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「…………さて」



 地元の公立校、律明りつめい高校――その四階に在する一年二組の教室にて。


 梅雨時の、ある放課後のこと。

 鬱々とした天気とは対照的に、晴れやかな様子で談笑を交わす複数の男女生徒達。そんな彼らを横目に、帰り支度をしつつポツリと呟く私。もちろん、そんな私の声を聞いている人などいなくて。


 まあ、かと言って何の差し支えもないのですが。ただの独り言ですし、むしろ聞こえていた方が少し恥ずかしいくらいです。まあ、それはともあれ――


 

「――では、参りましょうか」



 ――それから、数分ほど経て。


「…………さて」


 そう、呼吸を整え呟く。そんな私がいるのは、三階の隅に在する空き教室。現在は使用されていないため、本来なら誰もいないはずの教室です。ですが――


「――失礼します」


 そう、恭しく一礼し開扉。それから、ややあって顔を上げると、そこはお世辞にも整頓されているとは言い難い乱雑な空間。まあ、現在いまは使用されていないわけですしね。少し片付けたい気もしなくはないですが、恐らくそこまでの時間は――



「……すみません、お待たせしました――八雲やくもさん」


 すると、私の思考に答えるようなタイミングで届いた声。こちらとしては、もう幾度か聞いた柔らかな声。ともあれ、ゆっくりとその方向――開いた扉の方へと視線を移し、


「――いえ、どうかお気になさらず。そもそも、ご用事のある先輩を私が突然お呼びしたのです。こちらに不服を申す道理などありませんし」

「……そう、かもしれませんね」


 そう伝えると、些か困惑したような表情で答える秀麗な男性。彼は外崎とざき玲里れいり――少しウェーブのかかった栗色の髪を纏う、三年四組の男子生徒です。


「……それで、僕にどのようなご用でしょう?」


 すると、ややあってそう問い掛ける外崎先輩。表情こそ穏やかなものの、その声音から判ずるに些か急いでいるご様子。恐らくは、部活のことを気に掛けているのでしょう。なので、少しでも彼の時間を奪わぬよう、こちらもさっそく本題へと入ります。



「――初めまして、外崎先輩。私は一年二組、八雲李星(りせ)と申します。もし宜しければ、私とお付き合いしませんか?」



 そう尋ねると、口を真一文字に結び私をじっと見つめる外崎先輩。突然の……それも、まだ入学ほどない後輩からの告白に、声も出ないほどに驚いて――と言ったご様子ではなく。


「……ありがとうございます、八雲さん。お気持ちは嬉しいです。ですが……ひょっとして、あの噂についてご存知ないのでしょうか?」


 すると、ややあってそう問い掛ける外崎先輩。その表情からは私に対する申し訳なさを窺えつつも、何処か怪訝を孕んでいるようにも映ります。……まあ、それもそうでしょう。彼の思い上がりなどではなく、『あの噂』は校内――それも、まだ入学ほどない一年生にまで浸透しています。然らば、彼に想いを寄せる私のような生徒が『それ』を存じないというのは、些か現実的ではないでしょうし。


 ともあれ――彼の疑念に答えるべく、再び徐に口を開き言葉を紡ぎます。



「……ええ、もちろん存じ上げております。貴方が、極度の女性嫌いだというお噂は」

 



 

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