小さなランタン
暗い夜道に優しく光るランタンがふたつ。
小さなかぼちゃのランタンを持つのは、小さな姉妹。
彼女たちは互いに手を取り、村へと続く小道を歩く。
今日は10月31日、ハロウィンだ。
2人はお菓子をもらうため、仮装をしていた。黒いローブにお揃いの髪飾り、そして手には小さなかぼちゃのランタンが握られていた。小さなかぼちゃのランタンは、優しいオレンジ色の光を灯し、静かに風に揺れていた。
お菓子、いっぱいもらえるかな?
とりっく・おあ・とりーとって言えばいいんだって!
そうなの?
うん!
そんな会話をしながら、2人は歩いていく。彼女たちの顔には笑顔が溢れていた。暗い夜道に太陽のような笑顔がふたつ、その笑顔はとてもよく似ていた。
2人は双子で、とても仲良しだった。何をするのも一緒で、好きな食べ物さえも一緒だった。背格好や容姿もそっくりで、両親以外の村の人は見分けることができなかった。2人は間違えられることを気にはしなかったが、村の人があまりにもお願いしてきたので、彼女たちは色違いの髪飾りをつけるようになった。その髪飾りは互いが互いへの誕生日プレゼントとして一緒に買いに行ったものだ。姉妹が色違いの髪飾りをつけるようになって以降、村の人たちが彼女たちを間違えることは少なくなったが、彼女たちはよく互いの髪飾りを交換し、どっちがどっちか分からなくするという、ちょっとした悪戯をして遊んでいた。
そんな彼女たちは今日も髪飾りを交換していた。
みんなきづくかな?私たち逆だって!
ううん、たぶんみんなわからないよ
ママも?
ううん、ママは一回もまちがえたことないから、きっと今日もきづいてくれるよ!
とりっく・おあ・とりーと!
姉妹は村につき、最初の家のドアの前でそう声をかけた。しかし、何の返答もない。家に明かりはついているため、留守というわけではないようだ。ドアの前には小さなかぼちゃのランタンが置いてあった。
とりっく・おあ・とりーと!
2軒目のドアの前でも、姉妹は同じように言った。しかし、返事はなかった。窓に目を向けると、その家の猫がいた。猫は2人の姿を見ると尻尾をゆっくりと振った。
とりっく・おあ・とりーと!
次の家でも誰も出てきてくれなかった。ただ、玄関先に小さなテーブルが出ていた。赤と白のテーブルクロスの上に小さなお皿があり、そこにクッキーが2枚置いてあった。
ここって、はるきくんの家だよね?
うん。クッキー置いてあるね
うん。しかも私たちのすきなやつ!
はるきくんが用意してくれたのかな?
きっとそうだよ!もらっていこう!
姉妹はクッキーを手に取り、食べながら次の家へと向かった。
とりっく・おあ・とりーと!
次に姉妹が向かったのは、ゆきちゃんという村で一番仲が良かった子の家だ。ここでもやっぱり返事はなかったが、今度はチョコレートと「2人へ」と書かれた手紙が置いてあった。
見てみて!ゆきちゃんからのお手紙!
ほんとだ!ねえ、なんて書いてあるの?
えっとね、『2人へ もっといっぱい遊びたかったな』だって!
私もゆきちゃんと遊びたい!
私も!今度また誘おうよ!
うん!
2人はチョコレートを食べながら次の家へと向かっていた。
ねえねえ、なんでだれも出てこないのかな?
わかんない!でもみんなドアの前におかしおいてくれてるよ!
そうだね、じゃあいっか!
とりっく・おあ・とりーと!
次の家でも声を揃えてそう言ったが、誰も出てこなかった。ただ、冷たい風が2人の頬を掠め、窓をガタンと揺らして去っていくだけだった。
やっぱりだれも気づかないね、もしかしたらママも…
大丈夫!ママは気づいてくれるよ!
でも、もし気づかなかったら?
ヒューと音を立てながら、風が2人の間を通り抜けた。その時、甘い香りを連れてきた。それは2人の大好きなかぼちゃのタルトの香りだった。
ママだよ!ママが呼んでる!
ほんとだ…!
ね、はやく行こ!ママが待ってるよ!
うん!
2人は手を繋いで走り出した。小さなかぼちゃのランタンがカタカタと音を立てる。歩幅を合わせながら、でもできるだけ早く2人は走っていった。
少し息を切らしながら2人は自分たちの住んでいた家に着いた。
ドアの前に立ち、2人は顔を見合わせ大きくうなづいた。その目には、きっと大丈夫という自信と少しの不安が混ざっていた。2人は手を繋ぎ直し、前を向いた。そして、息を合わせて2人でこう声をかけた。
とりっく・おあ・とりーと!
小さなかぼちゃのランタンの、優しい光がゆらりと揺らぐ。
少しの沈黙の後、部屋の中からバタバタと慌ただしい足音が聞こえた。
ガチャリと勢いよくドアが開けられた。ドアを開けたのは2人のお母さんだ。2人はお母さんに見られているような気がしたが、彼女は何も言わない。ただ目を見開き、固まっているだけだった。姉妹は握った手にぎゅっと力を込めた。
ママ…
震える唇から溢れたその言葉は、とても小さく掠れていてすぐに消えてなくなった。
その直後、ぽたっと雫が地面にぶつかり弾ける音がした。見れば母の目から大粒の涙がこぼれていた。
彼女は膝をつき姉妹と目線を合わせ、2人を抱きしめて言った。
「おかえり、ふたりとも」
その言葉に姉妹は嬉しくなり、母を抱きしめ返した。
しばらく経ち、母が「悪戯されないようお菓子をあげないとね」と立ち上がり、家の中へ入っていった。
戻ってきた彼女の手にはキャンディーがふたつ。それをそれぞれに一つずつ手渡した。姉妹は「ありがとう!」とお礼を言い森の方へと駆け出していった。
少し離れたところで止まり、姉妹は振り返った。
「ばいばい、ママ」
声を揃えて、手を大きく振りながら姉妹はそう叫んだ。母を見ると、涙ぐみながらも笑って手を振りかえしていた。
2人の姿が見えなくなった後、彼女は家に入りキッチンへと向かう。オーブンから取り出したのは、姉妹が好きだったかぼちゃのタルトだ。焼き上がったタルトを丁寧に切り分け、姉妹の髪飾りと同じ色がついたお皿にそれぞれ盛り付ける。彼女はそれらを、仲良く笑う2人の写真の前にそっと置いた。
「そういえば、あの2人今日も髪飾りを交換していたわね。」
本当に仲良しなんだから、と言いながら置いたお皿の位置を反対にし、小さく微笑んだ。
家の中に、かぼちゃの甘くて美味しい香りが漂っていた。
暗い夜道に優しく光るランタンがふたつ。
小さなかぼちゃのランタンを持つのは、小さな姉妹。
彼女たちはもらったキャンディーを口の中で転がしながら、来た道を戻っていく。
もちろん、手を繋いだまま。
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