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葛藤

「…………はぁ」   



 ある休日の宵の頃。

 畳の上で仰向けになりほどなく、そっと力ない息が溢れます。とは言え、本日の時間が苦痛だったなどという話ではなく……どころか、頗る楽しく充実した時間だったと心から感じています。よもや、卓球があれほどに楽しいものだとは……まあ、それも彼女とだから、なのでしょうけれど。……なのに――


「……また、傷つけてしまいました」


 そう、ポツリと呟く。誰に言われたわけでもありませんが、自身の感覚……そして、彼女の表情を見れば分からないはずもありません。今回も、抑え切れなかったのだと。彼女の顔がぐっと近づいてきたあの時、恋人に対し決して浮かべてはならない類の表情を、今回も抑え切れなかったのだと。




『――それでは、ちょっとした契約をしませんか?』


 一ヶ月ほど前、空き教室にて掛けられた問い。……全く、未だに驚愕ものです。僕が女性嫌いだと知っていながら、あのような提案を切り出すなんて。


 ともあれ、最終的に彼女の提案を承諾し交際を始めることに。あのご様子だと、僕が承諾するまで引いてくれなかったでしょうし……それに、ここでお断りするよりも、この交際により僕に幻滅して頂いた方が彼女自身の未練も残らないと考えたからで。



 ですが、思いも寄らなかったのは――僕自身戸惑うほどに、彼女との時間が楽しかったこと。尤も、交際経験などないので他の方との比較は出来ませんし、そもそもすべきでないのかもしれませんが……それでも、彼女以外であればきっとこのように感じなかったと思ってしまうのは避けられなくて。


 ……いったい、どうしてでしょう? 綺麗だから、明るいから、優しいから……確かに、それらは全て事実です。ですが……それらの事実が、彼女といる時に生じるこの不思議な感覚にどれほどの繋がりがあるのかは定かでなくて。



 ……ですが、そこに関してはひとまず措いておくべきでしょう。何故なら、大切なのは言わずもがな、僕個人の疑問に答えを出すことなどではなく――



「……このままで、良いのでしょうか」



 そう、再度呟く。交際からおよそ一ヶ月――彼女との契約は、あと二ヶ月ほど残っています。そして、約束した以上はきっちり果たすのが道理ですし、僕自身その所存でした。……ですが――


 ……今更ながら、このままで良いのでしょうか? このままこの契約を――この関係を続けていて、本当に良いのでしょうか? このままでは、ますます彼女を傷つけてしまうだけ。ならば、いっそのこと――





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