83.2セット目
2セット目が始まる。アリサとマオはスターティングメンバーじゃない。こちらと同じで、セットごとにメンバーを入れ替える方式のようだ。
「よし!みんな行くよ」
サツキが明るい声と共にサーブを打つ。勢いよくコートの隅へと向かっていく。
「オーライ、オーライ」
相手はいとも簡単に拾い上げて、こちらへと綺麗なスパイクが飛んでくる。
「任せて」
上手く合わせて拾い上げる。そしてサツキがスパイクを決めて1点をもぎ取る。
「やった!」
「ナイス!サツキ」
サツキがガッツポーズをしてみんなは大盛り上がり。サツキの心には絶対にこのセットは落とさないという強い決意があった。
一進一退の攻防が続く。3組はサツキを初めとした運動部のメンバーが中心に決める。ナギをはじめとした運動の苦手なメンバーはレシーブで貢献していた。
そして、スコアは14対14に。
今回のルールではタイブレークはなく、15点先取。ここをとったクラスが2セット目を取ることになる。3組が落とせば試合終了。3組チームは焦りが生まれていた。
「こことっていこう!一本集中」
ゆいちゃんがコート脇から声を上げる。ゆいちゃんの声に続けて他のクラスメイトも声を上げる。
「そうだそうだ、まだいけるよ」
「繋いでこー!」
その声に、コートに立つメンバーたちは励まされる。
「よし、みんな決めていくよ!」
6組のサーブが飛んでくる。トスをあげ、サツキがスパイクを打つ。
「いっけぇ!」
6組は拾い上げてスパイクを返す。伸ばした手の小指がブロックに当たり、予想外の方へと飛んでいきそうになったのを慌ててフォローしてもう一度触ってしまう。そのせいで余計に変な方向へと飛んで行った。
「やばい……!」
試合を見ている誰しもがそう思った。
「まだ、終わらせない……!」
サツキが全力で走りボールに追いついた。チームの方を見る。スパイクを打てるメンバーはブロックで体勢を崩している。対して向こうは体勢が整っている。普通に返したら速攻で決められてしまうかもしれない。
(どうしよう、普通に返したらやばいかも。でも、スパイク打てるような体勢の子は……)
サツキは頭を回すが、いい打開策がない。
「サツキ……」
ナギは少し遠くで、サツキが考えていることがなんとなくわかった。でも、運動の苦手な自分にはどうしようもない。その時、ナギはあることを思い出した。
♢♢♢
「あはは。じゃあ、エースアタッカーは任せたよ。やばい時はナギに上げれば大丈夫だと思っとこーっと」
♢♢♢
サツキが冗談混じりに交わした会話。ナギは決意してぎゅっと拳を握り前へと走り出した。
「サツキ!!!」
ナギは大きな声で名前を呼ぶ。サツキはその声に反応する。ナギの決意の眼差しを見て、サツキはふっと笑う。
「決めなきゃ負けだもんね……。見せてやってエースアタッカーさん!」
サツキは思いっきり打ち上げ、直線に近い球筋でネットの方向へと飛んでいく。
「大丈夫、もののけとの戦いに比べたら……これくらいできる!」
ナギはその軌道に合わせて踏切り、高く飛ぶ。綺麗な姿勢で飛ぶナギにみんなの視線が集まる。綺麗に舞い上がるナギが、常世の世界で装束を纏い戦う姿と重なって見えていた。
「嘘……。佐倉さんあんなに動けるの?」
ゆいちゃんが驚き感嘆の声が漏れる。
「決めるよ!」
ナギはその姿勢から鋭いスパイクを繰り出す。相手はスパイクを打てるメンバーはいないとどこかで油断していた。その心の隙をナギのスパイクが貫いた。
ピピー
ホイッスルが鳴り響き、3組が2セット目を取った。
「やったー!」
「ナギすごいよ」
喜ぶナギに一番にサツキが駆けつけて大袈裟に頭をわしゃわしゃする。
「痛いよ、サツキ」
そういうナギの顔は笑顔だった。次々にクラスが集まりナギの元に。
「佐倉さんかっこよかった!」
「ほんと、あんなにできるなんてすごいよ」
ナギはスポーツで初めてこんなにもみんなの役に立てたことが嬉しくてしょうがなかった。
「3セット目、勝とうね!」
ナギが中心で拳を突き上げた。