76.球技大会
気持ちの良い朝、ナギはいつもと同じように朝の支度をする。いつもと違うのは制服ではなく学校指定のジャージを着ていることだ。
今日はいよいよ球技大会当日。ナギは緊張とワクワク両方を含んだ顔をしてトーストを頬張っている。
「ナギ、いよいよ今日は球技大会の日ですね!」
「うん。ちょっと緊張してきたなぁ」
霞が笑いかけるとナギも頬を緩ませた。
「大丈夫です。いっぱい練習をしていましたし、ナギだって毎日もののけと戦っているんです。きっと成長しています。それにいざとなればサツキちゃんも一緒にいるんですから」
「ありがとう。うん、私頑張るね」
霞の優しい応援にナギも自信のようなものが生まれた。クラスのみんな、そしてサツキ。チームメイトと協力すればきっと優勝できる。
「よし、そろそろ行ってくるね!」
ナギは朝食を終えると、立ち上がり流しの方に食器を置き玄関へ。
「では、いってらっしゃい」
霞が丁寧に一礼をしてナギを送り出す。
「うん、行ってきまーす!」
ナギは明るく玄関の扉を開けて小走りで出て行った。
「……さて、私は私のやることを頑張らねば」
霞は食器洗いと、シロちゃんたちへの水やりを済ませて道場へと向かった。
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少し暖かくも気持ちのいい風が吹く通学路を歩き、学校へと向かう。ナギと同じジャージを着て歩いている人も多い。これは2年生だ。全員の表情から同じように今日という日を待ち望んでいるような期待と高揚を感じる。今日は2年生が球技大会をして、1年生は来週行われる。そのため、制服で歩いている人は1年生か3年生だ。
「ナギーー!おはよう!」
後ろからいつも以上に明るい、サツキの声が近づいてくる。横に並ぶとナギと同じ速度で歩きはじめた。
「おはよう!サツキ。ふふっ、なんだかテンション高いね」
「当たり前でしょ。今日はぜっったい優勝するよ」
サツキからメラメラと闘志を感じる。いつも以上に気合いが入っているようだ。
「私も、できる限り頑張るよ!」
「うん。ナギも大分動きよくなってきてるから頼りにしてるよ」
サツキがイタズラっぽくウインクをする。ナギも自然と笑顔になる。
前までのナギならスポーツは苦手で足を引っ張らないように頑張るのに精一杯だった。だが、今はもののけと戦い、霞とも毎日鍛錬をしていることで、ナギ自身の体力や運動神経自体も少しずつ成長していた。サツキのようにとまでは行かなくても多少なりと戦力になれると自分の中で小さな自信が芽ばえていたのだ。
「よーし、絶対優勝しようね!」
「おぉーー!」
二人は自然と駆け足で学校へと急いだ。
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校門をくぐり、体育館につくとクラスの何人かはもうすでに列を作って座っていた。
「やっほー、おはようゆいちゃん」
「おはよう、サツキ、ナギ」
列の後ろの方に並んでいたゆいちゃんに声をかけると、声を弾ませて返事をする。ゆいちゃんもまたチームの中心として今日という日を楽しみにしていた。
「今日は、絶対に優勝しよう」
「うん。ゆいちゃん、頼んだよ。うちの得点はゆいちゃんのスパイクにかかっているんだから」
「任せて」
ゆいちゃんもぽんと胸を叩いた。やっぱり二人の波長はあっている。
「ま、サツキやみんなも頼りにしてるけどね」
横にいたナギのことをちらっと見る。ナギは一瞬驚いたが、ゆっくりと頷いた。
「私も、ボールたくさん拾えるように頑張るよ」
ナギの言葉にゆいちゃんはくしゃっと笑った。
それぞれのクラスの想いが重なる真剣勝負がもうすぐ幕を開ける。