77.開会式
体育館にほとんどの生徒が集まり、いよいよ開会式が始まった。
「えー、みなさんは今日という日を楽しみにしていた方も……」
マイクを叩いて音を確認し長々とした校長先生の挨拶から始まる。今日はなぜかみんなは背筋を伸ばしてしっかりと話を聞いているようだった。それは、今日ばかりは校長先生もみんなに楽しんでほしいようで堅苦しい挨拶ではなく軽快な挨拶をしていたからだ。
「クラスの団結を、見せてください!」
校長先生が挨拶の締めでそういうと、体育館中から万雷の拍手が鳴り響いた。
一方、舞台袖では生徒会と放送委員の面々が忙しなく動き回っていた。
「あー校長先生、またマイク叩いてるよ。マイクによくないからあれやめてって言ってるのに」
放送委員が校長先生の挨拶を見ながら嘆いている。その横でマオは何度も深呼吸をしながら、挨拶の文章の台本を繰り返し読んでいた。
「みなさんの……活躍と……うぅ、どうしようやっぱり緊張する」
マオは四つ折りのシワがついたA4用紙の台本を胸の前で抱えていた。
「マオ、大丈夫?」
ゆっくりとアリサの横に立ち、心配そうにアリサが声をかける。
「マオなら大丈夫だよ。落ちついて」
「ありがとう、アリサ。でもやっぱり緊張するよ」
「ふふっ。もし忘れちゃったらアドリブでマオが言いたいようにやったらいいから」
アリサが優しく微笑み、軽くウインクをする。
「ふふふ、そうだねアリサ。でもそっちの方が緊張しちゃうからやっぱり私はこっちをしっかりやるよ」
左手で台本を軽く上に上げる仕草をして笑うマオ。緊張が少しだけ軽くなったようだった。
「続いては、生徒会長の挨拶です。五十嵐マオさんお願いします」
「ふーー。じゃあ行ってきます」
司会の放送委員に呼ばれ、マオは舞台へと少しぎこちない足取りで向かった。
「ファイト」
「五十嵐さん落ち着いてね」
アリサや他の生徒会メンバーもマオのことを応援する。その声を後ろに聞きながらマオは舞台の中央に立った。
「こほん、みなさん今日は―――」
"きぃぃぃーーん"
マオが挨拶をはじめた途端、マイクがハウリングを起こし、耳をつくような高い音が鳴り響いた。座っている生徒たちはその音に耳を塞ぐ。
「あ、あのーー」
何かを話すたびにハウリングを起こすマイク。マオはあたふたとキョロキョロしてしまい、その様子を見て生徒たちからぽつりぽつりと笑いが起こっていった。
(ど、どうしよう。また失敗しちゃった)
頬を赤くして下を向き落ち込んでしまうマオ。せっかく覚えた挨拶の文も頭の中から飛んでしまった。
チラリと舞台袖に目をやると、アリサが拳を胸の前に握り、強く温かい眼差しでマオの方を真っ直ぐに見ていた。
(大丈夫、落ち着いてマオ)
「アリサ……」
放送委員が別のマイクを教壇に設置した。
「ふぅ……」
マオは息を吐く。心を落ち着かせるために。
「みなさんこんにちは、生徒会長の五十嵐マオです。今日は球技大会です。クラスのみんなと放課後特訓をしていたり、チームの団結力は一層強まったと思います。その成果を今日は遺憾無く発揮し……」
マオが一つ一つ言葉を紡いでいく、いつの間にかマオの言葉に自然と全員が耳を傾けていく。
「そして……何より、今日は目一杯、いーっぱい楽しんでいきましょう。全力で勝利を目指して!」
マオが挨拶を終えて一礼をすると、拍手の渦に包まれた。マオは充実感に満ちて舞台袖へと帰っていった。
「お疲れ、マオ」
静かな微笑みでアリサが労う。
「ありがとう!結構上手くできたよね」
「うん。完璧。てゆーか、途中からアドリブだったでしょ?」
「えへへ。バレた?」
マオが照れくさそうに頬をかいた。すると、周りにいた生徒会のメンバーが驚いていた。
「えーすごい。台本見てもよかったのに」
生徒会メンバーの誰かがそう言う。
「だって、挨拶はしっかり前を見てやりたいから」
マオが当然とばかりに笑っていうと、アリサはふふふと笑った。
「マオらしくて、流石だね」
「えへへ」
「続いては、生徒会副会長雪村アリサさんによるルール説明です」
司会の声が聞こえてアリサは舞台の方へと歩いていく。
「それじゃ、行ってくるね」
「うん、頑張って」
アリサは真っ直ぐと背筋を伸ばし、凛々しく堂々と舞台へと向かって行った。