思わぬ申し出?
「――ありがとうございます、八雲さん。今日も、本当に楽しかったです」
「ふふっ、そう言っていただけて嬉しいです、外崎先輩。こちらこそ、本当に楽しかったです」
それから、数十分後。
玄関にて、いつもの柔らかな微笑でそう告げてくださる外崎先輩。正直、私としてはまだまだもの足りない気持ちはあるのですが……もう、外はすっかり黄昏色。遅くまで他人様の家に残ることを良しとしない人ですからね、先輩は。
もちろん、それが他人様に迷惑を掛けないようにという彼の配慮であることは重々承知しているのですが……ですが、こちらとしては何一つとして迷惑などないのですけどね。それこそ、泊まっていってくださっても……まあ、流石に言いませんけどね。警戒されたり――ましてや、嫌われたりしてしまった日には生きていける気がしないですし。
……ところで、それはそれとして――
「……あの、外崎先輩、その……」
「ん、どうかしましたか八雲さん」
「……あ、いえ、その……その、お気をつけて帰ってくださいね!」
「……はい、ありがとうございます八雲さん」
何ともたどたどしくそう伝えると、仄かに微笑み謝意を告げる外崎先輩。……いったい、何を言おうと……いえ、何をしようとしたのでしょう、私は。そんな困惑の中、伸ばしかけた手をそっと戻し――
「……その、八雲さん。その、もし宜しければ……今度は、僕の家に来ませんか?」
「…………へっ?」