第18話:大型店(スーパービバホーム)は宝の山。資材館でエクスカリバー(バール)を買う。
駐車場に軽トラを停め、俺たちは車を降りた。
目の前にそびえ立つのは、隣町が誇る巨大ホームセンター、『スーパービバホーム』だ。
「で、デカい……。王城の城壁よりも巨大な建造物です……」
アリシアが口をぽかんと開けて見上げている。
確かに、ここの資材館はデカい。プロの職人がトラックで乗り付けるための巨大な屋根と、見渡す限りの資材置き場。
田舎者にとっては、テーマパークも同然だ。
「よし、行くぞ」
俺たちは入り口へと向かった。
ウィーン……。
俺が近づくと、ガラスの自動ドアが静かに開く。
「ッ!? 門番がいないのに、勝手に扉が!?」
アリシアが警戒して剣(の代わりに持っている棒切れ)を構える。
「私の『騎士の気配』を感知して招き入れたのか……? それとも、選ばれし者しか通さぬ『選定の門』か!?」
「センサーだよ。立ち止まると挟まるから早く来い」
俺は慣れた様子で店内へ入る。
だが、ここで一つ問題があった。
「あ、そうだ。ポチは歩かせちゃダメなんだった」
入り口の看板には『ペット同伴可(専用カートをご利用ください)』とある。
俺は入り口脇に置いてあった、大型犬用の『ペット専用カート』を引き寄せた。
要するに、デカい台車に鉄の檻がついたようなものだ。
「ほらポチ、これに乗れ」
『む……?』
ポチが眉をひそめた(ように見えた)。
『我に、この鉄格子のついた乳母車に乗れと……? 誇り高きフェンリルに対する屈辱……』
「乗らないなら車で留守番だぞ」
『乗る』
ポチは観念して、自らカートに飛び乗った。
俺はアリシアにカートのハンドルを任せた。
「アリシア、押してやってくれ」
「は、はい。……重くないですね。車輪の滑りが良いです」
アリシアがカートを押し始める。
すると、ポチの表情が徐々に変わっていった。
『……ほう?』
視点が高い。
いつもは人間の足元を見上げているが、今は腰の高さから周囲を見渡せる。
そして何より、自分が歩かずとも、下僕が勝手に運んでくれる。
『……悪くない。いや、良いぞ』
ポチはカートの縁に前足をかけ、ぐっと胸を張った。
すれ違うチワワやトイプードルを、高い位置から悠然と見下ろす。
『苦しゅうない。道を開けよ。王のお通りである』
完全に「王の輿」だと勘違いして、ドヤ顔を決め込んでいた。
まあ、大人しくしてくれるなら何でもいい。
◇
俺たちは「資材館」のエリアに足を踏み入れた。
瞬間、木の香りと、鉄とオイルの匂いが鼻をくすぐる。
「おおお……!!」
アリシアが感嘆の声を上げた。
天井高8メートルの巨大空間。
そこには、天井まで届く巨大な棚が整然と並び、ありとあらゆる資材が積み上げられている。
木材、鉄骨、パイプ、塗料、ネジ、工具……。
「なんと……! この世の全ての『富』がここに集められている!」
「ここはドワーフの地下帝国ですか? それとも、世界を構築するための『創造主の工房』ですか!?」
「ただの店だ。ほら、カート押せ」
興奮するアリシアをなだめつつ、俺は工具売り場へ向かった。
今日の目的の一つは、解体作業用の道具だ。
「ダンジョンの壁を壊したり、床を剥がすのに丈夫な棒がいるな」
俺は陳列棚から、一本の鋼鉄の棒を手に取った。
『解体用バール(900mm・平バール)』。
ずっしりとした重み。鈍い銀色の輝き。先端はL字に曲がり、鋭利に研がれている。
「お、これいいな。グリップがゴムで滑らないし、全体焼き入れで頑丈そうだ」
「主殿、それは……?」
「持ってみろ」
俺はアリシアにバールを渡した。
彼女はそれを受け取ると、軽く素振りをした。
ブォンッ! と空を切る音がする。
「……重い。だが、重心が完璧だ」
アリシアの目が戦士のそれに変わる。
「刃はない。だが、この質量と形状……。これで兜の上から殴れば、中身は液体になるでしょう……!」
「殴るなよ」
「これは『巨人殺し(ギガント・ブレイカー)』……いや、伝説の聖剣『エクスカリバー』の原型ですか?」
「釘を抜く道具だよ」
俺はバールをカートのカゴに放り込んだ。
