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86.ベニちゃんのお友達?

今日は土曜日、朝の気持ちいい風が窓から吹き込んでくる。

「ふうぅ、気持ちいいなぁ」

ソファに座りながら温かいお茶を飲んでいる。ベランダでは霞が丁寧に花に水やりをしていた。

「シロちゃん、ベニちゃん、おはようございます。朝のご飯の時間ですよ」

霞はお花に水をあげている時、自然と笑顔になる。

(楽しそう、霞)

初めてあった頃に比べれば、ナギに対しても笑顔を見せるようにはなってきていた。だが、花に向ける自然で優しい笑顔とは違いまだ少しだけ遠慮のようなものがあった。

ナギはマグカップ片手に立ち上がり、水をあげている霞の元へと歩き出す。

「霞、どう?二人の様子は」

「はい、とっても元気いっぱいで……」

そう笑顔を見せるが、言葉は尻すぼみになっていく。

「どうしたの?」

「実は、ベニちゃんがなんだか元気がないような気がして……」

心配そうに、霞はベニちゃんの方を見る。確かに少しずつ伸びてはきているものの、なんだか葉っぱに元気が感じられない。

「そっか……。それは心配だね」

「………」

霞は何かを隠すように上唇で下唇を覆った。

「……霞、何か気になることがあるの?」

霞は目を見開き驚いた後、小さく呟いた。

「実は、その……。私がベニちゃんに酷いことをしてしまったかもしれません」

「えっ、どういうこと?」

予想外の返答にナギも驚いた。霞はベニちゃんと暇さえあれば話をしたり、植物の本を読んではどうやってあげるのかが良いのかを真剣に考えている。

「どうしてそう思うの?」

「……これです」

霞は一枚の葉っぱを持つ。そこには少しだけ齧られたような葉っぱがあった。

「これがどうしたの?」

「えっと、何日か前のことなんですが」


♢♢♢

ナギが学校にいる間、霞は午後の水やりをしていた。

「シロちゃん、ベニちゃん。ご飯の時間です」

にっこりと笑ってジョウロでいつも通り丁寧に水をかけていた。その時、

「ん?………わわっ!」

ベニちゃんの葉っぱの近くに、青虫が。青虫はのっそり登りベニちゃんの葉っぱを齧っていた。

「何をしているんですか、ベニちゃんから離れてください!」

霞は声をあげるが、もちろん青虫は退くはずもなく。むしゃむしゃと葉っぱを少しずつ齧っていく。

「あぁ……。やめてください。……それならこっちにも考えがあります!」

霞は勢いよく部屋の中に戻り、空のペットボトルと割り箸を取ってきた。そして、青虫を割り箸で慎重に掴んでペットボトルの中に入れた。

「よし、これで大丈夫です。ベニちゃんの葉っぱを勝手に食べるなんて本当に許しません」

ペットボトルの中の青虫にそういうと、霞は外の植え込みの前に青虫を放した。

♢♢♢


「ということがあったんです」

話を聞きおわったナギは困惑した。

「えっと……それでベニちゃんが元気がないっていうのは。ちょっと齧られてるけどこれくらいなら多分大丈夫だと思うよ」

ナギは霞の方を見て優しく微笑む。霞は首を横に振った。

「違うんです。もしかすると、青虫はベニちゃんのお友達だったのかもしれません」

「へっ?」

ナギは意味が理解できなかった。霞は真剣な顔で続ける。

「よく考えると、少し時間が経っているのに今まで青虫は葉っぱを食べていませんでした。もしかしたらベニちゃんは優しいので葉っぱを分けてあげたのかもしれません」

「うーん、えっと……」

ナギは話を聞けば聞くほどに意味がわからなかった。

「それなのに私が勝手に勘違いしてベニちゃんからお友達を離してしまったのかもしれないと思って。あの日からなんだかベニちゃん元気がなくて」

また暗い顔をする霞。あまり意味はよくはわからないが、とにかく霞はベニちゃんが心配で落ち込んでいるようだ。

「ベニちゃんの大切なお友達。いなくなったらきっと寂しいんだと思います」

霞の中では友達、大切な仲間と自分の都合で勝手に離してしまったことに対して悪気を感じていた。

「大丈夫だよ、霞。葉っぱをたくさん食べられちゃったらベニちゃんだって大きくなれないし」

霞がゆっくりとナギの方を見る。

「それに、ここにある葉っぱだけじゃ青虫さんもご飯が足りないから。霞は植え込みに連れて行ったんでしょ?投げ飛ばしたりしないで」

霞は小さく頷いた。

「はい。なんとなくそうした方が良いと思ったので」

「だったら大丈夫だよ、きっと。ベニちゃんが元気がないのは今年はいつもより暑い日が続いているからだと思うよ」

「そうなんですね……確かにお昼は日差しも強すぎるくらいです」

霞は少し納得がいったのかさっきよりは元気な顔になった。

「ありがとうございますナギ。なんだか安心しました」

「霞が元気になってよかったよ」

二人は笑い合うと霞はまたジョウロで水をかける。

「今日も暑いので、少しだけ多めにお水をあげますね」

その横顔は、子どもを見る母親のような優しい笑顔だった。

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