一話
私は一人っ子だった上に、ずーっと一人だった。放課後は児童館じゃなくて家にいて、お母さんが仕事から帰ってくるまで絵を描いていたんだ。
友達とも遊びもせずに、絵を描いては名前を付けて、妄想をしながら遊んでいた。いわゆる一人遊びというやつだ。
描いた絵をお母さんに自慢すると「凄いじゃない!理世はきっと絵描きさんになれるね!」って、喜んでくれた。
そんな私は中学生になった。そして、一人のリビングで机に置いた数学プリント相手と睨めっこをしている。
相変わらず絵を描いているけど、中学生って大変なんだね。
明日は小テストなのに宿題は埋まらない。ついでに白紙だ。
プリントには『数学科テスト』の文字。
プリントを埋める前に教科書をざっと読んでおこう。
「まずは、、、一次方程式だよね。未知数(文字)の次数が一である方程式のことで、、、」
お腹いっぱいなせいで、眠たくなってきた。
あと、全く分からん。
「まず、ビジュアルが浮かんでこないからダメなんだよね」
教科書をもっと楽しくしたら良いんだよ。
例えば―――数式を擬人化したイケメンキャラが自己紹介してくれるように教えてくれたら良いのに。
髪型はオシャレに黒髪で、しっかりと制服を着ている。小柄で細身な体格の男の子。
うん、上手に描けた。
余白に設定も書いてみる。設定いじり大好き。自分の意見をなかなか口にしないため一見するとミステリアスだが、実は感受性豊か。親切で優しく真っ直ぐな性格。
この調子で他の数式も描いてみようかな。
教科書をペラペラと捲って、目についた数式を擬人化していく。
『連立方程式くん』は表情豊かで明朗快活。答えが二つあるから、選択肢が大好き。
『正の数くん・負の数くん』はせこい性格だけど、自称、全てのお兄さんなので財布が寂しくても何かと奢りたがる双子の男の子。
『三角関数くん』公式に英語が入っているから、砕けた口調やラフ過ぎる英語を使い、面白いことはすぐに写真を撮る今時の男の子。
「わぁ、ペンが捗り過ぎる、、、!!」
やっぱりキャラクターを創るのって、楽しいな〜。
テレーン、テレーン。
机に置いた目覚まし時計の音で我に返った。
「あれ、、、?」
窓から差し込む太陽の光がスケッチブックを照らしている。
そこには、沢山の数式のイケメン男子のキャラと細かい設定。
身長や好きな食べ物の基本情報からかけっこの速さ順まで。
わぁ〜、いっぱい書けた〜☆、、、って、違う!!
時計の針は六時半。夕方じゃなくて朝の。
プリントの問題は白紙。テスト範囲は一次方程式だけで良かったのに〜!!!
「終わった、、、」
フッと目の前が遠くなった。