カラオケデート?
「……あの、八雲さん。僕、あまりこういうのは得意ではな……いえ、率直に申しますと苦手でして」
「ふふっ、可愛いですね外崎先輩。ですが、お気になさらず。例え下手であっても、私は決して笑ったりしませんから」
それから、一週間ほど経た七月上旬。
そう、些か躊躇いがちな様子でお話しする外崎先輩。ふふっ、これは意外な弱点です。ですが、もちろん笑ったりなど致しません。誰にでも苦手なことはあるものです。
さて、そんな私達がいるのは――きっと学生ご用達とも言えようレジャー施設、カラオケの一室です。
さて、事の経緯はと言いますと――
『――へっ? 本日はお休みなのですか? それでは、是非とも遊びに行きましょう!』
放課後、顧問の先生の急用により急遽部活動がお休みになったと聞き私が申し上げた言葉です。すると、最初は難色を示していたものの、すぐさま承諾の意を示してくれた外崎先輩。……いや、出来れば難色自体示さないで頂けると。一応、貴方の恋人ですよね? 私。
ともあれ、それでは何処に行こうかという話になり、最終的に今から一番行きやすそうなカラオケにという結論に落ち着きまして……うん、敢えて説明するほどでもなかったですね。
「さて、どちらから歌います? まあ、恐らく私からになるとは思いますが」
「……えっと、もし差し支えなければ僕からでも宜しいですか? その方が、多少なりとも緊張が軽減されると思うので」
「おや、意外な返答。ですが、もちろん私は構いませんよ。仰ることも理解できますし」
「……ありがとうございます、八雲さん」
その後、彼の意外な返答に少し驚きつつ承諾の意を示す私。ですが、仰ることは理解できます。後に歌うとなると、先の方――ここでは、私が歌っている間もずっと緊張が解けないということになりますし。それも、私が上手ければ尚のこと。
ならば、せめて先に歌っておけば、その分だけでも早く緊張から解放されると考えるのは何ら不思議のないこと。……まあ、それなら歌うこと自体を拒否しても良さそうなものですが……でも、拒否を選ばない辺りは何とも真面目な彼らしいと言いますか。
「…………あの、外崎先輩」
「はい、どうかなさいましたか八雲さん」
それから、10分ほど経て。
ぷるぷる震える私の呼び掛けに、きょとんと首を傾げ応じる外崎先輩。……うん、本当に何も分かっていない表情です。まあ、そういうところも可愛いのです。可愛いのですけども――
「――いやめっちゃ上手いじゃないですか!!」
「…………へっ? 僕が、ですか……?」
「うん、何が驚きって、嫌味でも何でもなく本気で仰っていることが明瞭に伝わることなんですよね」
思いも寄らないと言わんばかりの先輩の反応に、少し呆れつつ答える私。まあ、先輩らしいといえばらしいのですが。
「……あの、実は先輩、度々カラオケに赴いていたりします? さながら武者修行のごとく」
「……いや、カラオケを武者修行で利用する人は相当な希少種かと。ですが、そうですね……もう小学生の頃になりますが、本当に歌が大好きな友人がいて、よく一緒に歌った覚えがありますので多少は彼女の影響もあるのかと」
「…………そう、ですか」
ともあれ、私の問いに少し呆れたように微笑み答える外崎先輩。……いや、呆れてるのはこちらもですよ? その程度の理由で説明がつくような歌唱力じゃないですからね? あれ。……ですが、それはそれとして――
「……お上手ですね、八雲さん」
「……うん、本心で言ってくださっているのは伝わるのですが、先ほどのを聞いた後では多少なりとも複雑ですね。……ですが、ありがとうございますっ」
それから、10分ほど経て。
あまりの衝撃に曲を入れ忘れていて、さてどうしようかと頭を悩ませ最終的に私の十八番――2000年代にヒットした王道ラブソングを歌った後のやり取りです。多少なりとも複雑ではありますが……それでも、お世辞でなく本心で言ってくださっていることは間違いないでしょう。歌唱中にちらちら確認したところ、私の歌唱に聴き入ってくれていたことは十二分に伝わりましたし。
「それでは、次は一緒に歌いましょう。デュエット曲で何かご存知のものはありますか?」
「……そう、ですね。少し昔の曲にはなるのですが、お気に入りの――」
その後、デュエットしたり採点勝負をしたりと楽しい時間を過ごした私。ふぅ、歌いすぎて筋肉痛になりそうです。