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74.みんなでいた場所

ナギと霞は少し走ってサツキの元へと着いた。

「どうしたの?サツキ」

「あっち行ってみようよ!」

サツキが指を指した先、10mくらい先に二つの小さな建物があった。

「ねぇねぇ、あそこなんなの十六夜」

「あー、あれは私たちが現世に来る前に住んでた家だよ」

十六夜は腕を組みながら、どこか懐かしそうな顔をしていた。

「えっ、そうなんだ。知らなかった……」

「じゃあ行ってみようよ」

「うん」

頷きあい、小走りで向かう。ふと、振り返ると霞は足を止めていた。

「霞……?どうしたの」

「い、いえ。行きましょう」

霞は少しぎこちない笑顔でナギと一緒に向かった。


近くに着き、家の前で足を止める4人。

「結構立派な建物だね」

道場よりは少しだけ小さいサイズだが、ナギ達の住んでいる部屋よりは大きかった。焦茶色のしっかりとした長板で作られている。引き戸になっている扉には無造作に何か色んな色で落書きされたように塗られている。

「みんなここに住んでいたの?」

「はい。懐かしいですね……」

霞も目を細めて昔を思い出していた。

「ねぇ、入ってみてもいい?」

「あぁ、いいよ」

サツキが引き戸をそーっと開けると中は少し埃っぽいものの綺麗にされていた。

「中も広いね!」

「ほんと……台所?もあるし」

台所と思われるところにはいくつかの食器。部屋の隅には布団が4つ。壁の方には長い机が立てかけられていた。

「ここではみんなで寝てただけじゃなくて、料理だったり洗濯だったり、現世の世界の生活について学んだりしていたんですよ」

霞は立てかけられた机を置いて、埃を軽く払った。

「へぇ……そうなんだ」

「でも、楽しそうだね。お友達みんなで過ごすなんてさ」

「はい……この部屋は楽しい思い出ばかりです。ここに集まった時はいつもみんなで笑っていました」

霞は部屋を見回して懐かしんでいた。その顔は嬉しそうで、どこか寂しげだった。


♢♢♢

「今日は朝までおしゃべりをするのです」

「いけません、雀。しっかりと夜は寝ないと、鍛錬に支障が出ますよ!」

「ほんと霞ってば、面白みがないわね」

「そうなのです!霞ちゃんは真面目すぎなのです」

「もう……!十六夜も何か言ってください」

「別にいいだろ、どうせ朝まで起きれやしないんだから、起きれるところまで話しさせとけば」

「十六夜ちゃんの言う通りなのです!」

「はぁ……わかりました」

はしゃいでおしゃべりを始めたもののすぐに十六夜の予想通り、すぐに寝息を立てていた。

「結局私がいつも最後じゃないか」


「食べるというのは楽しいですね」

「食べてばっかじゃなくて作ることも覚えてくれるかい」

「わ、分かっていますよ」

♢♢♢


霞の瞳が涙で濡れていた。思い出せば思い出すほどに、みんなとの日々は霞にとってかけがえのないものだった。

「霞……」

ナギも眉を顰めて霞を見ていた。十六夜が来てからは減ったものの、今でも霞は時々寂しそうな顔をする。

「ねぇねぇ、今度ここでお泊まり会しようよ!」

「「「へっ?」」」

突拍子もない無邪気な提案をしたサツキへと全員の視線が集まる。

「だって、ここ布団も4つあるし台所もあるでしょ?そしたら休みの日とかみんなで泊まったら楽しそうじゃん」

サツキは部屋のあちらこちらを指でさしながら楽しそうに説明する。ナギもその提案に賛同した。

「いいね!楽しそう」

「でしょでしょ?ここって使ってもいいよね、十六夜」

十六夜に近づき、子どものように笑う。十六夜はなんとなくその笑顔が面白いと思っている。

「いいんじゃないかい?どうせ今は使ってないんだ。霞もいいだろ?」

霞の方へと目線を送る。霞は寂しさを纏っていた表情が少しだけ綻んだ。

「はい。楽しそうです。今度ぜひやりましょう」

「やったー。じゃあじゃあ、今度計画立てようよ」

「うん、立てよ立てよ」

サツキはぴょんと跳ねながら喜んでいる。ナギも楽しそうに笑っている。みんなの中に流れていた寂しいムードが少しだけ明るくなっていった。霞は十六夜の横に近づいてそっと小さな声で耳打ちをした。

「本当に、サツキちゃんいつも元気ですね」

「あぁ。まぁ、はしゃぎすぎるところはあるけどね」

十六夜は苦笑いしているものの、どこか嬉しそうだ。

「ほら、はしゃぐのはいいけど今日は遅いんだ。帰るよ」

「はーい」

十六夜が子どもを公園から連れて帰るようにサツキを呼んだ。

みんなは家を出て扉を閉めた。

「ねぇ、あっちの建物は?」

外へ出ると、サツキはもう一つの建物を指差す。その瞬間に霞の顔は慌てた様子になった。

「あ、あれは。私たちの仲間が使う施設というか……何というか。えっと」

霞がしどろもどろ説明をする。不自然な程に止める霞のことを十六夜は不思議に思った。

「その子は道具などを触られると怒るので……い、今は……近づかないでください」

霞が矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。あの建物に近づけたくないのは誰が聞いても明らかだった。

「……そっか、分かった。あっちには近づかないようにしよう」

「うん、そだね」

必死な霞の態度は気にはなるが、気持ちを汲んでそのまま帰ることにした。

(霞、いつまで隠すつもりだい。葵の存在を)

十六夜はひっそりと心の中に不安を抱えるのだった。

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