想定内ではありますが。
――それから、数日経て。
「……まあ、分かってはいましたが」
朝のホームルーム前のこと。
教室隅の席にて、一人ポツリと呟く。そんな私に刺さるは、種々の視線――室内の四方八方から刺さる嫉妬、嫉妬、好奇、嫉妬といった種々の視線で。……うん、ほぼ嫉妬でしたね。
ともあれ、数日前までなかったはずのこの状況の理由は――まあ、説明するまでもないですね。校内随一の美少年、外崎先輩との交際が原因であることなど。
『……あの、良いのですか八雲さん?』
『はい。それとも、先輩はお嫌ですか?』
『……いえ、僕が、と言うよりは……その、貴女にとって不都合ではないかと』
数日前の、放課後のこと。
彼の空き教室にて、私の提案に難色を示す外崎先輩。とは言え、彼の言葉からも察せられるように、彼自身よりもむしろ私を思っての反応なのでしょう。
ちなみに、どのような提案なのかと申しますと――まあ、特筆するほどでもなく。ただ、登校を共にしようというもの。恋人なら、至極真っ当な提案と言えるでしょう。
ともあれ、難色を示す先輩をどうにか押し切り承諾を得た私。ふふっ、明日からが楽しみですね。
さて、そういう経緯で今に至るわけですが――繰り返しになりますが、周囲の視線が刺さる刺さる。女嫌いなんて噂――と言うか、事実と言って差し支えないでしょうが――ともあれ、そんな噂が浸透しているにも関わらず、とりわけ女生徒からの人気は圧倒的なものだと改めて思い知る今日この頃なわけでして。……ふふっ、なんだか申し訳ないですね。
ところで、こうなると近い内に直接的な嫌がらせなども十分に想定し得るのですが……今のところ、そのような被害は一切ありませんし、恐らくは今後もほぼないと考えて差し支えないでしょう。と言うのも――
「――そう言えば、まだ申していませんでしたが……ありがとうございます、外崎先輩」
「……すみません、何のお話でしょう?」
その日の、放課後のこと。
帰り道、そうお伝えした私に軽く首を傾げ尋ねる外崎先輩。まあ、そうくるとは思いましたが……全く、しらばくれちゃって。
ですが、私は知っていますよ? 今のところ――そして、恐らくは今後も嫌がらせの類はほぼないでしょう。その理由は、紛れもなく外崎先輩。具体的な方法までは定かでないですが、私に危害が及ばぬよう、彼が事前に手を打ってくださったことは間違いありません。……全く、嫌いのわりには随分とお優しいことです。
「ところで、外崎先輩はこれからどうなさるおつもりですか? まあ、尋ねるまでもないかもしれませんが」
「……まあ、やはり勉強ということになりますね。テスト期間ですし」
ややあってそう尋ねると、果たしてそのようにお答えする外崎先輩。まあ、それはそうでしょうね。そのために、大切な部活も今は活動停止なわけですし。
一方、私は部活には所属していませんが、当然ながらテスト期間であることは同じ――なので、当然のこと私も平時以上に勉学に励む所存です。ですが――
「――ところで、外崎先輩。もし良ければ、今から私の家に来ませんか?」
「…………へっ?」