日の相手は茎が太い。ナイロンじゃ叩き折れないだろう。


「今日は本気出すか」


 俺は棚から、新品の刃を取り出した。

 『255mm チタンコート・チップソー』。

 超硬チップが埋め込まれた、ギラギラと輝く円盤状の刃だ。

 パッケージには「竹・雑木も一発切断!」と頼もしい文字が踊っている。


 ギアケースに刃をセットし、逆ネジをしっかりと締める。

 燃料タンクに、ガソリンとオイルを混合した「混合燃料」をトクトクと注ぎ込む。


 準備完了。


 プライマリーポンプを数回押して燃料を送り、チョークレバーを引く。

 スターターロープを力強く引いた。


 キュルッ……ボボボボボボボ……!


 2ストロークエンジン特有の、軽快な爆音が響き渡る。

 チョークを戻し、アクセルレバーを握り込む。


 ブイイイイイィィィン!!!!


 回転数が上がり、チップソーが高速で唸りを上げた。

 手に伝わる心地よい振動。

 よし、エンジンの調子は最高だ。


『ひいいっ! なんですかその轟音を撒き散らす魔道具は!? 回転する円盤……処刑器具ですか!?』

「農機具だよ。さあ、仕事の時間だ」


 俺は保護メガネと防振手袋を装着し、庭へと踏み出した。


          ◇


 庭に出た瞬間、紫色のツタが一斉にこちらを向いた気がした。

 シュルシュルと音を立てて、数本のツタが俺の首元を狙って伸びてくる。


『来ます! 捕食攻撃です! 物理無効シールド展開されてます! 剣でも切れませんよ!』


「うっとうしいな。絡まるなよ」


 俺は足を肩幅に開き、腰を入れた。

 右から左へ。

 地面と水平になるように、刈払機のヘッドを滑らせる。


 ギャリギャリギャリッ!!!!


 硬質な破砕音が響き渡った。

 物理無効? 剣で切れない?

 知ったことか。


 分速1万回転を超える超高速の刃先は、対象が柔らかかろうが硬かろうが関係ない。

 細胞レベルですり潰し、弾き飛ばすだけだ。


 空中で俺に絡みつこうとしたツタは、触れた瞬間に粉微塵になって霧散した。

 緑色の樹液(魔物の血)がスプラッシュし、保護メガネに飛んでくる。


『ひぃぃ!? ま、魔界樹が……豆腐のようにミンチに!?』

『物理無効のはずなのに! 回転数が高すぎて、再生する端から削り取られてます! しかも摩擦熱で断面が焼けて再生阻害を起こしてる!?』


 たまちゃんが何か実況しているが、エンジンの音でよく聞こえない。

 俺はリズムよく作業を続けた。


 右、左。右、左。

 一歩進んで、また右、左。


 襲いくる触手は、俺の作業リズムに合わせて次々とただの「切り屑」に変わり、地面に落ちていく。

 時々、太い幹のような部分に当たると「ガツッ!」と衝撃が来るが、アクセルを全開にして押し込めば「ギュイイイーン!」と食い込んで切断できた。

 さすがチタンコート。切れ味が落ちない。


「よし、あらかた片付いたな」


 数分後。

 ジャングルだった庭は、ゴルフ場のように綺麗な更地になっていた。

 残ったのは、地面に散らばる大量の切り屑だけだ。


 俺は手元のスイッチを操作し、エンジンを切った。

 プスン……と静寂が戻る。


「ふぅ。やっぱり夏場の草刈りは堪えるな。肩が凝った」


 タオルで顔の汗(と返り血)を拭う。


『……マスター。あなた、本職は破壊神か何かですか?』

「元システムエンジニアだ」


 ふと足元を見ると、不思議な光景が広がっていた。

 刈り取ったマンイーターの残骸が、光の粒子になって分解され、庭の土に染み込んでいくのだ。


『魔物が還元されて、高濃度のマナ肥料になってます! Sランク魔物の死体なんて、最高の栄養分ですよ!』


 その言葉通りだった。

 庭の隅にあった家庭菜園のトマト。

 光の粒子を浴びた瞬間、まだ青かった実が「ボンッ!」と音を立てて赤く熟れたのだ。

 それどころか、ツヤツヤと宝石のように輝き出した。


「お、肥料が効いたな。うまそう」


 俺は一つもいで、作業着の袖でキュキュッと拭くと、そのままかじりついた。


 シャクッ。


「……!」


 甘い。

 なんだこれ、フルーツか?

 濃厚な甘みと、適度な酸味。噛むたびに溢れる果汁が、乾いた喉を潤していく。

 それだけじゃない。食べた瞬間、草刈りで疲れた肩の重みがフッと消え、全身に活力がみなぎってくるのを感じた。


「うまいな。スーパーのトマトとは別物だ」

『そりゃそうですよ! マンイーターの生命力を吸ったトマトなんて、市場に出したら一個一万円は下らない「回復薬ポーション」代わりの品です!』


 たまちゃんが騒いでいるが、まあ美味しいならいいことだ。

 今夜は冷やしトマトで一杯やるか。

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