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7.ナギの使命、霞の使命

「ここが私の部屋だよ、入って 」

「失礼します 」


玄関で靴を脱ぎ部屋へと入る。少し広めのダイニングキッチンとリビング、ちょっとしたベランダもついている。


「とりあえずここに座って!ちょっと着替えてくるから 」

「承知いたしました 」


霞は言われるがままにソファに座り、姿勢良くナギを待っていた。


「お待たせ 」


ナギはゆったりとした部屋着に着替えてやってきた。


「部屋を案内するね。えーっと、とりあえずこの辺が、私の洋服とか勉強道具とかを置いてある場所!私はこのベッドで寝てる!あとは、霞が座っているところがゆっくりくつろぐ場所だよ!あとは、お風呂とトイレと…… 」


ナギが色々と説明をしてくれているので霞は耳を傾けつつも、見慣れないものが多く、興味を惹かれて霞は目を奪われていた。


「と、まぁ……自分のお家だと思ってくつろいで!」

「……はい。ありがとうございます 」


霞は少し慌てて立ち上がり丁寧にお辞儀をした。霞は再びソファへ腰をおろし話を始めた。


「では、私の方からも時間が遅いので手短に説明を 」


着物の襟元に手を入れ、少し年季の入った小さな木の箱のようなものを取り出し、机に置いた。


「これは?」

「手を翳してもらえませんか?」

「うん 」


机の上に置かれた箱にナギが手を翳すと箱は光りを放ち、ナギはその光の中へと吸い込まれた。




ナギが目を開けると広々とした道場のような光景が広がっていた。天井も高く、床は綺麗に磨き上げられた木材が敷き詰められている。


「ここは…?」

「ここは私たちを生み出した女神様が作った、私たちが鍛錬をするための道場です 」

「道場……。すごい広い。扉もあるけどこれ、外にも行けるの?」

「はい。より広い場所での鍛錬も可能です 」


扉を開けると、何もない草原がどこまでも広がっていた。


「改めて、主人。これから主人はもののけと戦うことになります。そのための鍛錬の場として自由にお使いください 」

「う、うん 」


ナギは扉を閉めながら頷いた。


「先程は成り行き上、いきなり本番で使用しましたが、他にもいくつかの私の習得している技を伝えたいので 」


霞は壁に立てかけてある4本あるうちの1つの竹刀を手に取りながら言った。


「……わかった。ねぇ、もののけってまたやってくるんだよね?」


ナギは扉を背にして、ぎこちない笑顔で聞いた。


「はい 」


傍に竹刀を携えたまま、霞はゆっくりと頷いた。


「夕刻、現世の力が弱まる時間帯に少しずつ世界を蝕み、影響を与えます。なので、そういう場所が現れた際にそこへ赴き、今日同様にもののけを打ち倒して欲しいのです 」


ナギは瞳を揺らしながら、消え入りそうな声で呟いた。


「……それって、いつまで続くの?」


ナギの不安そうな声に、霞は申し訳なさそうに眉を顰めて答える。


「……正直に申しますと、わかりません 」

「わから……ない?」


ナギの声はうわずり、表情はまた硬直していた。


「えっ?それってじゃあ、ずっと私は…… 」


ナギの不安は胸の中でどんどん膨れ上がり、それを伝えるように声は震えていた。


「い、いえ。全てのもののけを生み出す根源である邪鬼を倒せば止めることができます。……以前、倒したんですが、なぜか、復活をしてしまったようで 」


ナギを少しでも落ち着かせるために霞は慌てて説明を補足した。


「邪鬼……。そのもののけってすごく強いんだよね」

「はい。以前倒した時もギリギリでしたから。それに、あの時は……」


どこか遠い方を見ているようなその瞳の奥には、またどこかもの寂しさを感じさせる。


「あの、時は……?」


霞の含みのある言い方が、ナギは引っかかった。


「……いえ、すみません。何でもありません。もののけを打ち倒していけばきっと、邪鬼の尻尾も掴めてくるでしょう。ですから……それまで…… 」


霞はそこまで言うと再び黙ってしまった。霞には薄々わかっていた。ここまで話している時に明らかにナギの顔は曇り、体は震えていたのだ。ナギは心の奥が果ての見えない恐怖に冷たく締め付けられるようだった。


「申し訳ありません。主人一人に、重い使命を背負わせてしまって 」

「どうして、霞が謝るの?霞はむしろ私達の世界を守るためにきてたくれたんでしょ?」


ナギは不安を隠すように、またぎこちない笑顔を作った。


「大丈夫。私……頑張るから!少し不安で怖いけど……霞がいてくれるんだよね?」

「……はい。この身が滅びようとも、主人を守り抜いてみせますので、私を使ってください 」


霞の心強い言葉にナギは少しだけ肩の力が抜けて、笑顔に柔らかさが戻った。


「ありがとう。……私も強くなるためにいっぱい修行しなきゃね!霞に頼ってばっかじゃだめだもん」


ナギは力強く決意して何度か頷く。

ナギのその言葉が霞にとってはなんだか少しだけ嬉しかった。


「それでは戻りましょうか?」

「うん。戻ろっか! 」


少しだけ明るい空気になったところで、二人は道場を後にして部屋へ帰っていった。

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