第1話:実家の裏山、掘ったらなんか出た。
毎日 07:10、12:10、17:10、19:10 、21:10 に1話ずつ
5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので
よろしくお願いします
ズドドドドドドドッ!!
真夏の青空の下、腹に響く重低音が轟いていた。
油圧シリンダーが唸りを上げ、鉄の爪が硬い地面を抉り取る。
「ふぅ……。暑いな」
俺、佐伯健人(28)は、額から流れる汗をタオルで拭うと、足元のクーラーボックスを開けた。
キンキンに冷えたコーラのプルタブを弾く。
プシュッ!
「ぷはーッ! 労働の後のコーラは、辞表の味がするぜ」
炭酸の刺激が喉を駆け抜ける。最高だ。
ブラック企業の社畜SEとして、死んだ魚の目でキーボードを叩いていた先月までの俺は、もういない。
ここは日本のどこかにある地方都市、賽の河原市。
そのさらに奥地、地図にも載らない限界集落のさらに奥。
先月他界した祖父、源蔵じいちゃんが遺した『実家の裏山』が、今の俺の職場だ。
遺言はシンプルだった。
『ワシの山をやる。好きに使え』
だから俺は決めたのだ。この荒れ果てた山を整地して、誰にも邪魔されない最高の引きこもり拠点(キャンプ場)を作ることを。
そのために、退職金のすべてを突っ込んで中古のユンボ(油圧ショベル)も買った。
「さて、休憩終わり。午後もご安全に」
俺は再びユンボの操縦席に座り、レバーを握った。
狙うは、庭の真ん中にある邪魔な土手だ。ここを平らにすれば、更地が広がる。
ガション、グオオオン……。
アームを伸ばし、バケット(ショベル部分)を地面に突き刺す。
その時だった。
カチンッ!!
嫌な金属音がして、車体に衝撃が走った。
岩盤か? いや、もっと硬質な感触だ。
「なんだ? 水道管は通ってないはずだが……」
エンジンをアイドリングに戻し、降りて確認する。
掘り返された土の中に、それはあった。
漬物石くらいの大きさの、黒い石。
いや、ただの石じゃない。
表面には幾何学模様が刻まれ、心臓の鼓動のように、ドクン、ドクンと紫色の光を放っている。
「……産業廃棄物か?」
俺は顔をしかめた。
田舎の山には、よく業者がゴミを不法投棄していく。
だが、こんな光る石は見たことがない。
「放射性物質だったら洒落にならんぞ。処理費用いくらかかるんだよ……」
とりあえず、見なかったことにして埋めるか?
いや、基礎工事の邪魔になる。ここを平らにしてコンクリを打つ予定なのだ。
「……砕くか」
俺は腰袋から『ハンマー』と『タガネ(石工用ノミ)』を取り出した。
細かく砕いて砂利にすれば、路盤材として再利用できるだろう。
合理的だ。
俺はタガネの先端を、石の中心に当てた。
ハンマーを振り上げる。
「よっと」
『待てぇぇぇい!!』
「……あ?」
ハンマーを振り下ろす寸前、石が叫んだ。
いや、頭の中に直接響いてきた。
『待つのじゃ人間! その薄汚い鉄塊を下ろせ! 我は高貴なるダンジョンの核……』
「うるさい石だな。スピーカー内蔵か?」
俺は構わずハンマーを振り下ろした。
『ひいいっ!? 待って! ストップ! 割れる! 死ぬぅぅ!!』
石の威厳ある声が、一瞬で情けない悲鳴に変わった。
俺は寸前で手を止める。
「なんだ、AIか? 最近のおもちゃは生意気だな」
『おもちゃではない! 我はこの地のマナを統べる管理者じゃ!』
「ダンジョン? ゲームの話なら他所でやってくれ。俺は忙しいんだ」
『嘘ではない! ここを砕かれたら、蓄積された魔素が暴走して、この山ごと吹き飛ぶぞ!』
「……爆発?」
その単語に、俺はピクリと眉を動かした。
不発弾の類か? じいちゃん、庭に何埋めてたんだよ。
「厄介だな。どうすりゃいいんだ?」
