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73.100m走

夕ご飯を終えて、ゆったりとした部屋着でナギとサツキは道場へと来ていた。

「で、ここが反語表現だから……」

「成る程。じゃあ、こっちが置き字ってこと?」

「あっ、そうじゃなくて……」

夕ご飯の後、案の定サツキから連絡があり、助けを求められて漢文の宿題を教えることになった。

「あーーー。もう全然わかんないよ。なんで漢文が国語に出るの……!」

サツキは自分の頭を両手でくしゃくしゃとする。

「そんな元も子もないこと言わないで。そもそも漢文っていうのはね……」

「いい、いい。言われても絶対わかんないから」

説明しようとするナギをサツキは大袈裟に手を振って遮る。申し訳ないが、関係ない情報が今頭に入るとキャパオーバーしそうだった。

「ふふっ。まぁ、あとちょっとだよ。頑張ろう」

「……うん。これはなんとか終わらせないと」

サツキはもう一度ノートへと向かう。


それから10分ほどして

「やったーー!終わったーー!」

両手を上にあげて後ろへと倒れ込むサツキ。課題から解放された。

「お疲れ、サツキ」

ノートを閉じて、そんなサツキの様子を優しい微笑みで見る。

「ナギも、いつもありがとね」

「どういたしまして」

サツキはひょいと起き上がり子どものように笑い返す。

二人がノートを片づけ始めていると、霞と十六夜がほとんど同時に道場にやってきた。

「二人とも、終わったようですね」

「うん、今終わったところだよ」

ナギはノートを抱えて立ち上がる。

「よし、十六夜!帰る前に勝負しよう」

サツキはノートを机に置いたまま立ち上がり、十六夜に人差し指を向ける。

「こんな時間からかい?」

「勉強で疲れたから、こう……ちょっと動きたい気分」

サツキはうずうずして体を震わせている。ちょっとした課題しかしていないが、サツキにとってはストレスだった。

「はぁ、仕方ないね。一回だけだよ」

「やったやった!」

サツキはおもちゃを買ってもらう子どものように小走りで道場の外に出る。十六夜はやれやれと肩をすくめながらついていく。

ナギと霞はそんな二人が可笑しくて顔を合わせて一緒に外へと出た。


サツキと十六夜は時々鍛錬の後、100m走で勝負をしていた。だが、サツキは十六夜に一度も勝てたことはない。十六夜はいつも全力で走るサツキを涼しい顔で追い抜いていく。

「今日は勝てるかな……」

「ふふっ、サツキちゃんも早いですが流石に十六夜には勝てませんよ」

「だよね……」

目の前でしっかりと準備運動をしているサツキと、欠伸をしながら立っている十六夜。なんとも気が抜けているが、十六夜の速さは本物だ。

「よーし、今日こそは勝つよ!"魔装"」

サツキはいつもの戦闘用の装束へと変わる。十六夜が相手の以上、魔力を帯びていなければ対等な戦いはできない。

「何秒か待ってやろうか?」

十六夜がにやりと挑発する。

「いらない。全力で勝たなきゃ意味ないもん」

腕を組みながら頬を膨らませる。サツキにはサツキの意地がある。

「ほら早く!」

「はいはい。わかったよ」

十六夜が気だるそうにスタート地点に立つ。サツキは片足を後ろに下げてスタンディングスタートの体勢をとった。

「じゃあ、二人とも準備はいい?」

ナギが二人の横に立ち、手を上にあげる。

「うん!」

「いつでもいいよ」

「じゃあ、いちについて……よーいドン!」

ナギの合図と共に二人は走り出した。サツキが勢いよく飛び出してリードをする。

「このまま勝つよ」

だが……

「悪いね、サツキ」

十六夜が涼しい顔でその横を簡単に追い抜いて行った。

「あぁ……!待って」

十六夜がゴールして、2秒後にサツキがゴールした。

「はぁはぁ、くぅ……悔しい!」

サツキが膝に手を置き、歯を食いしばって悔しがる。

「ま、仕方ないさ。私相手なんだからね」

十六夜は余裕の表情。

「よ、余裕こいていられるのも今のうちだよ。いつか絶対、ぜぇぇぇったい追い抜いてやるんだからね」

「はいはい。楽しみにしにしてるよ」

「なにその顔、ありえないって思ってるじゃん」

「そんなことはないさ」

サツキがムキになって怒っているのを十六夜はヘラヘラ笑って見ている。十六夜はそれだけ自分の速さは自信がある。負けるはずもない。こんな勝負も実際はほとんど意味がない。

ただーー

サツキとこうして真剣に勝負するのは十六夜にとっても少し楽しかった。


二人の様子をスタート地点から見ていたナギと霞。

「あの様子だと、十六夜ちゃんが勝ったのかな」

「そうですね、まぁ仕方がありません。十六夜はとても速いですから」

霞は腕を組んでまるで自分のことのように誇らしげに頷く。十六夜が負けるなんてことは万に一つもないと信じていた。

「でも、よかった。またサツキも楽しそうに走ってて」

ナギは目を細めて、十六夜と楽しそうに揉めているサツキの方を見ていた。

「……?」

霞は含んだ言い方をしているナギが気になった。

「それって……」

「おーい、ナギこっちきて!」

サツキが飛び跳ねながら手招きをしている。ナギと霞は顔を見合わせながら首を傾げて、サツキたちの方へと小走りで向かった。

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