75.明日は球技大会
二人は常世の世界でもののけと戦っていた。
「はぁぁ!」
ナギが力強く刀を振るい、次々ともののけを片づける。今日のもののけは比較的に小さく弱いものが多く、今の二人なら苦戦することなく戦うことができた。
「ほらほら、こっちだよ!」
サツキが挑発してイノシシのようなもののけの注意を引く。もののけはサツキの方へと向きを変えて突進の体勢に入った。
「よし、あれをやってみるよ!」
「しっかり決めなよ?」
「うん。"朧隠れの術"」
サツキはすっと息を吐き、さっきまでの大きな声で挑発していた様子からは考えられないほどの静けさを纏う。そして、みるみるうちに姿が見えなくなっていった。
「……?」
イノシシのもののけは戸惑い、姿を探すようにぐるぐる回っている。
「こっちだよ!」
揶揄うような明るい声と共に、サツキが上から飛びかかる。イノシシのもののけは身構えるのが遅れ、あえなくサツキの一閃と共に消えた。
「どうだ!」
「まぁ、悪くはないけど。もう少しそのはしゃぎようを抑えるのはできないかい?気配を消す意味がなだろ」
十六夜がため息と共に半ば呆れた声で言った。
「あはは、ついテンション上がっちゃって……」
サツキは頬を掻きながら照れ笑いを浮かべた。
影へと姿を忍ぶという点に置いては、サツキは少し苦手な部分だった。
二人は全てのもののけを倒した。刀を鞘へと納めて少しだけ力を抜く。
「ふぅ、終わったね」
「うん、今日は弱い奴らでよかった!」
ナギはほっと息を吐き、サツキは両手を上にあげ伸びをした。
「お疲れ様でした、二人とも」
「うん、霞もお疲れ」
霞が人の姿に戻り、笑みを浮かべながら一礼をした。比較的にもののけが弱く、早く片付いたことを霞も少し安心した。
「今日は早く終わってよかった」
「そうそう。明日はいよいよ球技大会だもんね。早く休んで備えないと」
サツキが腕を組み、うんうんと頷く。
クラス対抗の球技大会が、いよいよ明日行われる。二人もクラスのみんなも楽しみにしていた。
「ふふっ、二人とも明日は頑張ってくださいね」
「うん、ありがとう霞」
霞も、ナギが毎日楽しそうに学校を楽しんでいるのが嬉しかった。
「さて、そろそろ帰ろうか」
いつの間にか人の姿に戻っていた十六夜が言うと、ナギとサツキは暗い常世の世界から帰った。
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家へと戻ったナギは、夕ご飯を食べ終えると球技大会に向けていつもよりも早く眠りについた。
「ふふっ、よく眠っていますね」
ぐっすりと眠っているナギの顔を、霞は笑って見ていた。
「明日は、いい結果になるといいですね。ナギ」
ナギを起こさないように小さな声で呟いた。
霞も、食器洗いを終え今日はいつもより早めに眠ることにし、ソファへと腰を下ろす。最も、普段から霞はあまり夜更かしをするタイプではない。
「さて、私もそろそろ眠りま……」
霞は眠ろうとしたが、何かを思い出して立ち上がる。
「念のため、です」
ナギにバレないように、こっそりと道場へと向かっていった。