『エネルギーじゃ! 長年の放置で魔力が枯渇して、維持機能が限界なんじゃ! 今すぐ魔力を寄越せ! さもなくば自壊して貴様も道連れじゃ!』
石が激しく明滅し、赤黒い光を放ち始めた。
どうやら、本当にバッテリー切れ寸前らしい。
「魔力ねえ……。俺は魔法使いじゃないから無いぞ」
『な、なんでもいい! 生命エネルギーでも、電気的な刺激でも! とにかく純粋な波長を持つエネルギーを……ああっ、もう意識が……』
石の光が消えかかる。
マズい。山ごと吹き飛ばされては、俺のスローライフ計画が台無しだ。
「エネルギーなら何でもいいのか? ……電池ならあるけど」
俺は腰袋に手を突っ込み、予備のバッテリーを取り出した。
『マキタ リチウムイオンバッテリ 18V』。
プロの職人が愛用する、信頼と実績の青黒い塊だ。
「電圧合うかな。まあ、直結してみるか」
俺は工具箱からワニ口クリップ付きのコードを取り出し、バッテリーの端子に繋いだ。
もう片方を、石の表面にある金属っぽい紋様に噛ませる。
「プラスとマイナス……よし、充電開始」
バチッ。
電流が流れた、その瞬間だった。
『あひぃぃぃぃぃぃっ!?』
石から、なんとも言えない嬌声が上がった。
同時に、紫色の光が爆発的に輝き出し、周囲の空間がビリビリと震える。
『な、ななな、何じゃこれはぁぁ!? すごい勢いで流れ込んでくるぅぅ!!』
「おい、大丈夫か? 18Vだぞ?」
『電圧が……電圧が一定すぎる! 自然界の魔力にあるはずの「ゆらぎ」が一切ない! ミクロン単位で整えられた、完全なる秩序の波動じゃぁぁ!!』
石がガタガタと震えながら、悦に入っている。
どうやら、日本の工業規格(JIS)に基づいた安定した電力は、異世界の石っころにとっては最高級の栄養ドリンク(あるいは麻薬)らしい。
『もっと……もっとくださいマスター! その純粋な電気を! あああっ、回路が焼き切れそう……でも気持ちいいぃぃ!!』
「……なんか引くな」
俺はクリップを外そうとしたが、石から放たれる光の触手が、バッテリーに絡みついて離れない。
数秒後。
バッテリーのインジケーターが空になると同時に、石が「ポンッ」と軽い音を立てて砕け散った。
「あ、割れた」
やっちまったか?
そう思った瞬間、砕けた石の中から光の粒子が飛び出し、俺の胸ポケットに吸い込まれた。
ポケットに入っていたのは、機種変して使わなくなった古いスマホだ。
ブウン……。
スマホが勝手に再起動する。
画面に表示されたのは、二頭身のドット絵みたいな美少女キャラクターだった。
『……ふぅ。生き返りました』
スマホのスピーカーから、さっきの声がする。
ただし、口調が妙に丁寧になっていた。
「お前、さっきの石か?」
『はい。実体を維持するのが面倒になったので、こちらの端末にインストールさせていただきました。初めましてマスター。私はダンジョン・マザー・コア。通称「たま」と呼んでください』
画面の中で、たまちゃん(仮)がペコリとお辞儀をする。
『マスターのくれた電気、最高に美味しかったです……。あの味が忘れられません。一生ついていきますので、毎日充電してくださいね?』
「Siriみたいなもんか。まあ、ラジオ代わりにはなるな」
害はなさそうだし、爆発もしなかった。
なら、ヨシ!
俺はスマホをポケットに戻すと、再びユンボに乗り込んだ。
「よし、休憩終わり。作業再開だ」
『えっ、スルーですか!? 今まさに世界を揺るがす契約が結ばれたんですよ!?』
「うるさいな。今日中にあそこの岩を退かさないといけないんだよ」
俺はレバーを引いた。
グオオオン……とエンジンが唸りを上げる。
「今日もご安全に!」
俺が再び地面を掘り始めたその背後。
電力を得て活性化したダンジョンの入り口(洞窟)から、不気味な紫色のツタが、ニョキニョキと這い出し始めていたことに、俺はまだ気づいていなかった。