アリシアは名残惜しそうにそれを見つめていた。どうやら気に入ったらしい。今度作業で使わせてやるか。
◇
次は資材売り場だ。
「あとはセメントだな。25キロ入りを5袋くらいか」
俺は『ポルトランドセメント』の山積みのパレットに向かった。
25キロ。米俵よりは軽いが、普通の人間なら持ち上げるのに苦労する重さだ。
だが、今の俺(とワークマン装備)には関係ない。
俺は袋の端を掴むと、ヒョイッと持ち上げた。
「よいしょ、っと」
次々とカートの下段に積んでいく。
ドスン、ドスン。
「(あ、あの岩のような塊を片手で!? 主殿の腕力はトロール以上……!)」
アリシアが引いているが、腰を入れれば誰でも持てる重さだ。
ついでに、足場用の単管パイプ(3メートル)も10本ほどカートに差し込む。
「これで資材はOKだな。あとは……」
『マスター! あそこ! 電気コーナーです!』
胸ポケットから、たまちゃんの興奮した声が響いた。
画面の中で、彼女がショーケースに張り付いている。
『あれです! 「急速充電器(GaN採用・PD100W対応)」があります!』
「これか?」
俺はパッケージを手に取った。
窒化ガリウム採用。小型なのに高出力。最新のガジェットだ。
『窒化ガリウム……最新の魔法金属です! あれなら今の10倍の速度で魔力(電気)を吸えます! 欲しいです! あれがないと私は干からびて死んでしまいます!』
「嘘つけ。今の充電器でも十分だろ」
『お願いしますぅぅ! あれで「キマり」たいんですぅぅ!』
……まあ、こいつには世話になってるしな。
価格は6,000円。高いが、まあ経費で落ちるだろう。
「よし、買った」
『やったー! マスター大好き!』
◇
買い物を終え、俺たちはレジに向かった。
カートには山盛りの資材と工具。
「いらっしゃいませー」
ベテラン風のレジのおばちゃんが、慣れた手つきでバーコードをスキャンしていく。
ピッ、ピッ。
「『鑑定の魔眼』……!?」
アリシアが驚愕する。
「商品に触れることもなく、光を当てるだけで真価(価格)を見抜いている……! この店の店員は、全員が鑑定スキル持ちなのか!」
「バーコード読んでるだけだ」
おばちゃんが合計金額を告げる。
数万円。異世界なら金貨数枚分の大金だ。
「支払いは現金で」
俺は財布から、諭吉(一万円札)を数枚取り出してトレーに置いた。
それを見たアリシアが、さらに目を見開いた。
「紙……!? ただの紙切れ数枚で、これだけの宝(資材)を譲渡したというのか!?」
「金貨や銀貨ではないのですか!? この紙に、それほどの魔力が込められているとでも……!」
彼女には、日本の「信用経済」という概念が理解できないらしい。
まあ、俺もたまに「ただの紙だよなこれ」と思うことはあるが。
「ありがとうございましたー」
レシートとお釣りを受け取り、俺たちは店を出た。
外はすっかり夕方になっていた。
「よし、積み込むぞ」
軽トラの荷台に、買ったばかりの資材を満載にする。
セメント、単管パイプ、バール、その他諸々。
明らかに過積載気味だが、例の「魔改造サスペンション」のおかげで、車高は1ミリも沈まない。
「よし、資材は揃った。帰ったら早速、地下倉庫の湿気対策……『水抜き』の準備だ」
俺は運転席に乗り込み、エンジンをかけた。
キィィィン……というタービン音が響く。
ふと、レシートを見る。
結構な金額を使っていた。
「……ま、政府の助成金があるとはいえ、このペースで使ってたらすぐ金欠になるな」
俺は少し考え込んだ。
重機レンタルも控えているし、もっと安定した収入源が必要だ。
『マスター、そろそろアレを始めましょうよ』
充電器を買ってもらってご機嫌なたまちゃんが提案する。
『「不用品販売」です。元手ゼロで、莫大な富を築けますよ?』
「不用品ねえ……。売れるもんあるか?」
『ありますよ。庭に転がってる「黒い石」とか』
俺は苦笑いした。
あんな砂利、誰が買うんだよ。水槽の飾り石くらいにしかならんぞ。
「まあ、試しに出してみるか。捨てるよりマシだしな」
俺は軽くアクセルを踏み込んだ。
軽トラが、風のように走り出す。
この「不用品販売」が、後に世界経済を揺るがす大事件に発展するとは、今の俺は(以下略)。




